89.奴隷商
エレナは唖然としていた。
「エレナおめでとう」
「あ、ありがとうございます」
なんと、風に引き続き、【雷の魔法】もレベル1ながら習得できてしまったのだ。
「まだ信じられません。セイジ様とアヤさん以外では、今まで1人しか習得できなかった【雷の魔法】を、私が習得してしまうなんて……」
「エレナちゃんは、日本で電化製品に囲まれて生活してたからね~」
「それに、電気の勉強もしていたんだろ?」
「は、はい」
これで闇以外は、参拝した所の魔法を全てゲット出来ているわけだ。このままコンプリートを目指しちゃうぜ!
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俺達は、魔法を強化する装備を購入しに、ガムドさんの店にやって来た。
「こんにちは、ガムドさん」
「ようセイジ、よく来たな。酒は?」
「二言目に酒ですか」
「持ってきてるんだろ?」
「そりゃあまあ、持ってきてますけど」
俺は、商店街の酒屋で買ってきた『ブランデー』をテーブルに置いた。
「ん? ウイスキーじゃないのか?」
「よくわかりましたね」
「香りが違う」
流石、酒好き。
「原料が小麦じゃないので、違う酒ですが、これも美味しいですよ」
「ああ、ありがとよ。それで、今日は何が欲しいんだ?」
「やっと本題に入れますよ。今日は前に貰った【水のロッド】や【回復の髪飾り】みたいな、魔法を強化してくれる装備を、ひと通り揃えたくて来たんです」
「ん? ひと通り? どういう事だ? エレナの嬢ちゃんは水と回復じゃなかったか? もしかして、仲間を増やすのか?」
「違いますよ、他の魔法も新たに習得したんです」
「新たに習得!? 土か? それとも風か?」
「風です、土もきっと習得できるので、先に購入しておきたいんです」
「エレナの嬢ちゃん、すごい魔法使いだったんだな。ちょっと待ってな、髪飾りとロッドだったな」
ガムドさんは奥から髪飾りとロッドを幾つか持ってきた。
「【風のロッド】【土のロッド】、【風の髪飾り】【水の髪飾り】【土の髪飾り】だ」
「あれ? 火は無いんですか?」
「そんな珍しいのは、ここには置いてないぞ。どうしても欲しいなら、スガの街の武器屋にでも行ってみるんだな」
「ありがとうございます。後で行ってみます」
「それで、この髪飾りとロッドは、どうする?」
「全部で、いくらになりますか?」
「一つ1000Gだから全部で5000G何だが、セイジには世話になってるから、3000Gでいいぞ」
「ありがとうございます」
俺は3000Gを支払って、髪飾りとロッドを手に入れた。
俺達はガムドさんの店を出て、スガの街の武器屋に向かった。
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「こんにちは」
「いらっしゃい、また家の庭を破壊しに来たのかい?」
「勘弁して下さい。買い物ですよ」
「なんだそうか。何を買いに来たんだ?」
「【火の髪飾り】と【火のロッド】は、ありますか?」
「えらく珍しいのを探してるんだな、あることはあるよ」
「それじゃあ、雷氷闇光なんかもあるんですか?」
「【闇のロッド】と、【氷のロッド】は、たしかあったはず。他のはいくらなんでも置いてないよ」
「作ったりは出来ないんですか?」
「材料があれば作れるけど、材料の【属性強化魔石】は、うちじゃ作れないぞ」
「それは何処で扱っている物なんですか?」
「イケブの街の魔石屋だ。ずっとゴブリンに捕まってて、最近救出されたらしい」
あの人か。
取り敢えず【火の髪飾り】、【火のロッド】、【氷のロッド】、【闇のロッド】を、合計12000Gで購入したのだが―
店を出た所で、俺は変なことに気がついた。
マップ上に『オーク』が表示されているのだ。
「オークが居る」
「え!? 何処に?」
「ずっとあっちの方の、森の中だ」
「え? 森の中ってそんな遠くの敵が分かるの?」
「前までは分からなかったんだが…… それに魔物の種類も、何故か分かるようになってる。どうしてだろう?」
「セイジ様、【風の魔法】を習得した影響なのでは?」
「あ、そうか! 【風の魔法】を習得して、臭いを感知出来るようになったんだ!」
「え! 臭い!?」
アヤは何故か、股のあたりを押さえながら、俺を睨みつけている。『すかしっ屁』でもしたのか?
