68.万里の長城から札幌へ
土曜の朝、いつもの様に異世界に行こうとして、問題が発生した。
「アジドさん、まだスガの街に居る」
「アジドさんって誰だっけ?」
「忘れちゃったのかよ、ドレアドス王国を旅して廻っている商人さん、俺が追跡用ビーコン付けさせてもらってる人だよ」
「あ~あの人ね」
「それじゃあ、まだイケブの街には行けないんですね」
「ああ、そういうことだ。どうしようか?」
「今行ける場所は、王都、ニッポ、スガの3箇所だけですか?」
「ああ、そうだ」
「こっちの世界で行けるところは、東京と札幌だけ?」
「いや、北京にも行けるぞ」
「え? 北京!? なんで??」
「このまえ、世界一周旅行で日本に来ているナンシーって人に会ってな、その人に追跡用ビーコンを付けさせてもらったんだ」
地図を確認してみると、北京市内や万里の長城などが表示されているので、ナンシーはその範囲を観光したのだろう。今現在は、中国出国する所らしく、北京空港にいる。
「今日は異世界に行くのを休んで、中国に行ってみるか?」
「じゃあ、ちょっとだけ」
「はい、私も色んな所を見てみたいです」
「それじゃあ、万里の長城をちら見してくるか」
「はーい」「はい」
【瞬間移動】で万里の長城へ飛ぶと、急に辺りが白くなった。
「あ、いい景色。でもちょっと煙たいかも」
「けしきいいです」
「あれ? エレナちゃん? 急に変な話し方になったよ」
「【言語一時習得の魔石】が中国語に対応しちゃったんだろう」
「すこし、しか、わからない、です」
「この短期間でこれだけ話せれば十分すごいよ」
そんな話をしていると、急にエレナが咳き込みだした。
「ごほんごほん!」
「エレナ、大丈夫か?」
「ちょっと、くるしいです」
うーむ、今日はPM2.5が多く飛んでる日なのかな?
「中国はやめにして、やっぱり『札幌』に行ってみるか」
「うん、そうしようか」「はい」
「では、【瞬間移動】!」
【瞬間移動】で札幌へ移動した。
「ここが札幌ですか、空気が美味しいです」
札幌に到着すると、エレナの咳きは止まったようだ。
それと、日本語も普通に戻っていた。
「東京とはちょっと雰囲気が違いますけど、東京と同じくらい栄えてますね」
「ああ、札幌は日本の5大都市圏の1つだからな」
「5大都市圏って、あと、大阪、福岡、名古屋だっけ?」
「そそ」
取り敢えず5大都市圏くらいは行けるようになっておきたいな。会社で出張に行く人がいたら追跡用ビーコンを付けてみようかな。
「兄ちゃん、さっそく札幌ラーメン食べに行こう!」
「行かないよ!」
「なんでよー!」
「まだ、昼には早いだろ」
「そうか~ そういえばお腹すいてなかった」
お前は子供か! エレナもクスクス笑ってるぞ。
アヤには再教育が必要かもしれない、何か神様的な人がそう仰られている気もする。どうしたものか……
「じゃあ、どこに行くの?」
「まずは、『製粉工場』かな」
「「『製粉工場』?」」
俺達は札幌から少し行ったところの『製粉工場』へとやって来た。
「大きな建物ですね」
「ああ、ここで小麦粉が作られてるんだぜ」
「小麦粉って、あの小麦粉ですか!?」
「ああ」
「こんなに大きかったら、石臼が沢山あるんでしょうね」
「さあ、それはどうかな?」
工場の受付に工場見学が出来ないか聞いてみた。
「はい、工場見学ですね。いつでも見学できますよ」
「工場見学なんて、小学校以来かも~」
「どんな風になってるか楽しみです」
清潔感あふれるお兄さんが案内役をしてくるそうだ。
「それではまず、この作業服を着てください」
俺達は、完全防備の真っ白な作業服とヘアネットを着させられた。
「こ、こんなのを着るんですか!?」
「工場内は衛生管理が欠かせませんから」
エレナは衛生管理の厳重さに驚いている様だ。
「まずこの『ロール機』で、小麦を細かく砕きます」
「石臼じゃ無いんですね」
「石臼は下の石と上の石で小麦を潰して砕きますが、ロール機は2つのロールで潰して砕く原理になってます」
「そのロールは、人が動かしているんじゃないんですね」
「はい、この工場は全部、電気の力で動いています」
「電気って…… 凄いものだったんですね」
エレナさんや、驚く所がちょっとズレてますよ。案内役のお兄さんも苦笑いしているぞ。
「次に『シフター』と『ピュリファイヤー』で、小麦粉をふるいにかけていきます」
「その2つはどう違うんですか?」
「『シフター』は、小麦粉をふるいに掛ける機械で、『ピュリファイヤー』は、風の力で『ふすま』と呼ばれる部分を吹き飛ばす機械です」
お兄さんは、実物の小麦を持ってきて『ふすま』の部分を教えてくれた。
「『ふすま』の部分を取り除くから、日本の小麦粉はこんなに白いんですね」
「他の国でも取り除いていると思いますが…… 『ふすま』を取り除かないと品質が劣化しやすくなるんです」
「それであんなに美味しいんですね」
案内役のお兄さんも、エレナが食い付くように聞いてくれるので何だか嬉しそうに説明してくれている。
その後、袋詰の機械も見学し、けっきょく人がほとんどいないことにエレナは凄く驚いていた。
「工場、凄かったです!」
エレナは、いつになく興奮している。連れてきてよかった。
「とくにあの、『ピュリファイヤー』ですが、風の魔法が使えれば、もしかしたら私でも出来るかもしれません」
「なるほど、そうすれば小麦の品質を魔法で上げられるわけか。じゃあエレナも風の事をもっと勉強して【風の魔法】を覚えないとな」
「はい、頑張って風のことを勉強します」
エレナが勉強に燃えている。アヤも見習って欲しいところだ。
見学が終わった後、受付で業務用の25kg入の強力粉が1袋5千円で購入出来るということを聞いて、思い切って4袋購入した。購入した25kgの袋がいつの間にか消えていたので、工場の人は驚いていたが、なんとかごまかしておいた。
「兄ちゃん、小麦粉をこんなに買ってどうするの?」
「ドレアドス王国は戦争の影響で小麦不足って言ってただろ? これだけあれば、少しは足しになるかと思って」
「セイジ様、ドレアドス王国の為にありがとうございます」
こういうセリフを聞くと、エレナもやっぱりお姫様なんだな、と思ってしまうな。
日刊一位になっていて動悸息切れが止まりません
ご感想お待ちしております。




