58.新魔法実験
「ここら辺でいいか」
俺達は『スガの街』を出て、少し歩いたところにある池の辺りまで来た。
「ここで新しい魔法を色々試してみよう」
「はーい」「はい」
「まずは【水の魔法】からね、あそこに見える木を的にして攻撃してみよう。まずは、アヤから」
「はーい」
アヤは10mくらい離れた位置にある木に向かって構え、両方の手のひらを内側に向け、見えないドッジボールを掴んでいるかの様なポーズを取った。
「いっくよ~」
アヤの掛け声とともに、ドッジボールの中心の位置に、小さい水の玉が出現し、徐々に大きくなっていった。
「え!?」
その様子を見ていたエレナが、何故か驚いている。
水の玉の大きさが野球のボール程になった所で
「水の玉!」
アヤの掛け声とともに、水の玉が動き出した。
しかし、速度が遅い。
水の玉はふらふらと目標の木に向かってゆっくり飛び、木に到着すると『バシャッ』と音を立てて水の玉は弾けた。
「ど、どうよ!」
「速度がゆっくりだったけど、初めてにしては上出来だな」
「いえいえ! そんな事より、アヤさん、どうやって水を召喚したんですか!?」
エレナは、変なテンションになっていた。
「え? 水を召喚? 水は、周りの空気から湿気を集めて作っただけだよ。 押入れの【湿気取り】みたいな感じで」
「しっけとり?」
どうやらエレナはよく分かってないみたいだ。
「エレナ、雨はどうして降るのか知っているか?」
「雨ですか? 雨は天に開いた穴から落ちてくるのではないのですか?」
「なるほど…… ここではそういう世界観なのか……」
異世界と地球との世界観の差に改めて愕然とした。
「では、まずは実験をしてみよう」
「実験ですか?」
「アヤ、もう一度水を作ってくれ」
「はーい」
アヤはさっきより短時間でさっきと同じ野球のボールほどの水の玉を創りだした。
「じゃあエレナ、アヤの作った水をなるべく溢さないように、一箇所に止めておいてくれ」
「はい」
エレナは、アヤから水の玉を受け取って、自分の目の前に固定させた。
さすがエレナ、水の玉がピッタリと静止していて、まったく揺るぎない。
「それじゃあ、これから俺がこの水の玉を『熱する』から、エレナはこのまま、水を一滴も溢さないようにするんだ」
「は、はい」
俺は徐ろに、【電熱線】魔法を使ってエレナの水の玉を熱し始めた。
コポコポ
しばらくして、水の玉の下の方から泡が出始めた。
ボコボコボコ
次第に泡の量が増え大きさも大きくなっていった。
「あ、あれ? 水が減ってます」
「どうして水が減っているかその理由を、じっくり観察するんだ」
「は、はい」
更に熱し続け、ついに激しく沸騰し始める。
「湯気がいっぱい出ると、その分どんどん水が減っていきます」
「いいぞ、もっと観察するんだ」
「はい!」
しばらくして、すべての水が蒸発し、無くなってしまった。
「無くなっちゃいました」
「エレナ、水が何処に行ったか分かったか?」
「えーと、水は湯気になって消えちゃいました」
「それは違うぞ、湯気になっても消えてない、見えなくなっただけだ」
「見えなくなったんですか?」
「そうだ、さっきの水は見えなくなって、この辺の空気に溶け込んじゃったんだ」
「と、溶け込んだ!?」
エレナは辺りをキョロキョロ見回している。
「つまり、空気に溶け込んだ湯気をまた集めたら~」
「また水に戻せるのですね!」
「そうだ、水を作り出すのは出来そうか?」
「やってみます!」
エレナは両手を上にあげて、集中し始めた。
しばらくすると、エレナの頭上にモヤモヤとした何かが集まり始めた。
「いいぞ!」
エレナはニッコリ微笑んで、更に集中を続ける。
