1973年8月23日 木曜日 11:20
『やあ、こんにちは! 毎度おなじみのポールですよ! 記念すべき1973年の今日、このカップルのお陰で春が早く来たようだ。リリ、そしてジェイク! 新婦リリの美しさたるや、新郎ジェイクがこっちを見ないことでも証明済みだね。結婚してからプロポーズしたって? ボンダイビーチでリングを失くしたのかい? ――さあ、ガーデンパーティーだ! 準備はいいかな? 昔話は後にして、まずはマジックショーだ!』
――はあ、司会が入るなんて。しかも通行人も見られるのね。
なんだか、思ったより大掛かりなパーティーで、びっくり。
「びっくりさせたかったからさ」
まあ、お陰でパパとママの顔を見なくて済むわ。――うわっ、凄い、何もない所から花束! ……えっ、くださるの? ありがとう!
「……凄いわね、コメディアンのポールじゃない!」
ああ、エミー間に合ったのね、良かった。あらあ、そのパーティードレス、素敵ね!
「今日の為に新調しちゃったわ。こっちはボーイフレンドのベンよ、後で紹介するわ」
ハロー、ベン。……ええええ、燃えたのにカードが無事だわ!
「すごーい!」
……あら、アンの声が聞こえたわ。やっぱ居るのね。
「来ているからね。楽しんでくれているようで良かった」
ねえ、ちょっと待って? 今どうして穴が塞がったの? ナイフ刺したのに?
「マジックだからね。種も仕掛けもないよ」
すごーい!
『――凄いマジックだったね! 新郎、マジシャンに倣って新婦の心と視線をキープしろよ! さあ、休憩だ!』
……はあ、こんなに近くでマジックを観るの、初めてよ。本当に、仕掛けってわからないものねえ!
「――あっちで飲み物を作っているんだ。行こうか。……押すよ、車椅子」
……え? ――ええ? ちょっと!
「やあ、リリ。――俺を振り切れると思ったかい?」
やだあ、マシューってば! こんな所まで来ちゃったの?
「そりゃ、大事な大事なリリとサ……ジェイクの結婚を、祝いに来ないなんて理由はないだろ? 綺麗だよ、リリ。君の為のドレスだな」
「実は、君にバレないように、マシューに預けて、持って来てもらったんだよ。ドレスを」
そうだったのね! どうりで!
ありがとう、マシュー。お陰でこんなにおめかし出来たわ。
「最高だよ。今までで一番綺麗だ、リリ」
……やだあ、泣けちゃう。ありがとう。
「……何がいい? いつも通りでいいかい?」
うん。ありがとう。ジンリッキー、お願い。
「もちろん」
「……リリ?」
――ハイ、アン。こないだぶり。
「うん。こないだは、めちゃくちゃ怒ってたわね。ねえ、あたしが来て嫌だった?」
嫌か嫌じゃないかで聞かれたら、嫌よ。だって、何も言わずに来たつもりでいたんだもの。
「ねえ、まだ怒ってる?」
そうね。どちらかと言えばジェイクに。
「そうだろうとも」
「よかった! あたしに怒ってないならいいや! ……ねえ、軽食用意してあるって。あっちで食べない?」
……わかったわ。
――ハロー。パパ、ママ。
「リリ……綺麗だよ。ドレス、凄く似合っている」
ありがとう、パパ。
「……サンドイッチ食べる? ミートパスタは、ドレスに跳ねちゃうかしら」
そうね、サンドイッチをお願いできる、ママ?
「……。いざ向かい合うと、何て言ったらいいか、わからないな」
……黙っていた事は、謝るわ。
「そうしてくれ。……おまえなりに、私達の事を考えてそうしたのは、わかるけれどね」
ごめんなさい。パパ。ママ。
――全部聞いたんでしょう?
「聞いたよ。根掘り葉掘りすっかり。……だからもう、隠し事は無しにしてくれ」
わかったわ。
「ねえねえ、久しぶりに皆で集まったんだから、何かもっと楽しい話をしましょうよ! ねえ、小父様、小母様、こちらエミーとベンって言うんですって!」
「初めまして、エミー、ベン」
「リリがお世話になっていると聞いています、ありがとう」
「こちらこそ! リリとは楽しく過ごさせていただいています」
「もう、皆堅苦しいわねえ! パーティーなんだから、騒ぎましょうよ!」
「――ギターでも弾くかい?」
「あら、マシューさん、多芸ねえ! ぜひ!」
「誰の曲がいい?」
「ヴァン・モリソン! それにローリング・ストーン! エルトン・ジョン!」
「うははは、沢山だな! よし、じゃあエルトン・ジョンだ。歌ってやるから、踊れよ!」
「やった! ――ほら、サンドイッチは口に入れちゃって! リリ、踊るわよ!」
――ええ? ちょっ、やだあ、回らないで、目が回るわよ!
「――ガキの頃を思い出したら 俺は確かに青臭かった」
「ほら、ジェイクも!」
「――田舎でバンド組んで 川釣りして 何か徴がないかと探したりさ」
「あら、わたしたちも! ベン!」
「――君の街のネオンを見るまで 俺は盲目だったよ、ハニー」
「小父様と小母様も!」
――ほんっと、アンってば、どこまでもアンなのねえ!
「――戻ってこいよ ホンキー・キャット 森に帰るといい」
「お褒めに与りまして?」
褒めてないわよお?
「――いいや もう田舎なんてごめんだ」
「んーんー! 俺は生き方を変えたんだよ! あははは!」
Elton John - Honky Cat (Live At The Royal Festival Hall, London / 1972)
https://youtu.be/FfGhQOBJHFE?si=FqluOp3k5-fqt7Pc
歌詞和訳
https://neverendingmusic.blog.jp/archives/37468939.html
※作中で用いている文言は、自分で翻訳したものです




