1973年8月21日 火曜日 14:11
「それで、リリに追い出されちゃったの? かーっこ悪い! あっ、ウェイターさん! オーダーお願い!」
「アン……昨日会ったばかりとは思えない言い方だね。まるで僕の姉妹みたいだ」
「そうね、あなたはあたしの兄弟かもって気がするわ、ジェイク。……えーっと。オレンジジュース。それと、うーんと、どうしよう。チョコレートケーキ?」
「僕はホットコーヒーを」
「小母様、こっちよ!」
「――お久しぶりです、エリン。遠くまで来てくださって本当にありがとう」
「ありがとうはわたし達の言葉よ、ジェイク。あなたのお陰で、リリの元へ来られたのだもの」
「小母様は何がいい? アイスティー?」
「そうね、レモンスライスが乗っているのがいいわ」
「じゃあそれで。それと、チーズケーキも!」
「ロバートは?」
「今、こちらの病院の医師と面談できるか、調整しているわ」
「そうですか。それがいい。時差ボケはどうですか? 長距離移動は大変だったでしょう」
「やっぱり何だか変な気分よ。それに、思っていたよりも寒くて」
「なによ、ジェイク! さっきあたしには、そんなこと聞かなかったじゃない!」
「君はとっても元気そうだからね、アン。エリン、今日と明日はしっかり体を休めてくださいね。気は逸るでしょうが」
「……そうね。リリが、あんなに痩せ細った姿で……。胸が押し潰されそうで……」
「昨夜、皆さんをリリに会わせようとした僕が、迂闊でした。……怒るとは思っていたけれど、あそこまで態度を硬化させるとは、思わなかった」
「そんなことおっしゃらないで。わたし達はリリに会う為やって来たのだもの。遅かれ早かれ、こうなることは予測できたわ」
「……そうですね。僕は、覚悟が足りないのかもしれない」
「ちょっとジェイク、あたしにも聞いてよ、体調どうですかって!」
「アン、体調はどうだい?」
「すごぶる調子いいわ! 思ったより寒いってだけよ!」
「それはよかった。……エリン、何か不足している物はありませんか? 買い物などは行きますか?」
「今の所大丈夫よ、ありがとう」
「もう! あたしと小母様で、全然態度が違うじゃない!」
「そりゃ、君は実の姉妹みたいなものだからね。――ああ、ありがとう。ホットコーヒーは僕に」
「オレンジジュースはあたし! ケーキもよ! アイスティーは、こちらの小母様に渡してね」
「ありがとう」
「んー、オージー・オレンジジュースはやっぱり美味しいわね!」
「――君は何でそんなに元気なんだい、アン? リリに会って、何か思うところはないの?」
「あら、だって元気そうだったじゃない! あんなに怒って」
「ん? ――元気? ……車椅子に乗っていたのを見たよね? それに、以前よりすごく痩せたし、声だってそんなに出せていない」
「でも大丈夫よ、きっと。たぶん、オーストラリアに来てから良くなったんだわ」
「アン……僕は君に状況を説明したつもりだったけれど」
「リリって、暑いの苦手だもの。だからこの時季に来たんでしょう? 環境ってやっぱ大事ね!」
「――アン、アン、ありがとう。そうだといいって、わたしも思うわ」
「ちょっと顔色は悪かったけれど、元気に車椅子を乗りこなしていたし、もう大丈夫よ、きっと!」
「ちょっと待って。アン?」
「……ロバートが来たら、一度三人で話し合いましょう」
「やだぁ、小母様ったら、大袈裟なんだから! 心配いらないわよ、リリはきっと治ったんだわ。きっとそうよ」
「アン……」
「……アン、気分はどうだい? 何か僕に出来る事は?」
「やだ、何よそれ。真面目そうな顔しちゃって、ジェイクってば! おっかしい、あっはは!」




