余話2 かぼちゃ、お茶をする
「ジオラ様。少し、よろしいでしょうか?」
ジオラが〝紹介所〟に顔を出すと、受付嬢の一人が手を挙げて呼び止めて来た。
(何だぁー?)
『依頼かな?』
ジオラは片眉を上げ、呼び止めた受付嬢の下に向かう。
「会議室でお会いになりたい方がお待ちです。お時間がありましたらご足労いただけませんか?」
「会議室で?」
タイミングがいいのはいつものことなので無視して、ジオラは片眉を上げた。
散歩に行く前の暇つぶしに寄っただけなので急用はないが、呼び出しをする相手に心当たりは――。
『あ。ジオラ、もしかして……!』
(んん? いや、今更じゃないか?)
エプリの声に、一つだけ呼び出して来る相手に心当たりがあることを思い出した。
ただ、その相手もそこそこ忙しいはずだ。
『でも、それしかないよ?』
(まぁ悪霊を呼び出す奴なんて、限られているしなぁ……)
物凄く面倒臭いが、ココで断っても会うまで呼び止められそうだ。
受付嬢はジオラが察したことに気付いたようで、無言でカードキーを差し出して来る。
(さて。デザート付きか否か)
ジオラは仕方なくソレを受け取り、受付を後にした。
『いつもなら、付いて来るよね!』
(今日は、その〝いつも〟じゃないだろ)
能天気なエプリにやれやれと肩を竦め、ジオラはエレベーターで呼び出された会議室がある階まで昇った。
(さっさと終わらせて散歩に行くぞ)
カードキーの番号の会議室前に辿り着き、ジオラはカードリーダーにカードキーを通す。
「――――やぁ。急に呼び出して悪かったね」
ドアがスライドすると、爽やかな声がかかる。
小さめの部屋の中央にあるテーブル――そこの右側には、二人の男が座っていた。
見た目は三十代ぐらいの男たちで、一人は銀色の髪に赤い眼を持つ優男、もう一人は金色の髪に赤い眼を持つ背の高い男だった。
「散歩に行く前だったんだけどな。サンゼ、アミド」
ジオラが室内に入ると、二人は立ち上がって迎え入れた。
銀色の髪の男――サンゼは、いつものように笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。
サンゼに付き従う金色の髪の男――アミドは無言でジオラを見つめてくるだけで、こちらはいつもと変わらなかった。
二人のチームメンバーであるユイリアが室内にいないことを確認し、
(やっぱり、あの話かー……面倒くせぇー)
『デザート、ないねー?』
テーブルの上にはグラスが四つしかないことを確認し、エプリが残念そうな声を上げた。
(まぁ、そういう気分じゃないんだろ。アイツらは)
『えぇー。残念……』
一気に気分が急降下したエプリに内心で嘆息し、ジオラはイスに向かう。
「それで? 用事ってなんだ?」
二人の前に座りながら尋ねると、サンゼたちも腰を下ろした。
「だいたいの予想はついているんじゃないかな?」
「予想、なぁ」
ミルクが入ったグラスに視線を向けると「どうぞ」と言われたので手元に引き寄せた。
エプリ用に小さなグラスが置かれているが、姿を見せる様子はない。
ジオラはグラスを口元に傾けた。
ゆっくりと飲むジオラが一向に口を開く様子がないので業を煮やしてか、サンゼは話を切り出す。
「あの子――ティトンの教育は、僕らがすることになっていたんだ。何故、横からかっさらっていったんだい?」
「…………」
「まさか、最初からそのつもりで接触してきたのかな?」
