表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから死ぬ女 √ もう死んだ男  作者: つこさん。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/37

1973年8月21日 火曜日 18:39

 ――ねえ、この、ソープオペラ、なんかすごいわね。


「すごい? そうねえ、アメリカではこういうのないの?」


 流石に、ゲイのキャラクターが主人公だなんて、あり得ないわ。ボストンでもまだ自分を隠している人の方が大半だもの。


「そうなのね。『ナンバー96』は、今シドニーで一番の話題作よ。去年からやってるの。今はシーズン2」


 オーストラリアって、進んでるのねえ! でも、ドンがゴシップされるの、観ていて痛々しいわ。ねえ、パディントンってこんなゴシップばっかり?


「あはは。あそこはめちゃくちゃオシャレな高級住宅街だけど、ここだけの話、ウワサ好きも集うわね。――ペパロニピザもどう?」


 半分だけちょうだい。――うわっ、ベヴったら、今度はプロデューサーと不倫なの? なんだか、男に利用されてる感じがして嫌ねえ! もっと自分を持って欲しいわ!


「本当よね。若い子たちはベヴに憧れるけれど、わたしはヴェラの方が好きよ。シングルマザーなんて、応援しちゃうわよね」


 そうね。まだまだ偏見が残っているもの。あ、アメリカの話だけど。オーストラリアはどう? こんな番組やるくらいだもの。女性やシングルマザーの権利に明るいんでしょう?


「あら、こっちも似たようなものだと思うわよ。去年ホイットラム首相がいろいろ法改正してくれて、やっと給料がマシになったって感じ。でもまだまだ、男性社会だわ。あら、ペパロニも美味しいわね」


 ほんと、美味しい。もうちょっともらおうかしら。……そうなのねえ。こんな番組を流せるくらいだから、進んでるんだと思っちゃったわ。どこの国も、ないものねだりね。


「そうね。わたしも、アメリカは、女の人たちがもう自由にやってるのかと思ってたわ。いつか、そんな時代が来るのかしらね」


 来るわよ、きっと。女性が大統領になることだってあるかもよ?

 あなたは、それを見届けてよね、エミー。


「……いつかしら? お婆ちゃんになる頃かしら?」


 かもね。


「……リリ。聞いていい?」


 なあに?


「……やっぱり、死ぬのは怖い?」


 うふふ。エミーってば、真っ直ぐ聞くのね。

 ――そうね。怖いわ。とても。……どうしようもないくらい。


「そう……」


 明日、目が覚めるかしらって思いながら眠るの。睡眠薬ももらっているけれど、飲める気分じゃないわ。

 そりゃ、眠ってるうちに……そのまま、っていうのが、一番楽かもしれないけどね。

 あたしには、あと何日、何時間残されているのかしらって、いつも考えている。


「わたしに……出来る事はある?」


 もう沢山してくれているわよ! ビッグマックに、ピザを食べながらオージー・ソープオペラ! 何も言わずに、いっしょに居てくれてる。

 あたしを、尊重してくれている。

 ジェイクみたいなお節介と違って!


「彼の気持ちもわかるから、責められない気持ちよ」


 わかりたくないわ! 何の為にここまで来たのかしら。まあ、あなたに会えた事はラッキーだと思っているわ、エミー。


「あら、ありがと! わたしもよ!」


 でもね、気が重いわ。静かに死のうと思ったのに。あたしは、自分の最後すら自分に決めさせてもらえないのね。


「ジェイクは……そうね、どう言ったらいいかしら。想像だけど。……彼は、あなたが一人で逝くことを、怖がってるんじゃないかと思うの」


 知らないわよ、そんな事。あたしは、誰にも知られずに静かに死にたかったの。だからあいつを選んだのに。


「今朝、彼が家を出ていく時の顔、見た? ちょっと面白いくらいに落ち込んでいたわ」


 あらあ、見ておけば良かった。そしたら少しくらい気が晴れたかしら。


「そうかもね? ……わかっているでしょ、リリ。ジェイクは、あなたのことが好きなのよ」


 ……わかりたくないわ。


「――あら、チャイム。……もしかして、御両親がいらしたのかしら?」


 ……会いたくない。追い返してもらえる?


「……出て来るわね」



「――ハイ、リリ! 驚いて! プレゼントが届いたわよ!」


 ――え? なあに……まあ!


「凄いわね、素敵! ロマンチック! 赤いバラの花束! ……持てる? 写真撮りましょうよ!」


 ちょ、ちょっと待って。手が汚れているのよ。紙ナプキン!

 ――はい、いいわ。……綺麗ね。

 ……誰から?


「もちろん、あなたの旦那様よ」


 ……まあ、そんな気がしたわ。絆されてあげないけど。


「ねえ、買ったばっかりの、コダックの新しいインスタントカメラ、使いたいの。撮っていい?」


 待って、待って! ――鏡貸して! 口元拭かなくちゃ! やだあ、普段着だわ!


「あなたは十分綺麗よ、リリ。お花で更にゴージャスだわ。ほら、ポーズとって!」


 ちょっと、髪はどう? 変じゃない?


「右側の髪を耳にかけたらいいんじゃないかしら? そうそう、可愛いわ! 行くわよ! ――セイ・チーズ!」


 ……。……変な顔になちゃった気がする。


「大丈夫よ、すごく可愛かった! よし、フィルムを使い切って、明日現像に出しちゃいましょう」


 ええー? 何を撮るの?


「勿論、わたしたち二人の、記念すべきこの夜を!」


 あっはは、やだあ、だらだら記念日?


「そうよ! 目一杯楽しんで、ジェイクに羨ましがらせるのよ!」


 それ最高ね! ざまあみろ、って感じね!


「ところで、何かメッセージカードとかついてない?」


 ――あるわね。

 ……リリへ。ダズンローズを君へ捧げます。心からの愛を。ジェイク……ですって。


「んっふふ。本当に愛されてるわねえ! プロポーズじゃない! わたしも受け取ってみたいわ、そんな花束!」


 ふん、結婚してるのに、今さら何よ。そんなのでごまかされないわ!


「そうよ! お花じゃ駄目、ちゃんと言葉と態度で示してって言わなきゃ!」


 ――そういう事じゃなくて! ……それとこれとは、別って事よ。


「あら、たぶんジェイクは一緒だって思ってるわよ。あの人の行動、全部あなたの事が好きだからだもの」


 ……正直、そう言われてもね。ピンと来ないのよ。……でもまあ、お花に罪はないわ。


「……わかんない? 御両親や、お友達を呼んだ事の意味?」


 わかんないわ。あたしの意志を無視したって、それしか思わない。考えただけで、腹立たしい。


「じゃあ、もう一度聞くけど。彼があなたの事、本当に好きなんだって事は?」


 ……まあ、もしかしたらそうかもね。


「そうね。……じゃあ、わたしが二人を見て、思った事を、一つずつ言ってみていい?」


 一つずつ? そんなに沢山あるの?


「あるわよお。まったく、すれ違ってばっかりなんだから、あなたたち!」


 えー! やだあ、何だか聞きたくない内容な気がする!


「あっはは、言っちゃおうかな! まず一つ目!」


 何ぃ? やだ、聞かないわよー、あたし!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