70.新魔法(地味)
夕方近くなってやっとアリアさんの所に辿り着いた。ちょっと色々な場所を巡りすぎたかな。
「あ、セイジおじ… 兄ちゃんだ!」
おい! いま、何か言いかけなかったか!?
「これは、セイジさん、アヤさん、エレナさん、いらっしゃい。また来てくださったんですね」
「アリアさんも、お元気そうで何よりです」
挨拶もそこそこにエレナは子供たちのケガの有無や健康状態をチェックし、アヤは【風の魔法】を使って子供たちと遊びはじめた。
俺はアリアさんに台所を借りて料理の準備を始めた。
まずは小麦粉をふるいにかけた物にベーキングパウダーと砂糖と塩少々を混ぜあわせておく。
次に、別のボールに牛乳と卵を入れてよくかき混ぜ、さっきの粉を少しずつ入れながら、よく混ぜていき、食用油とバニラエッセンスをひと垂らしして生地は完成だ。
「おーいみんな、テーブルの上を片付けてくれ~」
「「はーい」」
みんなが注目する中、俺はテーブルの中央に、とあるものをデーンと置いた。
「なにこれ~!?」
「魔道具?」
「兄ちゃん、こ、これは!」
「ホットプレートだ!!」
俺はドヤ顔でそう言った。
「兄ちゃん、電気のホットプレート出してどうするのさ、ここにはコンセントが無いんだよ?」
アヤは、呆れ顔でそう言った。
「ふふふふ、甘いなアヤ。
俺が、何も考え無しにこれを出したとでも思ってのか?」
「な、なんだって!?」
~~~~~~~~~~
今を去ること数日前、俺は夕食後の自室に篭もり、とある機械を取り出し、いじくり回していた。
「テスター!」
某猫型ロボット風にその機械を取り出してみたが、その叫びは孤独な一人の部屋に虚しく響き渡るだけだった……
説明しよう『テスター』とは、電圧、電流などを測定する携帯用の計器なのである。ちなみに俺のテスターは交流にも対応していて、更に周波数まで計測可能な優れものなのだ!
俺は、テスターのスイッチを電圧測定モードに切り替え、黒と赤のテスター棒を左右の手で一本ずつ持ち、ゆっくりと【雷の魔法】を発動させた。
デジタル表示の数字が徐々に増えていき、100Vになった時、俺は魔法の威力をその強さで固定し、それを維持するようにした。
「取り敢えず、直流で100Vを保つのは出来るようになったな」
今度は、テスターを交流の周波数測定モードに変更し、同じように魔法を発動させる。
しかし今度は、表示が動かない。俺は【雷の魔法】をコントロールしてプラスとマイナスを何度も入れ替えるようにした。
少しずつ周波数の値が上がるが、とても50Hzには遠く及ばない。俺は一秒間に50回転する発電機を思い浮かべ周波数を一気に上昇させた。
やっと100V50Hzの交流電源を作り出すことに成功した俺は、魔法を安定して実行できるようにしばらく練習を重ねた。
~~~~~~~~~~
「さーて、とくと見よ! これが俺の新魔法、
『コンセント魔法』だ!!」
俺がホットプレートのコンセント部分を右手の人差指と親指で挟んでから魔法を発動させると、ホットプレートの電源ランプが淡く光った。
「……兄ちゃん」
「なんだ?」
「なんか地味だね」
「まあな……」
「それでセイジ様、この後どうなるんですか?」
「えーとね、そのプレートが暖かくなっていくんだよ」
「これが暖かくなるんですか……」
エレナはホットプレートを恐る恐る触ってみた。
「あ、暖かいです!」
エレナがそう報告すると、子供たちも一斉にプレートを触りだした。
「ほんとだ、あったかい~」
「こら! あんまり触るんじゃない、もうチョットするともっと熱くなるから、危ないぞ!」
エレナと子供たちは、急に手を引っ込めておとなしくなった。よしよし、いい子だ。
「さーて、料理を始めるぞ~」
と、ここで重大なミスに気がついた。
右手でコンセント魔法を維持しているので、左手しか使えないのだ。俺は、左手一本でなんとか材料をインベントリから取り出したが、流石に料理まではムリだ。
「アヤ、悪いけど俺の代わりに焼いてくれない?」
「いいけど、これってホットケーキ?」
「うんそう」
「まあ、これくらいだったら私でも出来るよ」
アヤは行き成り、おたまで生地を掬って、ホットプレートに流し込もうとした。
「まてまて! まずは、油を引けよ」
「あ、そっか」
そっかじゃないよ!
