1973年8月22日 水曜日 16:33
――ハイ、ハロー。
『……ハロー』
『ジェイクだよ』
知ってるわよ。
『あー、あのー』
『あのー、エミーに「ちゃんと電話しろ」って言われて』
でしょうね。
それで?
『あのさ』
『その……どうだった?』
何が?
『あのさ、今日の午前中に』
『……ああ、昨日の夜にも、花束を贈って』
綺麗だったわ。
リビングに飾っているわよ。
それで?
『そっか、良かった』
『あのー、それで』
『今朝、手紙と、もう一つ、贈って』
届いたわ。
『そっか、良かった』
『あのー』
『どう、だったかなって』
何が? 感想を言えって事?
『……うん』
『できれば、どう思ったかとか、聞きたいなって』
あなた、マシューと仲がいいのね。
『ああ、うん、そうだね』
『彼は、凄く気配り屋だから、僕にも良くしてくれている』
ハルストンの事なんて、あたし、一回しか言ったことないもの。
『うん』
『だから覚えてたって、教えてくれた』
『……君の趣味じゃなかったかな?』
いいえ、完璧にあたし好みよ。
去年、ニューベリー・ストリートのフィリンズで見掛けたの。
あ、素敵だわって思ったわ。
『じゃあ、気に入ってくれた?』
そうね、悪くないわ。
『良かった! じゃあ……』
『あの、明日なんだけどさ』
あたし、まだあんたの事、許したわけじゃないの。
『うん……ごめん』
勝手な事したわ。
『うん、うん……』
『謝る……ごめん』
パパとママ、何て言ってた? アンも。
『……御両親は、冷静に受け留めようとされている』
『アンは……状況を飲み込めていない』
『だから、君に会えるのを、楽しみにしている』
……そう。
あの子らしいわね。
『……明日、迎えに行っていいかい?』
『僕の、為だけではなく』
これで駄目って言ったら、あたしが悪者みたいじゃない。
『そんなつもりはないよ』
『もし気持ちが向かないなら、断ってくれたって構わない』
『そりゃ、あのドレスを着た君を、見たいのは山々だけれど』
そうね、着てもいいわ。
それに、せっかく着るなら、色んな人に見せたいわね。
『えっ、じゃあ!』
『えっ、いいんだね? リリ、いいかい?』
何度も言わせないで、気が変わっちゃうから。
『あっ、ごめん、ごめん! わかった!』
『じゃあ、10時半に、絶対に行くから!』
そう。
エミーに伝えておくわ。
『ありがとう、リリ、ありがとう!』
もう用事は済んだ? 切っていい?
『うん、うん、ありがとう、リリ』
『あの、手紙に書いた事は、本当だから』
ふん、何の事かしら。
いっぱい書いてあって、よくわからないわ。
『僕が、君を愛しているって事』
ふっ、そう。
知ってるわ。
じゃあね、切るわよ。
『えっ? リリ? ありがとう、リリ、あ――』
……あっははは。
あー、おかし……。