「魔物の臭いを嗅ぎ分けられるようになっただけで、『すかしっ屁』の臭いまでは、わからないよ」
「兄ちゃんのバカ! 死ね!」
アヤの『すかしっ屁』は置いておいて、オークの数が気になる、森の中とはいえ、20匹ものオークがいるのだ。
どうしようかと思案していると―
20匹のオークのうち、1匹が街に向かって移動を始めた。
「オークが1匹、こっちに向かってきている!」
「セイジ様、1匹だけなんですか?」
「ああ、そうだ。一体何なんだろう?」
俺達は、様子を見に、村の森側の出入口にやって来た。
しばらくすると、一台の馬車が街の中に入ってきた。
「あれだ。あれにオークが乗ってる」
俺達は、馬車を追った。
馬車はしばらく街の中を進み、奴隷商の店の倉庫に入っていった。
「なるほど、あれがオークに手を貸してる奴のアジトか」
「オークに手を貸してる? 人間が手を貸してるの?」
「ああ、そうみたいだ」
俺達は、奴隷商の店に、堂々と入っていった。
「申し訳ありません。ただいま奴隷は品切れでして……」
「品切れ? おかしいな、さっき馬車に乗せて、1匹持ってきたのではないのか?」
「いえ、あの、あれは……」
「ああ、そうか、あれは奴隷ではなく、魔物でも連れてきたのか?」
「え!? いいえ、違います!」
「では、なんだ?」
「それは、その……」
「お前の口から言えないのなら、代わりに俺が言ってやろうか?」
「へ?」
「山賊のお前は、オークと手を組んで、【人化の魔石】を持ったオークを、奴隷と偽って街に入れ、オークが人を拐う手助けをしている。違うか?」
「……」
【鑑定】で『職業:山賊』なのがバレバレなのだよ。
奴隷商あらため山賊は、俺のことを睨みつけている。
「さあて、どうする? ちなみに俺達三人共、お前と1対1で戦っても、余裕で勝てるくらい強いぞ?」
「死ね!」
だから言ったのに、急に襲ってきた山賊は、アヤのパンチ一発で気絶していた。
「オークは?」
「奥の部屋だ」
奥の部屋に移動すると、イカ臭い男が睨みつけてきた。
「お前、なんだ?」
「オークを退治しに来た」
「!?」
イカ臭い男がいきなり襲ってきたが、俺の【電撃拳】で気絶させた。
「兄ちゃん、そいつ殺さないの?」
「ああ、ちょっとした『余興』に使おうかと思って」
「余興ですか?」
「ああ。アヤ、さっきの山賊を運んでくれ。冒険者ギルドまで運ぶぞ」
「うん」
俺はイカ臭い男を、アヤが山賊を、それぞれ頭の上に持ち上げて、冒険者ギルドまで運んだ。
「すいませーん!」
「はい…… って!? その気絶した男たちは何ですか!?」
俺とアヤは、冒険者ギルドのフロアに、山賊とイカ臭い男を降ろした。
「そっちの男は山賊で、こっちのイカ臭い男は、人に化けたオークです」
「は? 何の冗談ですか?」
「冗談じゃありませんよ」
周囲に冒険者やギルドの職員が集まってきた。
「それでは、このイカ臭い男を見ていて下さい。これからコイツの正体を、暴いてご覧に入れます!」
俺は大声でそう宣言すると、イカ臭い男が持っていた【人化の魔石】を探し出し、みんなに見えるように掲げた。
すると、イカ臭い男は、その姿を人間からオークに変化させていった。
「ほ、本当に、オークだ!?」
「オーク達は、この【人化の魔石】を使って人に化け、山賊と手を組んで、奴隷のふりをして街に忍び込んでいます。そっちの男は、奴隷商のふりをしていた山賊です」
冒険者ギルドの中は、騒然としていた。
「あ、コイツは! 指名手配中の山賊の手下だ」
ギルドの職員が、山賊の男の事を知っていたみたいだ。
それから、ギルドで話し合いになり、山賊の討伐の為の部隊を結成する話になったのだが、俺達は別の用があると言って断った。
これだけ大げさに騒いでおけば、オークに忍び込まれることも無いだろう。
俺達は、スガの街を後にして、イケブの街へ向かった。
やっと奴隷関連の話が出てきました。
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