074.空手道部 ☆☆
その日は一日中眠かったが、【体力回復速度強化】で体力を回復させつつ、なんとかしのいでいた。
【追跡】魔法でアヤを見ていると、昼ごろにようやく起きだして、短大へ行った。
エレナは、昼を少し過ぎた頃に起きたが、冷蔵庫のプリンを寝ぼけまなこで食べると、二度寝してしまった。
短大に行ったアヤを見ていると、放課後に空手道部の稽古場に突撃していた。
そして、空手道部の稽古場に入るやいなや叫んだ。
「たのもー!」
道場破りかよ!
「あなた誰?」
稽古場には子供が一人だけだった。子供? ここは短大の空手道部の稽古場だよな?
「私は、空手道部に入りに来たんだけど…… あなたこそ誰?」
「ボクは、君が入りたいって言う空手道部の部長だよ」
部長? この子供が? どう見ても小学生くらいにしか見えない。
「で、本当の部長さんは何処に居るの?」
「まあ、こんななりだから勘違いされるのは覚悟してるけど…… 君、新入生だろ? 先輩に対してその態度はちょっと失礼だよ」
そう言うと、その子供は急に雰囲気が変化した。
「!?」
アヤもそれに気が付いて、構えを取った。
「ほう、妙な構えだね、我流かい?」
そんな会話が終わるかどうかというタイミングで、その子は床を蹴ってアヤに襲いかかった。
アヤはギリギリその子の攻撃を避けて、間合いを取った。のだが、靴下を履いているせいで滑ってしまい、転んでしまった。
「ここは板張りだから、靴下だと滑るよ~」
子供部長に言われて、アヤは靴下を脱いで投げ捨てた。
「それじゃあ、ちょっとスピード上げるよ?」
子供部長は、さっきより素早い動きで突進してきた。アヤも靴下を脱いだことで、ちゃんと動けるようになり、その攻撃を簡単に躱すことが出来た。
「なんだい、その避け方は! 少なくとも空手じゃないね」
その後も、子供部長の素早い攻撃を、アヤは避け続けた。
「いやあ、君の動きは面白いね。そんななりで良くそんなに動けるね」
「貴方に言われたくない」
「あはは、そういえばそうだね」
何度目かの攻防が続き、子供部長の足払いをアヤはジャンプで避けてしまった。
「いただき!」
子供部長は足払いをキャンセルして、竜が昇る様なアッパーを繰り出してきた。アヤは空中に居るため、避けることが出来ない。
ドコッと鈍い音が稽古場に響いた。
アヤはギリギリで腕をクロスして防いでいたが、アッパーの威力に押されて後ろに吹っ飛び、背中から稽古場の壁にぶち当たった。
「くっ!」
「よくアレをガード出来たね、君って本当に凄いね」
子供部長にとってそれは本当に賞賛の声だったのだが、アヤはそうは思わなかった。
アヤは怒りに満ちた表情で子供部長を睨みつけ、【体力回復速度強化】を使い始めた。
おい、バカやめろ、魔法を使うんじゃないよ!
「あれ? 君、それなにしてるの? なんか君の体ちょっと変じゃない?」
子供部長は何かを感じ取ったみたいだ。勘が鋭いのかな?