言葉こそ丁寧だが、その目は嘘をつくことは許さないと告げていた。
ジオラはグラスを置き、
「人聞きが悪いな。最初に会ったのは、本当に偶然だぜ? ただ、ルネと話をして、ちょっと気になって会いにいっただけだ」
「〝黒の魔女〟と……」
サンゼはやや眉を寄せ、
「けど、それでどうしてガドに紹介することに? 君も一族内の事情に首を突っ込むことなんて、ほとんどなかったよね?」
「そりゃ、ガドを驚かせたかったからだ」
「…………」
その返答には、サンゼも口を閉ざした。
『結婚祝いなのに?』
(出て話す気がないなら、それは黙っていろ)
からかうエプリの声に返しつつ、エプリにと置いてあるグラスを手に取って中身を自分のグラスに注いだ。
「けど、さっさと俺に借りは返したかっただろ? エプリが譲ってもらっていたのも使ったから、コレで貸し借りはなしだ」
エプリの分の事を告げれば、あからさまにサンゼの気配が変わった。
「――いったい、〝黒の魔女〟の目的は何なんだい?」
気配が一気に膨らみ、〝四ツ星〟としての顔を出す。
その瞳を赤く輝かせながら問われ、
「ずいぶん、大雑把な質問だなぁー」
ジオラは知らずと、はっと笑いが漏れた。
「あの事に〝黒の魔女〟が手を出して来たことも前代未聞のことだったけれど、また君を送り込んで来るなんて、何かあるとしか思えない」
あの事というのは、ジオラがガドたちと出会うきっかけになったお使いのことだろう。
その結果は吸血鬼一族の今後に大きく関わることとなったため、また首を突っ込んで来たことに警戒し、サンゼが問い詰めて来るのは分かるが――。
「それは俺も知らねぇのは分かっているだろ。所詮、俺もただの駒だ」
ジオラがルネの考えを知らないことは、サンゼも重々承知しているだろうに。
「関与するのが二度目にもなると、予想はつくのでは?」
その問いにジオラは肩を竦めた。
「その言葉は、そっくりそのまま返すぜ。たかが一悪霊に〝魔女〟の思考は分からねぇよ」
ルネが〝星読み〟の結果を話して来ることはないので、その指示通りに――稀に誘導されて――動いた結果の未来など、ジオラにも一切分からない。
あのお使いが〝混血〟の精霊術師が誕生するキッカケになったことも予想外のことで、この先、ソイツが何をもたらすことになるのかも分からないのだ。
「―――……」
サンゼはぴくりと目の端を動かし、
―――ぎしりっ、
と。サンゼから漏れ出す霊力が、建物に張られた〝結界〟を軋ませた。
『わっ……!』
(珍しく、感情的だな……?)
エプリが驚く声を聞きながら、ジオラは片眉を上げた。
「………っ――」
ジオラの内心の呟きが聞こえた訳ではなく、その表情で分かったのだろう。サンゼは霊力を抑えるように目を伏せ、深く息を吐く。
「彼は、私の親類――やや遠縁にはなるけれど、年齢的に一番近いんだ」
「…………!」
さすがにそこまでは予想していなかったので、ジオラは目を丸くした。
『えー! そうだったの?』
(ガドと〝血〟は違った気がしたが……まぁ同じ吸血鬼同士なら、親戚になる可能性はゼロじゃないか)
「元々、後継としてガドさんに師事を受けていた。ティトンが《退治屋》に登録したら指導できるように根回しも終えていて、〝上〟の了承は得ていたんだ」
「……へぇー?」
『そっかー。だから、ガドを紹介した直後に誰も会いにこなかったんだね』
