1973年8月24日 木曜日 2:08
「――ジェイク!」
「エミー! ありがとう、ありがとう! 来てくれてありがとう……!」
「リリは……」
「集中治療室に。今、御両親とアンが順番で傍に行ったところ」
「よかった……」
「低血糖か、低血圧だって……よくわからない。でも今は息をしてる。生きてる。さっき医師が言ってた。脳波も落ち着いてるし、声をかけたら反応があるって。」
「……アルコールが駄目だったのかしら」
「いや、マシューもそれは気をつけていたよ。さっき電話で話したんだ。風味付け程度にしかジンを使ってないって。そのつもりでノンアルコールの炭酸を用意したって。中毒じゃないって。検査でも反応は出てない」
「じゃあ、いっぱい動いて、疲れ切ってしまったのね。わたしったら止めもせず……一緒にはしゃいで」
「いや、いや、エミー、見てただろ? リリは凄く楽しそうだった。笑ってた。……違う?」
「そうね、本当に! 本当に、楽しそうだった!」
「ありがとう、ありがとう。エミー。君が一緒に泣いてくれるから、僕は堪えられるよ」
「よくやってる、よくやってるわ、ジェイク!」
「ありがとう」
「……ねえ、わたしもリリに会える?」
「うん、ちょっとの時間だけなんだけど。ちゃんと呼吸してる。モニターの数値も安定してる。行ってやって」
「わかったわ」
「――エミーと交代して来たわ。……ねえ、リリ、起きるわよね? ジェイク、起きるわよね?」
「アン……それは僕にはわからないよ。お医者さんたちが、今も懸命に見てくれている。呼吸は落ち着いてるし、脈も安定してる。だから――まだ、可能性はある」
「だって、だって、あんなに元気だったじゃない! 皆で踊って、リリだって車椅子で。笑っていたし、サンドイッチだって美味しいって言ってた!」
「そうだね。……無理して、僕たちに合わせてくれてたのかもしれない。――本当に楽しそうだった。だから……僕は、信じたい」
「なによそれ! だって……リリは、オーストラリアに来て、良くなったんでしょう?」
「違うよ、アン。良くなんかなりっこない。リリは……ここで、すべてを終える覚悟で来たんだよ」
「そんなの、嘘よ! ねえ、小母様? リリ、凄く綺麗だったわよね、ドレスを着た姿!」
「そうね、アン。そうね……あんなに綺麗だった」
「やだあ! 泣かないでよ、小母様! ……ねえ小父様? リリと一緒に帰るでしょう? ねえ、帰りはいつにする? 来週?」
「アン、座って。――大丈夫、ちゃんと息をしてるよ。先生は、反応があるから、少し時間がかかるかもしれないけど意識は戻るかもしれないって言っていた」
「……本当に? じゃあ、やっぱ一緒に帰れるわよね?」
「アン。ありがとう。君がいてくれて良かった。一緒に来てくれて良かった」
「やだ、そんな言い方しないでよ……! ねえ、全部うまくいくんでしょう? リリ、きっと目を開けるんでしょう?」
「うん。――そう願ってる。私も、そう願っているんだ。……ずっと」