「君、なにか裏技を持ってるんでしょ? もうちょっと見せてよ」
子供部長はそう言うと、手招きをしてアヤに挑発している。アヤは頭に血が上って、その挑発に乗ってしまい、子供部長に向かって突進した。
アヤは子供部長の周りを回りながら、隙をついて手刀で攻撃を加えようとするが、全て避けられてしまう。
「面白い動きだね、でもちょっと単調すぎるよ!」
子供部長の鋭い蹴りが、アヤの鼻をかすめた。アヤはいきなりの蹴りを避けようとして、転げるように距離をとった。多分その蹴りも、わざと当たらないように蹴ったのだろう。
アヤはとうとう、【運動速度強化】の魔法を使い始めてしまった。
「おお、なんか変な感じだ。それが裏技かい? なんかスゴそう!」
尋常じゃない速度で子供部長の周りを回るアヤが繰り出す攻撃に、流石の子供部長も避けきれなくなり、たまにガードせざるを得ない状況になってきた。
「スゴイ!スゴイ! なんだこれー!」
子供部長はハイテンションではしゃいでいる。
アヤはここまでやっても自分の攻撃が当たらないことにいらだち。
【追い風】や【突風】まで使い始めた。アヤ、やり過ぎだ!orz
「風が……」
流石の子供部長も、事態の異常さに気が付き、顔が強張ってきている。
段々とアヤの攻撃が、子供部長にかすりはじめて来た。子供部長の顔も、もう真剣そのものになっている。
二人の攻防の速度が少しずつ上昇していく……
「は!?」
子供部長が何かに気が付き、大きく後ろにジャンプしてその場を離れたその瞬間!
子供部長のいた場所に【竜巻】が発生した!
子供部長がその光景を見てギョッとした時、アヤが空中にいる子供部長に目掛けて、ジャンプしながら拳を突き出した。
ドコッと鈍い音が稽古場に響いて、今度は子供部長が稽古場の壁に吹き飛ばされた。
それを見ていたアヤが、着地をしようと下を向いた瞬間!
「くっ!」
アヤは鳩尾に激しい痛みを食らって、その場に蹲ってしまった。
子供部長は吹き飛ばされ壁に激突する寸前に、空中で体勢を整えて壁を蹴り、その勢いで着地しようとしていたアヤの鳩尾を攻撃したのだ。
「ご、ごめん、つい本気を出してしまった」
うずくまるアヤ、謝る子供部長。
アヤは、痛みよりも負けた悔しさで、えぐえぐ泣き始めてしまった。
「ああ、本当にごめん。泣かないでおくれよ~」
と、そこに、メガネを掛けた女の子が入ってきた。
「ぶ、部長! なにしてるんですか!!」
「やあ、百合恵くん。この子は新入部員みたいなんだけどね、面白そうな子だから、ちょっと手合わせをしてたら~ つい本気になっちゃって……」
この子は、百合恵という名前なのか。
「部長が本気に!? 大丈夫なんですか!? 救急車を呼びますか!?」
百合恵ちゃんもなんか大げさだな、まあ、普通の人があの子供部長の攻撃を食らったら、ただでは済まなかっただろうけど。
百合恵ちゃんはアヤに駆け寄り、アヤの顔を自分の胸に押し付けて抱き寄せた。アヤは百合恵ちゃんの巨大な胸に埋まって、泣いていたことを忘れてもがき苦しんでいる。
「もう大丈夫ですよ、私が慰めてあげますからね~」
「モガモガ……」
「よしよし、痛かったですね~」
子供部長は危険な人物だけど、こっちの百合恵ちゃんも別の意味で危険な人だ。デカいし……
アヤが百合恵ちゃんの胸の間から上目遣いで見上げると。
「キャー、この子可愛い! 私の所にお泊まりに来ませんか?」
「え?」
「あー、百合恵くんは『ガチ』だから、気を付けたほうがいいよ」
「ひどいです部長!『ガチ』じゃないですよ~ 可愛い女の子が好きなだけです!」
「そういうのを『ガチ』って言うんだよ!」
この人はそういう人でしたか…… アヤ、骨は拾ってやるからな。
やっと三人共冷静さを取り戻した所で、改めて自己紹介ということになった。
「新入生の丸山アヤです。空手道部に入部希望です。よろしくお願いします」
「ボクは、空手道部部長の河合舞衣だ、よろしくな」
「私はマネージャーの三原百合恵です。アヤちゃん、よろしくね」
そんな波瀾万丈な、アヤの空手道部入部なのであった。
ブックマーク登録数が1万を超えました。なんかすいませんm(__)m
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