87.エレナと王様
「セイジ様、お父様に、この事を話さないと」
「まあ、行ってみるか」
俺達は、謁見の間に【瞬間移動】して来た。
「お、お前は! あ、エレナ! よくぞ無事で戻ってきた。さあ、こっちに来るんだ!」
謁見の間には、王様と俺を召喚した時にいた魔法使い以外には、少数の兵士しか居なかった。
「私は、戻ってきたのではありません」
「エレナ、それはどういう事だ?」
「私は、勇者様と『スカベ村』に行ってきました」
「なんだと!?」
「『スカベ村』は、ゴブリンプリンス率いるゴブリン軍に支配され、拐われてきた人たちが、無理やり働かされていました」
「働かされていた? どういう事だ」
「その人達は、ゴブリンに脅されて、【人化の魔石】を作らされていたんです」
「【人化の魔石】? 何だそれは」
「ほら、これがその【人化の魔石】だ」
俺が【人化の魔石】を王様に見せると、王様は魔法使いに命令して【鑑定】させた。
「確かに【人化の魔石】です。『持つ者を人の姿に変える魔石』と、あります」
「なんだと!?」
「オークたちが、この【人化の魔石】を持って『シンジュの街』の『スラム街』に入り込んでいるのも見ました」
「『シンジュの街』の『スラム街』といえば……」
「そうです、『スカベ村』が魔王軍に襲われたと報告した、スラム街出身の商人も、【人化の魔石】で人に化けたゴブリンかオークだったと思います」
「そんなばかな」
「お父様は、ゴブリンとオークに騙されているんです! 直ぐに戦争を止めて下さい」
「……」
「お父様!」
「……いや、違う」
「何が違うというんですか?」
「魔王軍との戦いの発端は、『スカベ村』ではない」
「え!? では、いったい何が原因なのですか?」
「魔族は、よりにもよって、この城に忍び込み、エレナ、お前を拐おうとしたのだ」
「え!? そんな話は聞いていません」
「お前を怖がらせまいと思って、黙っていたんだ」
「で、でも、それが本当に魔族だったのですか?」
「ああ、間違いない。忍び込んだ魔族は、見つかると直ぐに逃げてしまったが。メイド3人と庭師がその姿を目撃している」
「王様、ちょっといいか?」
「なんだ勇者よ」
まだ俺のことを勇者と呼ぶのか。まあいいけど。
「そのメイドと庭師を、ここに呼んでくれないか?」
「わ、分かった。おい、誰か、呼んで参れ」
しばらくすると、兵士の一人が、メイド3人と庭師の男を連れてきた―
のだが。この庭師、何か臭うな。
「お前たち、魔族を目撃した時のことを話せ」
「はい」
メイドの一人が、答え始めた。
「お城に何者かが侵入したとの報告があり、私達は姫様の安否を確認しようと、向かっておりました。姫様の部屋の前に着くと、いきなり人族の何倍もある『何か』が姿を表しました。私達が悲鳴をあげると、ソレは逃げ出していきました。以上でございます」
あれ?
次に庭師が、答え始めた。
「おでが、庭の、様子を、見に、行くと。魔族、いた。魔族、逃げて、行った」
目撃証言が終わり、俺の尋問タイムだ。
「まず、メイドさん達に聞きます。あなた達の見た者は、本当に魔族でしたか?」
「えーと、暗くてハッキリとは分かりませんでした」
「3人とも同じですか?」
「「はい」」
「でも、人族ではなかったのは確かです」
「では次に庭師さんに質問です。……お前、何が目的だ?」
「…… 質問、わからない」
「じゃあ、分かりやすく言い直そう。オークが人間の城に潜り込んで、何をしているんだ?」
「!?」
「勇者よ、何を言っておる!」
「っていうか、お前イカ臭いんだよ!」
臭いを指摘された庭師は、いきなり逃げ出した。
「【電撃】!」
「ギュアー!」
庭師は、電撃を食らって体がしびれ、その場に倒れた。取り敢えず、息はまだあるみたいだ。
俺は庭師に近づき、体を弄って『あるもの』を見つけ出した。
俺が、庭師の持っていた『あるもの』を取り上げると―
庭師の体が、ブアッと霞んだかと思うと、黒オークの姿に変化した。
「オーク!? ゆ、勇者よ、これはどういう事だ!」
「エレナが言っていたじゃないか。【人化の魔石】だよ」
「ま、まさか……」
