11
「この穀物はね。荒れた地で暮らしていたカメレオンの一族が見つけたものだと言われているの。荒地でも豊かな穂を実らせ、どんどん数を増やしていったんですって。白なのに実るサイクルが早くて、半月で収穫できるから、食べきる前に次の穂が出来ていたそうよ。
最初は生で食べてたそうだけど、そのうち、どうしてか粉にして水で練り込んで、その生地を茹でるようになったの。私の受け継いだ記憶ではそこまでしかわからないのだけど、そのおかげで、我が一族は夏の植物の枯れる時にも食べ物に困らなくなったそうよ。」
冬でなく、夏に食べれる。半月で収穫。
これが餅米のトリップ特典かな。
…お餅もトリップ特典ってもらえるんだなあ。
長老さん達が聞いたら頭を抱えそうな考えだけど、これだけ植物として優位な特性を持つことになったんなら、十分トリップ特典と言っていいんじゃないかな。
桜は花が咲きっ放しで実も種もつけれないし、植物として変わってしまってるからトリップ特典と言っていいのか微妙な感じだけど。
私は、膨大な魔素とその耐性とかかな。最近そのありがたみを実感したところだし。
それにしても気になるのは、「どうしてか粉にして水で練り込んで茹でるようになった」という部分。
これ、何かを参考にしないとやらないような特殊な方法だと思うんだけど。
まあ、でもカメレオンの一族は研究者気質だから、誰かが色々試した結果かもしれない。
一応聞いてみよう。知識は受け継がれるのがカメレオンの一族の特徴だし。
「生で食べてたのに、途中で調理するようになったんですね。」
「ええ。ただ、受け継いだ知識をたどってもあまりに突然で。たしかに、口に長く含むと甘みが増すから、水を使う方法は最初に考案されたわ。でも、茹でるなんて発想は長い間どこにもなかった。まあ結局、その方が甘みが強いものだからすぐに調理が主流になったのだけど。不思議よねえ。」
う~ん。じゃあ、カメレオンの一族の誰かが開発したとかじゃないのかも。
ますます。餅米だけでなくお餅自体がトリップした可能性が出てきた。
臼と杵でついてる状態でトリップとか…。
いやいや、ないわ。そんな珍事があったら、日本昔話として何か残ってるよね。
「まあ、それでも、これのおかげで我が一族は荒地で長く暮らせたのよね。だから、星祭は元は星が世界の目であるという考えを元に、私たちを見守ってくれてることに感謝するものなのだけど、それに加えて、世界が起こしてくれた奇跡に感謝を忘れないために、この穀物を使った料理を食べるようになったのよ。」
はああ。こっちでお餅って、すごく意味のある食べ物なんだな。
日本ではどうだっけ?
たしか、「お餅は縁起がいいんだよ。身体が丈夫になるから、ちゃんと食べなさい。」っておばあちゃんが言ってたなあ。
あ。意味あったや。
おばあちゃんの言ってたことが全てじゃないし、これであってるかわからないけど、民間で言い伝えられてるくらいだから、縁起ものなのは間違いないだろう。
お正月に食べるくらいだしね。
暑いけど、お雑煮食べたくなってきたかも。じゅる。