(……ああ。コイツだったら、他の奴らの中ではマシだしな)
だからサンゼたちもすぐに――ガドを紹介した直後に、ジオラを呼び出して詰問することはなかったのだろう。
一族の一人としてだけではなく、師の息子のことも考えて身を引いたのだ。
「それで、初依頼の時について行ったのか……けど、ティトンからはいい返事がもらえなかったんだろ?」
「…………交渉中だったんだ」
苦い顔をするサンゼを見れば、上手くいっていなかったのは明らかだった。
「さっさと囲い込まなかったのかダメだったんじゃないか? 俺がアイツと二回目にあった時、《退治屋》に――〝闇〟の住人に対して、疑心暗鬼になっていたぜ?」
サンゼたちも〝大型新人〟の噂は知っていたはずだ。
或は敢えて流させたか。
「それは……」
その問いに、サンゼは言葉を詰まらせる。
『サンゼはそんなことしないよ?』
エプリはサンゼの目の奥にある感情――本当にティトンを心配しているのだと察してそう言うが、ジオラもその感情は分かる。
(コイツがしなくても他の吸血鬼がするだろ)
他の奴らが手を回した可能性は、否定しきれない。
ただ、呼び出された理由は、ティトンにガドを紹介したことではなかったようだ。
「そう言うことなら――呼び出した理由は、エプリの願いの件か」
残る理由として考えられるのは、エプリのお祝いのためにしたアレだろう。
「っ――」
口元を引き締めてこちらを見るサンゼに、やっぱり、とジオラは嫌そうな顔をして、
「別に、お茶会をしたぐらいで目くじらを立てなくてもいいだろ?」
その時のことを思い出し、はぁと重いため息をついた。
――――――――――
「決めた!」
まだまだ日も高かったため、リビングでジュースを飲みながらテレビを観ていたジオラは、突然、声を上げたエプリに視線を向けた。
「何をだ?」
「ティトンのお祝いのプレゼント!」
「あぁ、やっと決めたのか」
ジオラはイスの背もたれにもたれかかっていた身体を起こしたところで、
「そう。なら、待っているから会いに行くといいわよ」
すぐ前から声が聞こえ、問いかけようと開いた口を閉ざす。
テーブルの向こう側に視線をを向ければ、いつの間にか前の席に妙齢の女性が座っていた。
〝黒の魔女〟――ルネだ。
「店にいたんじゃないのかよ」
つい数秒前までは、その席には誰も座っていなかった。
入ってきた気配もなく、湧いて出たように姿を見せたルネは、頬杖を突きながらにっこりと笑みを浮かべている。
「ってか、待っているって誰がだ?」
「行けば分かるわ」
「…………まだ、日が出ているんだけどなぁー」
その言い廻しに嫌な予感がしたが、ルネは笑みを浮かべているだけだ。
はぁ、とため息をつき、ジオラは立ち上がった。
「お前、何をプレゼントすることに決めたんだよ……」
「んー?」
問いにエプリはルネを見て、
「んー……行けば分かるよ!」
にっこりと笑う。
その笑顔は、エプリが悪戯を思いついた時のモノと同じだった。
げっとジオラは顔をしかめる。
「行きたくねー」
ぼそり、と呟きながら、後ろ手に行くぞとエプリに手を振るう。
どの道、鍵を使って出かけるとそこに通じているのだ。二度と鍵を使わないというわけにはいかないので、逃げられない。
「行ってきまーす!」
元気な声と共に、飛び上がったエプリが肩にとまる。
部屋の一角にあるドアの鍵穴に黒い鍵を差し込み、回した。
(何処に通じているんだ?)
