71.アジド危機一髪
大好評の内にホットケーキパーティが終了し、子供たちはもうベッドに入って寝てしまったのだが。
俺は重大なことに気がついた。
「しまった、宿を取るのを忘れていた」
「セイジさん、でしたらここに泊まっていって下さい」
「アリアさんありがとうございます」
「でもセイジ様、ベッドが足りないのでは?」
「俺は寝袋で我慢するか」
そんな話をしていると、急に【警戒】魔法が【危険】を感じ取った。
俺はとっさに身構え、辺りを見回した。
「セイジ様、どうかなさったんですか?」
「なにか【危険】を感じたんだが、ここではないみたいだ」
俺は地図を開き確認してみると、【危険】に晒されているのは『アジドさん』だった。
「アジドさんが【危険】に晒されているみたいだ」
「アジドさんが?」
アリアさんが居るけど緊急事態だししょうが無いか。
俺は、アジドさんの状況をその場に写し出した。
そこには、30人近い盗賊に襲われているアジドさんの姿があった。
「あ、アジドさんが! こ、これは遠くを見れる魔法ですか!?」
アジドさんは数人の冒険者に守られているのだが、完全に劣勢で、今にも負けそうだ。
「アヤ、エレナ、助けに行くぞ」
「セイジさん、どうやって行くのですか?」
「アリアさん、これから俺がすることは内緒でおねがいしますね」
「は、はい」
「瞬間移動!」
俺は、アヤとエレナを連れて、アジドさんのもとへと飛んだ。
「ぐわぁ!」
俺達が到着した時、ちょうど最後の一人の冒険者が傷を負って倒れた。
「バリア!」
とっさに冒険者と盗賊の間にバリアを張り、盗賊達の前進を阻んだ。
「エレナ、冒険者達の怪我を見てくれ。アヤは右の方を頼む」
俺はバリアの左側を回りこんで、盗賊たちと対峙した。
「まだ居やがったのか!」
3人同時に襲いかかってきたが、模造刀で3人の手を攻撃し武器をたたき落とした。
手強いと見た盗賊たちは、むやみに飛び込んでこようとはせずに間合いを図っている。
ふと、アヤの方を見るとー
何故かアヤはエレナの近くで構えているだけで、動こうとしていない。アヤのやつ何やってるんだ!
とうとう、盗賊たちはバリアの右側から回りこんで、アヤとエレナを取り囲んでしまった。
「くそう!」
俺は、【電光石火】を使って移動し、そのまま盗賊の一人を背後から体当たりをしようとしたのだがー
「ぐあ!」
俺の体が電気になったように盗賊の体をすり抜け、その盗賊は短い悲鳴を残し、感電して気を失った。
急に俺が移動してきた事に驚いた盗賊たちには、電撃を浴びせかけ、半分ほど無力化させた所で、盗賊たちは一旦距離を取った。
「アヤ、どうした!?」
「あ、あの、兄ちゃん」
「アヤ、震えてるのか?」
アヤの様子がおかしい。まあ、いきなり人同士の殺し合いだから、無理もない。実際俺も、普段より緊張してしまっている。
しかし、息つく暇もなく、遠くから【危険】を感じ、そちらを見てみるとー
弓を持った盗賊がこちらを狙っていた。
ドカン!