しだいにモヤが白く色づいてきて雲のようになっていった。
俺とアヤがその様子を見守っているとー
『ぽつりぽつり』と雲から雫が垂れてきて
ついにはバラバラと雨が降りだした。
「きゃっ!」
エレナは、自分の魔法で作り出した雨で自分自身を濡らしてしまった。
「もう、エレナちゃん何やってるの!」
アヤは急いでエレナに【ドライヤー温風魔法】を使って乾かしてあげていた。
「でも、水を作り出すことに成功したな」
「はい! セイジ様、ありがとうございます!!」
エレナはビショビショになりながら、嬉しそうに微笑んでいた。
「よし、エレナも水を作れるようになったから、あの木に向かって攻撃してみるんだ」
「はい!」
エレナは元気よく返事をして魔法を実行し始めたのだが……
雲を作り出して、雨が降り出し、その雨を集めて水の玉にして、それを木に向かって飛ばして「ぱしゃっ」と木にぶつけた。
攻撃の威力も問題だが、全部の動作にかかった時間が30秒を超えていたのだ。
「エレナちゃん、いくらなんでも時間が掛かり過ぎだよ」
「す、すいません」
エレナはシュンとしてしまった。
「エレナ、雲をここじゃなくて、あの木の上に作れないか?」
「あの木の上ですか? やってみます」
エレナが集中すると、木の上に雲が出来上がり、雨がパラパラと木に降りかかった。
「こっちの方が早くていいんじゃないか?」
「でも、兄ちゃん、雨が降ってるだけだよ?」
「あのまま、雨の量を増やせられれば、いい感じの攻撃になるかも。エレナ、出来そうか?」
「やってみます」
エレナが更に集中すると、ザーっという強めの雨になった。
しかし、数秒も持たずに雨はやんでしまった。
「どうした? 魔力がきれちゃったか?」
「い、いえ、周りの水が無くなってしまって」
「じゃあ、地面に落ちた水をもう一度使うんだ」
「あ、はい、やってみます」
今度の雨はしばらく降り注いだ。
しかも、周りから集めた水も徐々に追加され、どんどん雨脚が強くなっていき、ついには土砂降りになった。
「凄いじゃないか! これならかなり使えそうだ!」
「ありがとうございます!」
エレナは嬉しそうに何度も大雨を降らせては、飴を舐めて魔力の回復をするのを繰り返していた。
「そろそろ、真打ち登場かな」
「兄ちゃんも【水の魔法】をやるの?」
「ああ、見とけよ見とけよ~」
俺は、水を生み出し、その水に水圧を掛けていった。
水にかなりの水圧がかかった所で、ウォータージェットの要領で目標の木に向かって噴射した。
ウォータージェットは木に衝突し、大きな音を立てて穴を開けた。
そのままウォータージェットを横にずらして行き、木は根本から斜めに切断され、重力にしたがってズズズっとズレて、バタリと倒れた。
「兄ちゃんスゲー!」
「セイジ様すごいです!!」
その後、しばらく【水の魔法】の練習を繰り返し、三人共それなりに使いこなせるようになっていった。
「よし、次は【氷の魔法】だ」
「はい」「はーい」
最初に挑戦したエレナは、雪を降らせる魔法になってしまった。
まあ、これも威力を増していけば使えるようになるだろう。
次に挑戦したアヤは、氷の球を作って木にぶつけた。
氷がそれなりに硬かったので、木には大きめな傷跡が出来ていた。結構威力があるみたいだ。
「さて、再び真打ち登場!」
「「わー」」パチパチ
俺は、つらら状の氷を作り回転をくわえて木に射出した。
つららは木を貫通し、穴を開けた。
「兄ちゃん、氷の威力も凄いね」
「流石はセイジ様です!」
ひと通り魔法の試し撃ちが終わった俺達は、意気揚々と魔物退治に出かけるのであった。
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