76.スカベ村へ
仮眠から目が覚め、時間を確認すると、そろそろ日が暮れる時刻だ。
エレナは静かに本を読んでいた。
「エレナおはよう」
「セイジ様おはようございます」
「悪いね、退屈な思いをさせてしまって」
「いえ、スカベ村の調査は、私が言い出した事ですし。これくらい全然平気です」
「これからアヤを迎えに行くから、ちょっと待っててね」
「はい」
アヤの場所を確認すると、馬車で1日くらいの距離まで進んでいた。さすがアヤ。
映像を確認すると、アヤは風をまとって、猛スピードで駆け抜けていた。
「【瞬間移動】!」
俺がアヤの隣に移動すると、アヤは急ブレーキを掛けてクルッとこちらを向き直り戦闘態勢に入った。
「俺だよ!」
「なんだ兄ちゃんか」
「どうだ? 魔物は出なかったか?」
「何匹か出たけど、無視して走ってきちゃった」
「倒さなかったのか?」
「倒しても、兄ちゃんいないから運べないし」
「そう言えば、そうか」
俺は、アヤを宿屋の部屋に連れて帰ってきた。
「アヤさん、お帰りなさい」
「エレナちゃん、ただいま。兄ちゃんに変なことされなかった?」
「するか!!」
「セイジ様はずっと寝てましたよ」
「なーんだ、つまんない」
「くだらない事、言ってないで。俺はひとっ走りしてくるから、二人は大人しくしてろよ」
「はーい」「はい」
後のことは二人に任せて、俺はアヤが到達していた、さっきの地点まで【瞬間移動】で舞い戻った。
「さて、いっちょ走りますか」
俺は、【運動速度強化】と【クイック】を掛けて走り始めた。
風が気持ちいい。左右の森の景色が後ろにすっ飛んでいく。いくら走ってもあまり疲れることがない。
強いて難点を言えば、足元が凸凹して走りにくいところかな。これ魔法で何とかならないかな?
試しに、ちょっと先の足元に、氷の絨毯を生成してみた。土の魔法でもあれば、平らな地面を作れたのだろうが、今俺が使える魔法で出せる平らなものと言ったら、氷しかなかったのだ。
走る勢いはそのままで、氷の絨毯に突入してみると。氷の上をツーっと滑って、少し滑った所で止まってしまった。スケート靴を履いてれば、結構行けたかも。しかし、足元が滑ってしまって、そこから移動が出来ない。
仕方ないので、【瞬間移動】で氷の絨毯から抜け出した。
「そうか【瞬間移動】が、あった!」
俺は今更ながら、【瞬間移動】を使った移動を試して見た。
結果は、ダメだった。
『見える範囲の移動』の移動距離は500mが限界で、長距離の【瞬間移動】だと、連続して使えないのだ。10m位の移動なら、連続して使えるのだが、走りながら【瞬間移動】を使うと、移動後に走ってた勢いが止まってしまうのだ。
10mの連続【瞬間移動】をするくらいなら、走ったほうが早い。
仕方ないので、また【運動速度強化】と【クイック】だけで走り続けた。
やっぱり【風の魔法】は欲しいな、こんな風に走っていると、風の抵抗は無視できない。急に道の真中に障害物が現れた時に、突風で素早く軌道修正して避けることも出来るし。
そういえば、【電光石火】を使った時に、敵の体を通り抜けてたけど、ちょっとした障害物なら、あれで通り抜けできるんじゃね? 俺はやってみることにした。
しばらく、走っていると道に木が倒れていた。
「今だ!【電光石火】!」
【電光石火】を使うと、俺の体は電気となり、倒れていた木をすり抜けた。
「やった、成功だ!」
ん? 待てよ? 【電光石火】を連続で使ったら、もっと早く走れるんじゃね?
やってみた。
凄く早かった。
「今までの試行錯誤は何だったんだ!」
俺は、【電光石火】を使いっぱなしにして、走り続けた。早い早い! 空気抵抗も無く、障害物もズバンと通り抜けて一直線だ。
調子に乗って【電光石火】でガンガン進んでいくと、急に倦怠感を感じた。
何かと思って【電光石火】を止め、自分を【鑑定】してみると、MPがほとんど底を突いていた。
「うわ、俺のMPがこんなに減ったのを初めて見た」
俺は、普通に走りながら、インベントリから和菓子を取り出して、むさぼり食った。やはり和菓子はMP回復量が多いらしく、どんどんMPが回復していく。特に砂糖菓子の回復量は凄まじかった。
しかし、さっきから和菓子を食いまくっているのだが、いくら食べても腹に溜まらない。何故だ? もしかしたら、MP回復に使われた分は、胃袋から横取りされているのかもしれないな。
和菓子を食いながら、電光石火で走っていると、急にマップ上に『注意』のマークが現れた。しかも数が多い! 100をはるかに超えている。
恐る恐る近づき、状況を確認してみると、人間の村の中に、ゴブリンが大量にたむろっているのが見える。
どうやら、スカベ村はゴブリンに乗っ取られている様だ。魔王軍に滅ぼされたんじゃなかったのかよ!
誤字脱字チェックにSofTalkを使ってみた。これいいかも。
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