091.共同作業
今日一日で、色々な街をまわったが、日もだいぶ暮れてきてしまったので、イケブの街で宿を取ることにした。
「兄ちゃん、なんで兄ちゃんは、乙女ルームに上がり込んでるの?」
「こっちの部屋のほうが、広いからだよ」
「そうじゃなくて! これから女の子同士で、キャッキャウフフな時間を過ごそうとしてたのに、なんで入ってくるのかって聞いてるの!」
「はいはい、キャッキャウフフは後にしてもらって。みんなで【魔力強化】を覚えようぜ」
「私も【魔力強化】覚えたいです」
「もー、分かったよ~」
俺達は【魔力強化】の特訓を開始した。
「うーん、うーん」
「なに『うんうん』唸ってるんだ」
「だって、魔力強化ってどうすればいいのか、分からなくって。兄ちゃんどうしたらいいの?」
「俺に聞かれても、わからないよ。エレナはどう思う?」
「うーん、魔力は心の力なので、心を強くする感じでしょうか」
心を強くするのか……
肉体強化魔法なのに、心を強くする? うーむ。
そんなことを色々考えていると―
頭の中で、一人の男の顔が思い浮かんだ。
諦めんなよ!
がんばれがんばれ!
やれば出来る!
その男は、太陽神と呼ばれた男。
(実在の人物とは、一切関係ありません)
そうか! 『根性』か!
俺は心のなかで、太陽神のお言葉を、繰り返し思い描いた。
そして、体が熱くなるのを感じた!
「なんか、出来たかも」
「兄ちゃん、ほんと!?」
俺は自分を【鑑定】してみた。
ステータスに『状態:魔力強化』と表示され。
【肉体強化魔法】に【魔力強化】の魔法が追加されていた。
「【鑑定】してみたけど、ちゃんと習得できてた」
「セイジ様、すごいです!」
「兄ちゃん、どうやったの?」
「『根性』だよ!」
「なにそれ……」
じゃっかん引き気味のアヤはほっておいて、俺はせっかく覚えた【魔力強化】を使って、【属性強化魔石】を作ってみることにした。
「エレナ、【属性強化魔石】を作るの手伝ってくれ」
「はい!」
テーブルにヌルポ魔石を置いて、エレナと向い合って座った。
「さて、どの属性にしようか?」
「回復魔法はどうですか?」
「回復魔法? 属性魔法じゃないじゃないか」
「そうでした、すいません」
「うーむ、もしかして…… 回復魔法、やってみるか」
「で、でも……」
「ものは試しだ、ヌルポ魔石もいっぱいあるし」
「はい」
俺達はヌルポ魔石に、二人で手をおいた。
なんか、こうしてると、こっ恥ずかしいな。
「セイジ様、準備出来ました」
「お、おう。じゃあ、行くぞ! 3、2、1、はい!」
俺達は、お互いを見つめ合いながら、ヌルポ魔石に魔力を注入した。
ピカーッ!
しばらくして、ヌルポ魔石が光りだし、光が収まると―
ヌルポ魔石は、綺麗なピンク色の魔石になっていた。
「やりました!」
「綺麗な色だ!」
「もう出来たの!? 見せて。……本当だ、きれいな色!」
【鑑定】してみると、それは―
【回復強化魔石+3】だった!
「【回復強化魔石+3】だって!」
「『+3』って、いいやつなんじゃないの?」
「ああ、薬を作った時も『+3』が最高水準だった」
「す、すごいです! セイジ様と私が作った魔石が……」
エレナは、ピンク色の魔石を手に持ち、頬ずりでもしそうな勢いで、うっとりと見つめている。
いい魔石が出来た事が、そんなに嬉しいのだろうか?
「兄ちゃん、私も作りたい!」
「おう、アヤは何の魔法がいいんだ?」
「じゃあ、風にする」
「よし、じゃあ作るぞ」
俺達は、お互いを睨み合いながら、ヌルポ魔石に魔力を注入した。
しばらくして、ヌルポ魔石が光りだし、光が収まると―
ヌルポ魔石は、鮮やかな緑色の魔石になっていた。
「出来た!」
「いい感じの色だな」
【鑑定】してみると、それは―
【風強化魔石+1】だった。
「【風強化魔石+1】だって!」
「『+1』かー、エレナちゃんいいな~」
「まあ、エレナの回復魔法はレベル5だからな~」
アヤも、自分の作った魔石が、それなりに気に入ったらしく。食べてしまいそうな勢いで、眺めている。
「あのー、お二人さん。早く【魔力強化】を覚えて頂けませんか? 俺も、自分の魔石を作りたいので……」
「はい、すいません。頑張ります」
エレナは、まじめに【魔力強化】の練習を始めたが、アヤは、まだ魔石を眺めて遊んでいる。アヤ、お前はエレナよりお姉さん、なんだぞ?
しばらくの間、エレナは練習をし続けているが、なかなか上手くいかないようだ。
「す、すいません。難しくて……」
エレナは、テンパりだしてしまった。
「そんなに焦らなくてもいいよ」
「は、はい」
エレナはシュンとしてしまった。
仕方ない、一人でやってみるか。
俺は、ヌルポ魔石を右手と左手で挟むように持ち、左手に【魔力強化】、右手に【雷の魔法】を込めた。
やれば出来るじゃないか。
しばらくして、魔石が光ったかと思うと、透き通るような紫色の魔石が出来上がってた。
「セイジ様、すごく綺麗です!」
「キレイ、兄ちゃん一人で作っちゃったの?」
「うん、やってみたら、出来た」
【鑑定】してみると、なんと!
【雷強化魔石+4】だった。
「『+4』だ!!」
「す、すごいです!!」
「4も、あるのか!」
俺は、舐めるような勢いで、作った魔石を眺め続けた。
一人で作ったことは、手酌で酒を飲むみたいで、少しさみしかったけど。何故か、うっとりと眺めてしまう。
二人の気持ちも、少し分かるかも。
その日は夜遅くまで、属性強化魔石を作り続け。
以下の魔石を作成した。
・風+1×2(アヤ作成)
・雷+4
・水+1×2(エレナ作成)
・氷+1×2(アヤ作成)
・闇+1×2
・回復+3×2(エレナ作成)
結局、【肉体強化魔法】、【情報魔法】、【時空魔法】の【強化魔石】は、作ることは出来なかった。
アヤとエレナは、【魔力強化】の習得に、かなり苦労していたが、だいぶ苦労した末に、やっと習得できた。
アヤとエレナに【魔力強化】を使ってもらって、魔石を作ってみたが。
その場合は、出来上がった魔石に、ほとんど『+』が付かなかった。
【肉体強化魔法】がレベル3以上じゃないと『+』が付かないのかな?
二人に手伝ってもらって作った魔石は、以下のとおり。
・雷+1(アヤが【魔力強化】)
・闇(±0)(アヤが【魔力強化】)
・氷(±0)(エレナが【魔力強化】)
出来の悪いのは売ってしまって、いいのは髪飾りやロッドに付けてもらうことにした。
戦争解決編は長くなりそうな予感。
ご感想お待ちしております。




