72.兄妹マラソン大会
朝起きると、またもや身動きが取れなかった。何故いつもこうなってしまうのだろうか。
しばらく安静にしてテントinテントもなんとか収まったので、テントから這い出ると、冒険者さん達が朝食を用意してくれていた。みんなで朝食を食べて、アジドさんから借りたテントを片付け、アジドさんや冒険者さん達とイケブの街へ向けて移動を再開した。
馬車は2台編成で、冒険者さんたちの乗る馬車が先に行き、アジドさんの乗る馬車はそれに続いていた。
俺達はアジドさんの馬車に乗せてもらったのだが、荷物がある上に4人も乗って居るために重量オーバーになってしまい、馬車の速度が落ちてしまっている。
「お馬さん、頑張ってください」
エレナが馬に回復魔法を掛けてあげて何とか速度を保っているが、このままでは今日中にイケブの街に着けないかもしれない。なるべく瞬間移動の事は秘密にしておきたいところだ。ちなみに、昨日助けに来た時は、みんな意識を失っていたり混乱していたりして、瞬間移動を見られていなかったらしい。
「アヤ、お前は馬車から降りて走れ」
「なんでよ~!」
「定員オーバーなんだよ、馬がかわいそうだろ」
「じゃあ、兄ちゃんが走ればいいじゃん」
「大丈夫ですよ、命の恩人を走らせるわけには行きません。それに、人が走って馬車に追いつけませんよ。今日中に着けなければ、もう一晩野営をすればいいだけですから」
もう一晩野営をするのはマズイ。アヤの短大はともかく、仕事を無断で休む訳にはいかない。
「じゃあ、二人で走るか!」
「まあ、しゃあないか」
「それでは、私も走ります」
「エレナは、そのまま馬車に乗って、馬の面倒を見ていてくれ」
「はい、わかりました」
「ちょっとセイジさん、いくらなんでも無茶ですよ」
「大丈夫ですって」
アジドさんが止めるのを聞かずに、俺とアヤは馬車を飛び降り走り始めた。
「セイジ様、アヤさん、がんばってー」
「おう」「はーい」
ステータスの影響か、全力疾走に近い速度で走ってもあまり疲れなかった。しかし、馬と一緒に走るなんてそうそう経験できることじゃないな。
「セイジさん、本当に大丈夫ですか?」
馬車の御者台からアジドさんが話しかけてきた。
「平気平気」
「さすがセイジ様です」
エレナも御者台に座り、俺達を応援してくれている。
しばらく走り続けていたのだが、アヤがだんだんバテてきた。
「兄ちゃん、飴、頂戴、MP、切れてきた」
アヤは、なんかもう息が上がってしまって、セリフが途切れ途切れだ。
「何だ、アヤは魔法を使ってズルしてたのか?」
「え!? 兄ちゃん、魔法、使って、なかったの!?」
「鍛え方の差だ」
「くそう!」
飴をあげると、アヤは【体力回復速度強化】、【運動速度強化】、【追い風】を使用して、また元気に走り始めた。
「セイジさん、今アヤさんに渡した物は何ですか?」
「あれですか? あれは魔力を回復する食べ物ですよ、アジドさんも食べてみます?」
「え? いいんですか?」
「たくさんありますから、どうぞ」
飴を渡すと、アジドさんは珍しそうに品定めしてから口に放り込んだ。
「これは、甘いですね~ 魔力が回復するわけだ」
「ん? 甘いと魔力が回復するんですか?」
「ご存じなかったのですか? 甘い食べ物は魔力を、塩辛い食べ物は体力を回復すると言われてるんです」
そういえば、体力回復系の薬には塩が使われていたな。もしかしたら、糖分と塩分でMPとHP回復するのか? 今度確かめてみよう。
そんなことを考えながら走っていると【警戒】魔法が『注意』を知らせてきた。
確認してみると、前方に魔物が居るみたいだ。
「アヤ、前方に魔物発見だ。 アヤ隊員出撃せよ!」
「あいあいさー」
俺がアヤに【クイック】をかけると同時に、アヤは自分に【突風】魔法を掛けて一気に加速し、前方に走り去った。
「セイジさん、アヤさんはどうしたんですか? ものすごい勢いで走って行っちゃいましたけど」
「前方に魔物が居るので、倒しに行ったんですよ」
「え!? お一人で大丈夫なんですか?」
「平気ですよ」
しばらくすると、道の脇にゴブリン5匹を倒したアヤが待っていた。
「耳は取ったのか?」
「兄ちゃんやってよ~」
「ダメだ、昨日の悔しさをもう忘れたのか?」
「ぐぬぬ、分かったよ~」
アヤがゴブリンの耳を取っていると、冒険者さん達も止まって馬車を降りてきて、俺達の代わりにゴブリンを埋めるための穴を掘ってくれた。いい人達や~
どうやら、倒したゴブリンは穴に埋めるのが冒険者のマナーらしい。今まで倒したゴブリンは全部インベントリに入れてあるけど、利用価値がないそうなので、今度穴を掘って埋めておこう。
何度かゴブリンを倒しながら進んでいったが、毎回事前に魔物を見つけることについて色々聞かれてしまった。上手くごまかしておいたけど、やっぱり珍しいスキルなんだな~
しばらくすると、木々の隙間から高い塔が見えてきた。
「なんか塔が見えてきた~」
「やっと見えてきましたね。あれはイケブの街の『日の出の塔』ですよ」
『日の出の塔』に付いて、アジドさんに色々聞いてみたところ、60階層くらいまであると言われているが、まだ3階層までしか到達したものがいないらしく、3階層をいくら探しても上に登るための階段が無いのだそうだ。
これは、俺達に登れと言っているようなものだな。戦争関連の調査が終わったら、是非登ってみたいものだ。
『日の出の塔』を見ながら更に進むと、日が沈みかけた頃にやっと『イケブの街』に到着した。
アジドさんから無事な到着を祝う宴会にしつこく誘われたが、俺達はそれを断って、街の探索もせずに、さっさと日本に帰宅した。
日刊1位から落ちてきたと思ったら、週刊が上がってきていたでござる。
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