ドアを開けた先は、暖かな日が降り注いでいた。
ふっと肩からエプリの姿が消え失せる。
「――っ……」
慌てて、ジオラは左手で日を遮った。
ゆっくりと閉じてくるドアをよけつつ、鍵をパーカーのポケットに入れてフードを被る。
眼前には純白の石で作られた柵があり、その向こうには整えられた庭が広がって色とりどりの花が咲き誇っていた。その先には木々が広がり、遥か彼方に淡い水色に染まる山脈が連なっている。
足を踏み出すと石畳のテラスとなっていて、右手側に人の気配がした。
「―――ウィルくん! やっと来てくれたのね……!」
弾んだ涼やかな声は、久しぶりに聞く者だ。
声がした方へと振り返ると、少し離れた場所にパラソルがあり、その陰に一人の少女がいた。
まだ十代後半ぐらいの少女で、日の光で輝く淡い金色の髪は背の中程まであり、左耳に青い花を刺していた。
白磁のような滑らかな肌に人形のように整った顔立ちをしているが、その血のように赤い瞳は爛々と輝き、嬉しそうにこちらを見ていた。
淡いグリーン色のドレスに身を包み、ジオラと目が合うとイスから立ち上った。
「久しぶりね。ずっと、来てくれるのを待っていたのよ?」
花が咲くような華やかな笑顔を向ける少女に、よぉ、とジオラは片手を上げた。
「ああ、久しぶりだな」
そして、その後ろに控える侍女らしき女性と周囲から突き刺さる無数の視線に、少し頬を引き攣らせながら応えた。
――――――――――
侍女以外の姿は見えなくても、護衛たちの無数の視線に晒されたお茶会は、悪霊のジオラをしてもストレスになるものだった。
肝心のお茶会の相手は気づかず、常に華やかな笑みを浮かべていたが――。
「そりゃあ、〝一度茶をする〟っていうことは約束したけど、俺も空気ぐらいは読めるから会いに行かなかったんだぜ? それをエプリがお祝いを何にするか決めた途端にルネが〝待ってるから〟って無理矢理――」
「すまないが、お茶会に行ったことを咎めるつもりで呼んだわけじゃないんだ」
サンゼは片手の手の平を突き出し、愚痴を吐き出していたジオラの口を止めた。
「〝あの方〟の望みなら、我々がソレに口を出すことはしない」
(口は出さなくても、射殺すような視線は受けたけどな――って、どういうことだ?)
サンゼの言葉にジト目を向けた後、片眉を上げた。
てっきり、悪霊が彼らの〝王〟に会いに行ったことに対する苦情を言いに来たのだと思っていたからだ。
「ソレの文句以外に、いったい、何の用事で呼び出したんだよ?」
サンゼは手を下ろし、真っ直ぐにジオラを見つめて来た。
「エプリが何を願ったのか、ソレを聞きたいんだ」
「? 聞いてないのか?」
「〝あの方〟からは、誰も何も聞いてはいない。ただ、君たちが〝お茶会〟をしに現れて、その後、エプリへの報酬はなくなったとお達しがあっただけだ」
「あー……なるほど」
それなら聞きにくるかと、ジオラは頷いた。
『あれ? 皆に言ってないのかな?』
(ティトン以外にとっては、重大な秘密ってわけでもないしなぁー)
『んんー? でも、わざわざ会いに行ったのは何でかな? ガドを紹介する時は、会いに行かなくてもよかったのに』
(たぶん、手引きしたのが所長かルネかの違いだな……まぁ、今回はガドのケジメの件も関わってくるからかもしれないが)
ガドの紹介の時は、所長がルネの意図を汲んで鍵を用意したことで、お茶会に行くことで起こり得る混乱を避けた可能性は高い。
反対にルネは面白いことが見たいので、敢えて――前回は行かなかったこともあってか――お茶会に向かわせたのだと思う。ジオラが訪ねる気がないことはお見通しのはずなので、ジオラへのただの嫌がらせだ。
『ええー! お茶会、ものすごく楽しかったよっ?!』
何言ってるの、とエプリは驚きの声を上げるが、それはお茶会に様々なお菓子が用意されたからだろう。
―――「急だったから、あまり用意できなかったんだけど」
脳裏に「次は事前に知らせてね」と笑う彼女が思い浮かぶが、ジオラは軽く頭を左右に振った。
『また、行こうよー!』
(お前一人で行ってこい……)
一度、会いに行けば相手の気も済むのは分かってはいたが、どういう状況下でのお茶会になるのかは予想がついたので、なかなか、腰が上がらなかったのだ。
