73.和菓子パワー
せっかく『イケブの街』にたどり着いたのに、街の中をほとんど見ずに帰ってきてしまった。ちょっとぐらい見てからにすればよかったな。
その日の夜は、買ってきた【マンドレイクの根】を使って【精力剤+3】を23本作り、合計で29本になってしまった。部長が使うかと思って取っておいたけど、流石に多すぎるので、今度幾つか売ってしまおう。
あと、【精力剤】の材料として【体力回復薬】も作ったのだが、材料の【薬草】を全部使ってしまった。これも仕入れておかないといけないな。
作りすぎてしまった【体力回復薬+3】が7本だけ手元に残っているが、これは何かに使えるかもしれないので持っておこう。
翌日、会社に行くと部長から昼食の誘いを受けた。例の件で話があるらしい。
高級うなぎ店で美味しいウナギに舌鼓を打ちつつ、部長は嬉しそうに語り始めた。
「例のモノを貰った日に使おうかと思ったんだが、家内が無断で旅行に出かけてしまっていてな、金曜日にやっと旅行から帰ってきて、チャンスだと思って、例のモノを少しだけ飲んでみたんだ。お猪口に一杯、たったそれだけだった。」
部長はいつもは絶対見せないようなハツラツとした笑顔で、少しぎこちなくなっていた夫婦の関係が改善したこと。金土日で例の薬を飲みきってしまったことを教えてくれた。
「喜んで頂けて、俺としても嬉しいですよ」
「それでだ! あまり例のモノに頼るのは良くないことだとは分かっているのだが、もしものときのために何本か持っていたいのだ。お願いできるか?」
俺は出し渋っておくことにした。
勘違いしないでよね、あまり沢山飲むと部長の体に悪影響が出ないか心配したからであって、希少価値を釣り上げようなんて全然考えていないんだからね!
「すいませんけど部長、今は手元には一本だけしか用意出来ていません」
俺はそう言って、一本だけ【精力剤+3】をテーブルに置いた。
「そうか、一本か、そりゃあそうだよな、これだけの物がそう安々と手に入るわけないもんな」
「ですから、もうちょっと使用間隔を開けて飲まれたほうがいいかと思います」
「そうだな……」
部長も納得してくれたみたいなので、今後はペースを落としてくれることだろう。
「部長、これはまた別のものなのですが……」
俺はそう言って【体力回復薬+3】を1本とり出して【精力剤+3】の隣に置いた。
「これは?」
「体力を回復させる飲み物です。もし激しい運動などで疲れてしまったら、こちらをどうぞ」
歳を取ってからの激しい運動は、危険なこともあるらしいからな
「そうかそうか、これもいいものなんだろうね?」
「コチラは、例のものよりかは若干手に入れやすいので、それほどではありませんよ」
「なるほど、こちらも二本目以降と言うことでいいのかね?」
「ええ、それで構いません」
部長と俺はニヤリと笑みを浮かべあった。
しかし、部長はテーブルの上に置きっぱなしになっている薬が気になるようで、そわそわしている。
「そ、それでだ…… 二本目のお礼を用意してきたのだが、受け取ってもらえるか?」
「え? あ、はい」
部長は辺りを気にしながら、懐から茶封筒を取り出して、スッと差し出してきた。
俺がその封筒を隠すように受け取り懐に仕舞うと、部長は【精力剤+3】と【体力回復薬+3】の小瓶を、大事そうにハンカチで包んでカバンにしまった。
「ははは、いやあ俺も君みたいないい部下を持って幸せだよ。さあ、うなぎを食べて今日も頑張らないとな!」
部長、頑張るのは午後の仕事のことですか? それとも夜の仕事のことですか? あまり考えないことにしよう。 その後、俺と部長は高級うなぎのパワーで午後の仕事をバリバリ終わらせた。
帰宅してから茶封筒の中身を確認してみたところ、諭吉さんが10人も居らっしゃった。部長、流石に多すぎ……
~~~~~~~~~~
その日の夜、夕飯を食べ終えて3人でお茶を飲んでいると、インターフォンのチャイムが鳴り響いた。こんな時間に誰だろう? なんだか嫌な予感がする。
「はーい」
扉を開けてみると、いつぞやの商店街の朴訥フェイスだった。
「君は確か、商店街の……」
「え? あ、はい。え、えーと、えーと……」
青年よ、時に落ち着け。
そういえば、俺は【追跡】の魔法で見てたけど、コイツとは初対面だった。
「前に、うちのエレナが送って貰ったそうだな。エレナから聞いているぞ」
「あ、はい。そ、それででですね、エ、エレナさんは、いらっしゃいますでございますでしょうか?」
「居るが、どういったご用件で?」
しかし、コイツはなんでこんなに怖がっているんだ?
エレナが一人暮らしだと勘違いして、襲いに来たのだったらただじゃ置かないぞ!
