83.ビリビリ魔石
自宅に帰ってきて、玄関で靴を脱ごうとした丁度その時、インターフォンのチャイムが鳴り響いた。誰だろう?
「はーい」
扉を開けてみると、朴訥フェイスだった。
「……その格好は?」
朴訥フェイスは、俺達3人の格好に驚いていた。
しまった、鎧を着たままだった。
「えーと、これはだな~ そう! これはコスプレなんだよ」
「やっぱり、そうだったんですね!」
ん? やっぱり??
「じ、実は、これを、エレナさんに持ってきたんです」
朴訥フェイスは、笑顔で一枚のチラシをエレナに渡した。
<ゴールデンウィーク・コスプレ大会>
そのチラシには、そのように書かれていた。
「あ、あの、用事はそれだけです」
朴訥フェイスは、そそくさと帰ってしまった。
「何だったんだ? あいつ」
鎧を着替え、リビングに行ってみると、先に着替え終わっていたエレナは、チラシに釘付けになっていた。
チラシを覗いてみると、魔法少女の格好をした、女性の決めポーズ写真が、でかでかと印刷されている。
「エレナ、それに行ってみたいのか?」
「え? あ、はい。これは、どんなものなのですか?」
知らずに見入ってたのかよ。
「それはコスプレのお祭りだよ」
日時は5月5日のこどもの日。
場所は、例の夏冬の同人誌即売会が行われる、逆三角形や『のこぎり』型のオブジェが特徴の、あの場所だった。
「コスプレって、魔法少女の格好をしたりする、アレですか?」
「魔法少女だけじゃなくて、色んな人が、色んなキャラのコスプレをするんだ」
「それは凄いですね!」
なんかエレナが目を輝かせている。
「エレナ、参加してみたいのか?」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、いいよ」
「セイジ様、ありがとうございます!」
エレナは喜びのあまり、顔がニヨニヨしてしまっている。エレナは、かわいいな~
「エレナちゃん、何のコスプレをするの?」
「えーと、どんなのがいいんでしょう?」
「やっぱり自分の好きな作品がいいんじゃないか?」
「エレナちゃんが好きな作品って何?」
「えーと、この前見ていた…… これが好きです」
エレナはDVDを棚から出して見せた。
そのDVDのタイトルは『魔法少女・シィ』という作品だった。
「これって有名なのか?」
「兄ちゃん知らないの? 今シーズンに3期目をやってるよ」
「ほう、3期まで続いた作品なのか。そうとう人気あるんだな」
「一期が『魔法少女・シィ』、二期が『魔法少女・シィぷらぷら』、今やってる三期が『魔法少女・シィ#(シャープ)』だよ」
どこかの言語のような名前だな……
「『オブジェクティブ・シィ』は無いのか?」
「それは、OVAだったかも」
あるのかよ!
「所で、その作品は、どんな話なんだ?」
「『シィ』って女の子が、大学で魔法研究部に入部して、本当に魔法が使えるようになっちゃう話だよ」
「ほうほう、それで、登場人物はどんなのがいるんだ?」
「えーと、風の魔法を使うシィちゃん、水の魔法を使うアプレちゃん、火の魔法を使うランちゃん、土の魔法を使うシジルちゃん、の4人がメインキャラだよ」
「その『シィ』は、エレナに似た感じなのか?」
「うーん、どっちかって言うと、アプレちゃんの方が似てるかも。アプレちゃんも金髪だし」
「そうですか? じゃあ、シィちゃんはアヤさんですね」
「4人組なのに2人だと、バランス悪く無いか?」
「そうだな~、空手道部の2人を誘ってみようかな~」
「そのお二人は、どのような方なのですか?」
「えーとね、部長の舞衣さんは、ちっちゃいのに、凄く強くて、マネージャーの百合恵さんは、一見優しそうだけど、なんか危ない人」
「その人達は、魔法少女のコスプレなんて、やってくれそうなのか?」
「わかんないけど、明日聞いてみる」
「何だか楽しそうになってきましたね」
エレナが楽しそうにしているなら、俺も全面的に協力してやらないといけないな。
「で、兄ちゃんは、シィちゃん達が通う大学の、近所のゲームセンターの店員ね」
「なにそれ?」
「だから~ 兄ちゃんがやるコスプレ」
「俺もやるのかよ!」
「当たり前でしょ!」
「セイジ様が、あのキャラをやってくださるのですか!? それはとっても楽しみです!」
くそー、エレナがこんなに喜んでるなら、やるしか無いじゃないか!! まあ、そのキャラも重要なキャラみたいだから、別にいいか。
その後、エレナとアヤは、コスプレの作戦会議だとか言って、部屋に行ってしまった。
~~~~~~~~~~
俺は、自分の部屋に戻って、貰ってきた魔石をいじってみることにした。
まずは、【人化の魔石】だが、俺が持った所で、当たり前だが、何も起きなかった。
【ビリビリ魔石】は、持つとビリビリする。
魔力を込めると、ビリビリが強くなり、しばらく強い状態が継続した。継続時間は、込めた魔力によって変わるみたいだ。
魔石によって、ビリビリの強いものもあるので、ゴム手袋をして取り扱うことにした。
その【ビリビリ魔石】を【テスター】で調べてみた。魔石の黒い部分と、黄色い部分に、テスター棒を当てると、電気が流れ。なんと! 50~60Hzの交流であることがわかった。しかし、電圧は10~220Vまで、魔石によって違うらしい。
更に色々調べてみた。2つの魔石をくっつけると、魔石の元々持っていた電圧が足され、新しい電圧に変化するのだ。30Vと70Vをくっつけると、100Vになった。これは面白い特性だ。
俺は、延長コードのコンセントプラグ部分を取り外し、プラグに接続されていた電線を、100Vの魔石にハンダで取り付けてみた。俺はちゃんと『第二種電気工事士』の資格を持っているので、持っていない人は、あまり真似しないように。
出来上がった【魔石コンセント】に、ためしに電気ケトルをさして、水を入れてみた。
電気ケトルは正しく動作し、当たり前のようにお湯がわいた。
「やった!」
思わず、ガッツポーズを取ってしまった。
これで、異世界に行っても、コンセント魔法のせいで俺だけご飯が食べられない、なんてことがなくなるぞ!
その後の調査で、1kW程度までは動くが、それ以上をつなげようとすると、ブレーカーが落ちるように、その魔石はしばらく電気が流れなくなった。まあ、しばらく時間が立てば元に戻るし、たくさんの電気を使う前に、ある程度の魔力を込めておけば、2kWまでは使えることが分かった。
考えてた以上の成果に、俺はウホウホ喜んでいたのだが……
ハッと気がつくと、俺の部屋のドアの隙間から、アヤとエレナが覗き見していた。
「勝手に覗くな!」
俺に叱られた二人は、そそくさと自分の部屋に戻っていった。
コスプレは、黒い歴史を、思い出す。
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