本当にアヤに任せて大丈夫なんだろうか?
「それじゃあ、アヤお姉さんが美味しいホットケーキを焼くからね~」
「わーい、アヤお姉ちゃん大好き~」
くそう、俺の右手が使えさえすればアヤなんかに遅れを取ることもなかったのに。俺は自分の戦略ミスを嘆くばかりだった。
アヤが不格好なホットケーキを何とか焼き上げると、周りから拍手が起こった。よく見ると、ちょっと焦げてるじゃないか!
アヤはホットケーキを8等分にして、みんなの皿に配った。が、しかし、俺の皿には配られていない! 俺の分の行方を追うと、アヤの皿に2枚も乗っているではないか!
「おーいアヤさん、俺の分が何故アヤさんの皿に乗っているのですかな?」
「だって兄ちゃん、右手が使えないから食べられないでしょ?」
ひどいよ、ひどすぎるよ、こんなのあんまりだ!
俺が項垂れているとー
「だから、はい、あ~んして」
アヤは俺の分を一口大に取り分けて、フォークで俺の口元に持ってきてくれた。
アヤ、ごめん、お前を疑ったりして。
「あーん」パクっ
ああ、旨い。妹に食べさせてもらうホットケーキは一味違うな。なんというか、少しビターな感じの味が……
ビターな味?
「おい、アヤ、俺の分のホットケーキ、一番焦げてる所じゃないか!」
「だって、兄ちゃんは一番大人なんだから、ちょっと苦味が効いてる方がいいと思って」
「苦味って、ただの焦げだろ!」
「別にこれくらい平気でしょ? そんなに言うなら、ハチミツをいっぱいつけてあげる。ほら、あーん」
「おいこら、やめろ、むぐぐ」
アヤに無理やり食べさせられたハチミツたっぷりのホットケーキは、甘くて苦くてなんとも言えない味がした。そして、俺の口の周りはハチミツでベトベトになってしまっていた。
「セイジお兄ちゃん、私も食べさせてあげる」
なにかと思ったらネコミミ少女のミーニャも、アヤの真似をして俺にホットケーキを食べさせようとして来た。
「はい、あーん」
「あーん」
俺はされるがままにホットケーキを食べさせられていると、他の子供達も次から次へと俺の所へやって来て、『あーん攻撃』を仕掛けてくる。
敵の波状攻撃を何とか突破すると、最後にとんでも無いラスボスが控えていた。
「セイジ様、あーんです」
「え、エレナまで!」
「だ、ダメでしたか?」
「ううん、エレナのも頂くよ。あーん」
俺は、最後にエレナに『あーん』してもらって、もう何も思い残すことはない……そんなことをニヤけ顔で考えていた。
そう、俺はこの時、油断していたのだ。
「いただきー!」
「え!?」
俺の一瞬の油断を突き、奴はとんでもないものを盗んでいきました。
そう、それはエレナのホットケーキです。
「アヤさん、ひどいです、それはセイジ様のだったのに。たべちゃうなんて」
「エレナちゃんのホットケーキ、超~美味しかった~」
俺は、その場でがっくりと膝を落とした。
どうしてもこうなってしまうんです。ごめんなさい
ご感想お待ちしております。(お手柔らかにお願いしたしますm(__)m)