実際、思っていた通りの厳重警戒態勢下でのお茶会だったため、もう二度と行きたくはない。
「別に、エプリの願いはお前らにとっては些細なことだぞ? まぁ、頭の固い〝上〟の奴らは色々と五月蝿そうだけどな」
何で言ってないんだと訝しげに告げると、サンゼたちも短くない付き合いから、ジオラが本気でそう思っていることは分かったのか、僅かに気配を緩めた。
「なら、その願いを教えてくれることは問題ないかな?」
そう問われ、ジオラはエプリにどう思うと問いかけた。
『ティトンのことを考えてくれてるし、いいんじゃないかな? あの子が僕の願いを言わなかった理由、分からないしね!』
(まあなー……)
『あと、断ったらさらに面倒臭くなりそうだから、嫌だよね?』
(…………)
それはやや遅い気がするジオラだった。
「一つ、確認したいんだが――」
ひと息ついて気を取り直し、ジオラは口を開いた。
「〝王〟の決定に背いてまで願いの内容を俺に聞きに来たのは、〝上〟に聞きに行けと言われたからか? それとも遠縁だからか?」
一族に連なるのであれば、〝王〟の決定に従うのが普通だ。
それを敢えて犯そうとするのは、ひとえに〝黒の魔女〟が関わっている点が大きいのだろう。前回のことがことだからだ。
ただ、ティトンたちの親戚と聞いて、サンゼ自身の優先順位はどちらなのか気になった。
目的はエプリの願いを聞くためだというが、本音のところはどちらなのかと――。
「――――両方、だよ。ソレを確認してこいとは指示を受けたが、報告までは義務付けられていない」
〝王〟の意思に反することは出来ないが、重大なことか否か、確認だけはしておきたいということか。
「…………エプリが願ったのは、ただの情報開示だ。トップに了承を貰えば、他の奴らは否とは言えないだろ?」
「情報開示? いったい、何を」
「ティトンが〝二つ名〟を得たお祝いさ。――父親も鍛えたかいがあったと喜んでいる、親孝行が出来てよかったなって」
「!」
サンゼは目を僅かに見開く。
その隣で、僅かにアミドも眉を動かした。
「あくまでもティトンにソレを伝えることに対しての了承だから、アイツにかけられた術はそのままだし、口止めはしておいたけどな。父親のケジメだと言っておいたから、ソレを踏み躙る奴じゃない」
「…………」
サンゼたちから返答がないので、ジオラは肩をすくめた。
「だから言っただろ? お前たちにとっては、なんてことのないモノだって」
「……それは」
サンゼは何かを言いかけたが口を閉ざし、考えるように俯いた。
「――そこまでが、〝黒の魔女〟が描いた筋書きか…………」
そこで、部屋に入って初めてアミドが口を開いた。
だろうな、とジオラはアミドに頷きを返し、ミルクを飲み干した。
コトッと音を立てながらテーブルにグラスを置き、
「ルネが〝面白い子〟って言っていたから、きっと化けると思うぜ」
「!」
少しは情報をやるかと、最初に聞いたルネの言葉を伝えれば、サンゼははっと顔を上げた。
―――「いつか、父さんと呼べるように頑張ります!」
ガドを父と呼びたいのなら、もっと力をつけろと発破をかければ、決意に満ちた目で宣言をしたティトン。
力をつけるまで、どれ程の年月がかかるのかは分からないが、ティトンが契約したあの風精霊はなかなかの力のある精霊だった。
もしかしたら、ジオラたちが思うよりも早く、その願いは叶うのかもしれない――。
「ソレを伝えておけば、〝上〟も気が済むだろ」
そう付け加えると、「ジオラ……」とサンゼは何とも言えない表情をした。
『あと、ティトンを認めてくれ易くなるね!』
エプリの言葉は無視して、ジオラは立ち上がった。
「じゃあ、後は上手く伝えておいてくれ」
もう用はないだろうと、スタスタとドアへと足を向ける。
「ジオラ……!」
「ん?」
ドアに近づいたところで呼び止められ、ジオラは首だけで振り返った。
「―――ありがとう……」
サンゼは立ち上がり、真剣な眼差しを向けながらそう言った。
その隣で、アミドが軽く頭を下げる。
「………」
ソレに対してひらりと手を振り、ジオラは会議室を後にした。
第2夜 終了