「メイドさん達が見た、人族ではない何かは、コイツだったんじゃないのか?」
「わ、分かりませんが…… そうかもしれません」
「王様、どうするんだ? 魔族は、とんだ濡れ衣だぞ」
「お父様、魔族の仕業じゃないと分かったのですから、早く戦争を止めて下さい」
「……」
王様は黙ってしまった。まあ、いきなりこんな事を知らされれば、混乱するのも当たり前か。
「お父様! 早くなさって下さい!」
「エレナ…… もう遅い、戦争はもう止められない……」
「何故ですか!」
「これだけ大掛かりに兵を動かしたのだ、魔王軍も黙ってはいまい」
「そんな……」
謁見の間は重苦しい空気に包まれていた。
「じゃあ、俺達で戦争を止めるか」
「セ、セイジ様!」
「ば、バカな、そんなことが出来るわけがない!」
「そんな事、やってみなきゃ分からないさ」
「わ、分かった。だが、エレナは置いていけ!」
「お父様!」
「王様、分かってねえな~ エレナは強いぞ、ゴブリンプリンスを倒したことだってあるんだぜ?」
「なん、だと……」
「なあ」
「はい」
「しかし…… エレナは狙われているのだ。戦争に巻き込まれれば、何があるか分からん」
「狙われている? どういう事だ?」
「魔族が…… いや、このオークが侵入した時、エレナの部屋を目指していたのだ。おそらくエレナを拐うのが目的だったはずだ」
「よく言うぜ、お前だってエレナを牢屋に閉じ込めてたくせに」
「それは違う」
「何が違うっていうんだ」
「それは…… この城で一番安全なのは、あの牢屋なのだ」
「え!?」
「何重にも鍵を掛け、見張りの兵士も大量に配置した。しかし、勇者、お前は、そんな中からエレナを連れ去った」
まあ、【瞬間移動】は鍵とか関係ないし。
「その後も、大掛かりな捜索を行って、やっと手がかりをつかみ、卑怯な手を使ってでも取り戻そうとしたにもかかわらず。簡単に看破されてしまい、その後は、また手がかりを掴めなくなってしまった」
まあ、日本に戻ってた期間もあるし、移動は【瞬間移動】を使っていたから、そう簡単に見つかるわけ無いんだけどね。
「わしとライルゲバルトは、協議の末、エレナをこのまま勇者に、守らせておくことにしたのだ。このまま取り返すために大掛かりに動けば、敵に知られる可能性もあった。何より、勇者の庇護のもとにあった方が、城で保護するより、安全だと判断したからだ」
「なるほど、それで追手がぜんぜん来なかったのか」
「ですがお父様、私は勇者様とともに戦争を止めに行きます。これは、王族として生まれた私の『責務』です」
「え、エレナ……」
「ま、そういうわけだから、諦めてくれ」
「わ、分かった。だが勇者よ、エレナだけは絶対に守りぬいてくれ」
「ああ、わかった」
コイツはコイツで、ちゃんとエレナを大事にしてるんだな。王様としてはダメダメだけどな……
「さてと、それじゃあ、戦争を止めに行く前に、色々やることを済ませておこう」
「兄ちゃん、何をするの?」
「まずは、コイツだ!」
俺は気を失っている黒オークに近づき、黒オークの破れかけの服の胸ポケットに【人化の魔石】をねじ込んで、庭師の姿にもどし。
そして、後ろ手に縛り上げ、水の魔法で顔に水をぶっかけて、無理やり目を覚まさした。
オークの姿のままでは、言葉を話せないみたいだからな。
「おい! 起きろ!」
「ブモッ」
「おいきさま、ゴブリンとオークが何を企んでるのか、洗いざらい白状しろ!」
「うぐ…… おで、失敗…… 情報、話す、ダメ」
「話さないと、ひどい目に合わせるぞ!」
「失敗、殺される…… グッ! グゲッ!!」
庭師は、急に苦しみだし、瞬く間に息絶えてしまった。
姿も黒オークに戻っていた。
「だ、ダメです。もう死んでしまっています」
「何故、こんなに急に!」
「呪いのたぐいが掛けられていたのかもしれません」
俺達は、情報を聞き出すことが出来ず、苦虫を噛み潰していた。
何年かぶりに歯医者行ってきたぜ!ドリルの音を聞くだけでヒア汗がドバドバ出たorz
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