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話を聞いてみると、視察に来るひとはかなりの問題児らしかった。
今の転移局の本部局長、つまり転移局のトップの息子だけど、親の権力を自分のものと勘違いする典型的なバカ息子なのだそうだ。
魔素も多くて、転移の腕も一流だけど、それと反比例に頭の中身が残念というのがカイザーさんの説明。
カイザーさんとは同期で、術士としての才能の無かったカイザーさんをことあるごとにバカにしてきたそうだ。
そして、カイザーさんをこの転移局に推薦したのも、そのバカ息子。
カイザーさんとしては願ったりかなったりだったみたいだけど、北西の転移局に務めるというのは、転移局の中では左遷扱いだから、嫌がらせなんだろうな。
「キャサリンさんがいらした時も、視察とはいいながら、私を笑いに来たようでしたねえ。」
「もう!カイザーさんはもっと怒っていいんですよぉ?視察なんて、お付きのひとがやって、あのひと何もしてなかったじゃないですかぁ!掃除が出来てないの、手際が悪いの、文句ばっかり!」
苦笑して答えるカイザーさんに、キャサリンさんはぷりぷり怒っている。
カイザーさん的には、もう慣れっこなのかな。特に気にしてないみたいだ。
「彼はねえ。口は悪いんですが、実害はないんですよ。だから、それなりに聞いて、彼の勝ちだと思わせれば、それで済むんです。」
今ので想像の中のバカ息子が一気に小物っぽくなる。
でも、キャサリンさんは「あの口の悪さは十分実害ですぅ。」と反論しているし、デリアさんも顔をしかめて首を横に振っている。
認識にずいぶん差があるなあ。
カイザーさんは長い付き合いだから、そう気にならないのかもしれない。
「大丈夫ですよ。今回はハルカさんがいますから、そう下手なことは言えないはずです。それより、文句より、おべっかの方が多いかもしれません。」
そこで心配そうにカイザーさんが私を見る。
ああ。有名人や権力者には尻尾を振るタイプなのか。
それは面倒そうだなあ。
あまり、他の男性に近づかれ過ぎると、クルビスさんの機嫌が悪くなるし。
まあでも、それでキャサリンさんが嫌がる口の悪さがマシになるなら、うるさいおべっかにも付き合いましょう。
おひろめの時もそういうのって結構あったし、適当に話を合わせるくらいは出来る。
「大丈夫ですよ。そういうのは慣れてますから。」
「出来る限り接触は減らすようにしますので、クルビス隊長にはお知らせしておいて下さい。」
「はい。」
確かに、あまり近くに寄ってこられて、匂いでも移ったら困る。
私にはわからないけど、シーリード族は匂いに敏感だから、長い時間傍にいたらそのことが匂いでわかるのだそうだ。
だから、既婚者や恋人がいると宣言してるひとにはあまり近づき過ぎないようにすることになっている。
普通に仕事してる分には問題ないんだけどね。
おべっかですり寄ってくる人は問題ありそうだなあ。
これは今日にでもクリビスさんにお話しておこう。




