65.商店街と短大
異世界から帰ってきた翌日、俺はいつもどおり会社で働きながら、日課となったエレナの覗き…もとい、【追跡】を行っていた。
今日からはアヤの【追跡】も同時に行える。普段ならアヤをわざわざ覗きたいとは思わないが、今日から『短大』に通うので、少し気になっていた。
アヤは短大でオリエンテーションの真っ最中で、資料を大量にもらって説明を受けたり、部活の勧誘を受けたりしていた。アヤは、貰った資料をじっくり読んだりしているだけなので特に問題とかは無さそうだ。
今度はエレナを見てみるか。
「エレナちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
「あ、エレナちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
エレナは、次から次へと挨拶されていた。ど、どういう状況だ!?
エレナは商店街を歩いていた。そして、商店街の店のおっちゃんやおばちゃんから次々に声をかけられている。まるでご当地アイドルの様な有り様だ。
まあ、エレナの容姿は日本では目立つし、性格もいいし、本物のお姫様だけあってオーラもあるし、注目されるのは仕方のない事なのだろう。
「あ、エレナちゃん、調度良かった。うちのばあさんが、腰を痛めてしまって。またあの『おまじない』をしてくれないかい?」
「はい、いいですよ」
ん? 『おまじない』?
エレナは、和菓子屋さんの奥の部屋に上がり込んで、寝ていたおばあちゃんと楽しそうに会話をしている。
「それじゃあ、『おまじない』をしますからね」
「いつもすまないね~」
『いつも』と言うことは、何度か来ているということか? 『おまじない』とは何なんだ?
すると、エレナは魔法を使い始めた! だ、大丈夫なのか、これ?
「はい、終わりましたよ」
「はー、エレナちゃんの『おまじない』は、よく効くね~」
「また痛くなったら『おまじない』しますから、いつでも言ってくださいね」
「エレナちゃん、こんな物で悪いけど、これ、持って行きな」
「ありがとうございます」
エレナはお礼に和菓子を貰っていた。買い物に行って色んな物を買ってくると思ったら、貰い物だったのか。
その後もエレナは何人かの病気やケガなどを『おまじない』と言う名の魔法で治療し、いろんな物を貰いつつ、商店街を進んでいった。
「きゃっ、痛い!」
小さな女の子が転んで擦りむいてしまったようだ。
「あら、大変」
エレナは、女の子のケガを魔法で治してしまった。周りを見ると驚いている人もちらほらいる。流石にマズイかも。
「お姉ちゃんありがと~」
「どういたしまして」
仕事中で抜け出すことも出来ず、やきもきしているとー
商店街のおばちゃん連中がエレナを囲んでしまった。
「アンタの『おまじない』すごいね~、あたしの捻挫も見ておくれよ」
「私の関節痛も見てくれないかい?」
何だかどんどん大事になってきている。
結局エレナは全員に魔法を掛けて、色んな物を持ちきれない程渡されていた。
「こんなに沢山、もう持てません」と、エレナが断わると、商店街で働いている朴訥フェイスの『お兄さん』が荷物持ちで付いて来てしまった。
「荷物を持ってもらってすいません」
「い、いえ、ぼ、ボクは暇ですから」
エレナと朴訥フェイスは楽しく話をしながら家に向かっていた。しかし何故、この二人の話題は魔法少女物のアニメなんだ!?
「エ、エレナさんは、コ、コスプレとか、しないんですか?」
「こすぷれとは何ですか?」
エレナになんて話題を振るんだコイツ!
「え、えっと、ですね、魔法少女と同じ衣装を着て、しゃ、写真を撮ったり、するんです」
「それは、面白そうですね~」
この朴訥フェイス、ヤバイやつなんじゃないか!?
結局エレナは朴訥フェイスに見送られて家に帰宅してきた。
「お荷物運んで頂いてありがとうございました」
「い、いえ」
俺は、ヤキモキしながら映像を確認していた。しかし朴訥フェイスは、お辞儀をしてさっさと帰っていった。どうやら俺の杞憂だったようだ。まあ【警戒】も反応しなかったし、商店街の皆さんの依頼で送ってきたのだから変なことをするわけ無いか。
エレナは貰い物を冷蔵庫や棚などにしまい、自分でお茶を淹れて、DVDを見始めた。
ちょっとハラハラしたが、取り敢えず大丈夫だったかな?
エレナはしばらくDVDを見ているみたいなので、今度はアヤの様子を見てみよう
アヤは、女子数人のグループでおしゃべりをしながら部活勧誘の中を進んでいた。もう友達を作ったのか!? 俺には全く理解できないコミニュケーション能力だ。
「アヤさんは、どこの部活に入るの?」
「格闘技系に入ってみたいかも」
「え? アヤさんはそっち系の人?」
アヤが格闘技!? 小さいころ俺にボディプレスとかやってきた事があったけど、まさかそういうのに興味があるとは意外だな。異世界で戦ったりしてる内に変なものに目覚めてしまったんだろうか?
結局アヤは、女子グループで部活勧誘を見て回ったり、短大の周りの店を覗いたり、ファーストフードでお茶したりしていた。
アヤは本当に格闘技を始めるのだろうか?
そして、エレナは魔法がバレて大変なことになったりしないんだろうか?
そんなことを考えつつ俺は、すっかり疎かになってしまっていた仕事を、自分に【クイック】の魔法を掛けつつ終わらせていくのであった。
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