俺は、そいつに向かって【雷】を落とした。
そいつの周囲にいた者も巻き込み、数人の盗賊が黒焦げになって倒れた。
「ヤバイ、逃げろ!」
盗賊のリーダーらしき人物がそう叫ぶと、盗賊たちは一目散に逃げていった。
20人ほどの盗賊は逃げてしまい、あとの10人程はその場所で死んでいた。
盗賊とはいえ人を殺してしまった。切羽詰まってしまって手加減なんてする暇がなかった。初めてこの世界に来た時、騎士団長の手を切り落としたが、その時はこんな気分にならかなった、きっとあの時はまだ俺は、ゲーム感覚でいたのだろう。
「セイジ様、大丈夫ですか?」
エレナが心配して俺の顔を覗きこんだ。
「人を殺してしまったのは初めてなんだ。ちょっと動揺してしまって」
「そうだったんですか!?」
うなだれる俺をエレナはー
俺は頭を抱きしめられてしまった。
「!?」
エレナさん一体何を……
しかし、エレナの心臓の鼓動を聞いていると、徐々に気持ちが落ち着いてきた。
「エレナ、もう大丈夫だよ」
「そうですか?」
「ありがとう」
俺は、居心地のいいエレナの腕の中から自ら抜け出し、アヤのもとへ向かった。
「アヤ、大丈夫か?」「アヤさん、大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい。私、全然動けなかった……」
アヤは俺の胸の中で泣き出してしまった。
俺は、さっきエレナにしてもらったようにして、アヤを落ち着かせた。
「兄ちゃん、もう大丈夫」
「そうか?」
アヤは俺の胸のなかから抜け出し、涙を拭っていた。
「兄ちゃんごめん、大事なときに動けなくって」
「まあ、俺だってビビっちゃったし、仕方ないさ」
俺がアヤの頭を撫でてあげると、アヤは悔しそうに頭を撫でられていた。
「セイジさん! 何故ここに!? 盗賊たちはどうなったんですか?」
あ、アジドさんの事、すっかり忘れていた。
どうやらアジドさんは馬車の中で布を被って隠れていたらしい。
「いやあ、アジドさん、偶然デスネー。まさか助けた一行にアジドさんが居るなんてー」
演技がちょっと、ぎこちなくなってしまった。
「他の冒険者さん達は?」
「皆さん、気を失っていますが、なんとか傷は治せそうです」
エレナの回復魔法により、5人の冒険者達の傷はすっかり癒え意識も取り戻した。
「セイジさん、エレナさん、アヤさん、本当に何とお礼を言っていいやら」
「ありがとうございます」
アジドさんや冒険者さんたちから、激しく感謝されてしまった。
盗賊の死体は、冒険者さん達によって全部その場で埋めてしまった。下っ端の盗賊では賞金は出ないそうで、ボスなどの賞金首の場合は、言葉通り首を持って行って金に替えてもらうんだとか。
死体の処理が終わると、少し場所を移動してキャンプを張ることになった。
しかし、ここでマズイことになった。
「セイジさん、寝泊まりの道具はどうなさったんですか?」
どうしよう、そんなの持ってない!
「実は~、さっきの盗賊に荷物を取られてしまってー」
「それなら、私のテントを使って下さい。私達は馬車の荷台で寝ますから」
「どうもすいません、ありがとうございます」
「あなた達は命の恩人なのですから、これくらい当たり前ですよ」
うーむ、一応寝泊まりの道具ぐらいは持っておいたほうがいいな。
そんなこんなで俺達はテントで寝ることになった。見張りは冒険者さん達がやってくれるそうだ。
「兄ちゃん、狭いね」
「仕方ないだろ」
俺達は狭いテントで川の字になっていた。
俺はアジドさんの使ってた布切れの布団、エレナは俺の寝袋、アヤは毛布に包まっている。
そして、何故か俺は川の字の真ん中の位置だ、何故いつも俺は真ん中なんだ? いつもなんとなくこのフォーメーションになってしまう。なんでだろう?
エレナは回復魔法をたくさん使って疲れたのか、直ぐに寝息を立て始めた。
「兄ちゃん、起きてる?」
「ああ」
「さっきは、ちゃんと戦えなくてごめんね」
「今回はいきなりだったし、仕方ないさ」
「でも、次似たようなことがあった時、また戦えなかったら……」
「うーんそうだな~、闘技大会では動けたのに今日は何故動けなかったんだ?」
「盗賊たちの顔を見たら怖くなっちゃって」
「あの鉄壁のリルラが襲ってきた時は平気だったじゃないか」
「あの人達は、なんか怖くなかった」
色々話を聞いてみてわかったのだが、どうやらアヤは男性から敵意を向けられると体が強張ってしまうらしい。新宿での一件がトラウマになっているのかもしれない。
「アヤ、男と戦う時いい方法があるぞ」
「なあに?」
「股を蹴りあげるんだ」
「兄ちゃんのエッチ!」
「俺はまじめに言ってるの!」
「そうか、私、決めた! 空手道部に入って護身術を教えてもらう」
「そうか、それはいいかもしれないな」
決意を固めたアヤは、やっと落ち着いたらしく、しばらくして寝息を立て始めた。
俺はアヤとエレナの寝息をステレオで聞きながら、やっと眠りについた。
球蹴りは危険ですので真似をしないようにしましょう。
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