「えーとですね、う、うちの、ば、ば、婆ちゃんが、最後にエレナさんに会いたいって、言ってまして」
「こんな時間にか? ん? 最後に??」
「あ、あのですね、婆ちゃんの体調が急に悪くなって……」
「それでか! でも、それに最後にって! もしかしてヤバイ状態なのか?」
「は、はい」
「そうだったら早く言えよ! エレナ! 出かけるぞ、準備しろ」
俺が、家の中に向かって叫ぶと、エレナは顔を出した。
「セイジ様、どうなさったんですか?」
「コイツのお婆さんが体調が悪くてエレナに来て欲しいって」
「分かりました、直ぐに準備します」
しばらくして出かける準備が整った俺達は、アヤも入れて3人で、朴訥フェイス君に連れられて商店街の和菓子屋さんにやって来た。
「婆ちゃん、エレナさん連れてきたよ」
「ホントに連れてきてしまったのかい? いいって言ったのに」
「だ、だって、婆ちゃん……」
お婆さんは、布団で横になり、顔を力なくこちらに向けた。
「エレナちゃん、ごめんなさいね。この子が無理言ったみたいで……」
エレナはお婆さんに駆け寄り、手をとった。
「今直ぐお治しします」
「エレナちゃん、いいの、最後に、あなたが来てくれただけで…… 短い間だったけど、こんなお婆さんに親切にしてくれて、ありがとうね……」
お婆さんは、そう言ってゆっくり目を閉じていった。
「ダメです! 私が治します!!」
エレナは思いっきり【回復魔法】を使い始めた。
これはもう『おまじない』じゃ誤魔化しきれないな。
しかし、俺にはエレナを止めることが出来ない。
「エレナ、いいか、くれぐれも無茶をしたらダメだぞ」
「はい! セイジ様、体力を見てて下さい」
「分かった」
俺はお婆さんのステータスをチェックした。
┌─<ステータス>─
│名前:本田 梅子
│職業:和菓子屋
│年齢:80
│状態:(末期悪性腫瘍)
│
│レベル:1
│HP:5/60
│
│力:4 耐久:2
│技:10
└─────────
「HPが危険だ」
「はい」
エレナの【体力譲渡】で、お婆さんのHPも少しずつ回復し始めた。
しかし、『末期悪性腫瘍』が気になる。
「おい青年、お婆さんは悪性腫瘍なのか?」
「はい、薬で痛みを抑えていたのですが、最近はそれも効かなくなってきてて」
つまりは『終末期医療』というやつだな。
「エレナ、お婆さんの体の中に『悪性腫瘍』が有るらしいんだが、解るか?」
「悪性腫瘍ですか? 魔法で解るかどうかやってみます。」
エレナは、お婆さんのHPを維持しつつ、魔法でお婆さんの体を調べる事が出来ないか色々試行錯誤している。
エレナのMPもどんどん減っていってしまっている、飴でなんとか持ちこたえているが、これでは飴でも回復しきれない。
「おい、青年」
「はい、何でしょう」
「糖分の多い物を何か持ってきてくれないか?」
「はい、分かりました」
青年は、和菓子を持って戻ってきた。
「婆ちゃんが、最後に作ってた和菓子です」
「よしエレナ、この和菓子を食べるんだ」
「はい」
「私が手伝ってあげる」
魔法で手が離せないエレナは、アヤに和菓子を食べさせて貰った。
すると、エレナのMPが見る見るうちに回復し始めた。やった、これでMPもなんとかなるぞ!
「セイジ様、分かりました! 悪性腫瘍が見えました」
エレナのステータスを確認してみると、【病巣発見】の魔法が新たに追加されていた。
「よし、いいぞ! その悪性腫瘍を治していくんだ」
「はい!」
アヤは、エレナの汗を拭いたり、和菓子を食べさせたりしている。少しシュールな光景だな……
青年は、訳もわからずに、只々祈り続けている。
エレナはお婆さんの悪性腫瘍を治そうと色々やっているのだが、どうもうまくいかない。悪戦苦闘は2時間にも及び、全員に疲れの色が出始めていた。
「セイジ様、上手くいきません。どうしましたら……」
「うーむ、どうすればいいんだ……」
「手術だったら悪性腫瘍は取っちゃうよね」
アヤ、いいことを言った。
「取る? のですか?」
「そうだな、日本の手術だと一旦切除して、その後で再生するのを待つ」
「分かりました、それでやってみます」
しばらくして、エレナがニコリと笑った。
「やったのか?」
「はい、少しだけですが、腫瘍が減ってきました」
「いいぞ、その調子だ!」
「はい!」
しばらくして、エレナはニコリと笑って魔法を掛けていた手をお婆さんから離した。
「やりました、悪性腫瘍が治りました」
「よくやったぞ」
俺は早速お婆さんのステータスをチェックした。
しかし、(末期悪性腫瘍)の状態が解除されていなかった。何故だ!
「エレナ、まだだ、まだ治しきれていない」
「え!? そ、そんな」
エレナは驚いてもう一度、お婆さんに【病巣発見】の魔法を使用した。
「そ、そんな……」
「どうした?」
「さっきと同じ病巣が、体中に何個も……」
絶望的な状況にエレナはうなだれてしまっている。
「エレナ、諦めるのか?」
「い、いえ! 諦めません!!」
エレナは、もう一度気合を入れなおして、お婆さんの方に向き直った。
~~~~~~~~~~
それから何時間も経ち、夜が明け始めた頃。
やっと、お婆さんの悪性腫瘍を全て取り除くことができ、ステータスからも(末期悪性腫瘍)が消えていることを確認した。
更に驚くべき事に、エレナの【回復魔法】がレベル5に上がっていた。自力で魔法レベルを5まで上げるとは…… エレナは本当に凄いな。
「よく頑張ったな、エレナ」
「は、はい、お婆さん……よかった……」
エレナはとうとう力尽きて、眠ってしまった。
「青年、もう大丈夫だ。後は頼んだ」
「は、はい。本当にありがとうございました」
青年は深々と頭を下げた。
「そのセリフは、今度エレナにあった時に言ってやってくれ」
「はい」
俺は、エレナをお姫様抱っこして、今にも寝落ちしそうなアヤと共に、家に帰ってきた。
「つ、疲れた……」
エレナとアヤをベッドに寝かせると、俺は疲れた体にムチを打ってー
会社に向かうのであった。
スーパーで1000円の国産うなぎを買ってきて食べました。旨かった~
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