53.リルラ襲撃
俺達が【肉体強化のマナ結晶】の参拝を終えて【肉体強化の神殿】を出ると、とある人物が10人の部下達を引き連れて待ち構えていた。
そいつは銀色の鎧を着てアヤと準決勝を戦った
『鉄壁のリルラ』だった。
そして、10人の部下達は素早く俺達を取り囲んだ。
「やっと出てきましたね、待ちくたびれました」
「ん? あんたは、アヤに負けた『リルラ』じゃないか、どうかしたのか?」
「ま、負けたですって!」
「え? 負けてないとでも思ってるのか?」
「勝った負けたは関係ありません
平民には貴族に対するあのような無礼な行いは許されないと言っているんです!」
「『無礼』ね~、申し訳ないけど、そういうのよく分からなくって」
「問答無用です。あなた方は貴族を侮辱した罪で、ここで死んでもらいます」
「うわ!
アヤ、コイツこんなこと言ってるけど、どうする?」
「兄ちゃん、ナイフ出して」
「いいけど、【クイック】は、必要か?」
「ううん、いらない」
「そうか」
俺は、インベントリから日本製のナイフを出してアヤに渡した。
リルラはナイフを見て3歩後ろに下がった。
どうやらトラウマになってしまっているようだ。
「どうした? ナイフが怖いのか?」
「ち、違う!
えーい、お前たち、こいつらを引っ捕らえよ!」
なんか悪代官みたいなセリフで笑いそうになってしまった。
部下達は俺達を威嚇するように、それぞれ1歩前に進み出た。
エレナは俺にしがみついて怖がっている。
「ほら、アヤ、エレナが怖がってるぞ」
「エレナちゃん、ちょっと待っててね」
アヤがそう言うと、アヤの姿が一瞬ブレた様に見え、
その場を一陣の風がくるりと舞った。
バタバタバタ
次の瞬間、10人の部下達はその場で一斉に倒れこんだ。
【追い風】、【突風】、【軌道修正】、新たに【運動速度強化】が加わって、アヤはとんでもないスピードになっていた。
「はい、兄ちゃん、また持ってて」
「もういいのか?」
「うん」
俺はアヤからナイフを渡され、インベントリにしまった。
「しかし、【肉体強化魔法】って凄いね、
体が凄く早く動くのに、体が動きに振り回されずに、ちゃんとコントロール出来たよ」
「それはいいな、今度、魔物退治の時に【クイック】有りでも試してみようぜ」
「それ面白そう」
リルラは、口をぽかんと開けたアホ面で固まったまま、俺達が楽しそうに会話しているのを見つめていた。
「なあ、リルラさんよ、
アンタは俺達を殺そうとしていたよな?
それはつまり、負ければ逆に俺達に殺されることも覚悟しているということだよな?」
「な、な、なんですって!
貴族の中で一番権威のある家の公女である私を、殺すというのですか!?」
「なんだ、自分が殺される覚悟もないのに他人を殺そうとしてたのか。
お前の権威とやらはその程度なのか?」
「お、おのれ、言わせておれば……」
「で、どうするんだ? お前一人で俺達と戦うのか?」
リルラは黙りこんでしまった。
「それじゃ、帰るか」
「うん」「はい」
俺達は立ち尽くすリルラの横を通りすぎて歩き出すと、
硬直から立ち直ったリルラが後ろから話しかけてきた
「ま、待ちなさい!!」
「まだ何か用なのか?」
「私にこのような事をして、お父様が黙っていませんよ!」
「なあ、あんたの『お父様』って、もしかして……
『ライルゲバルト貴族連合騎士団長』か?」
「え!? お、お父様を知って……」
「やっぱりそうか~
そうなんじゃないかと思ってたんだよね~」
「あなたは、お父様を知っていながら、何故私に歯向かうのですか!」
「それは、色々と因縁があってだな~
まあ、いいや、取り敢えず、これ以上『ちょっかい』を出して来るようなら、こっちも黙ってないからな?
ちゃんと覚えておけよ」
「待ちなさい、このままおめおめと見逃すわけにはいかない! 私と決闘をしなさい!」
「嫌だね!」
「んな! ま、待ちなさい!
権威ある貴族の決闘を蔑ろにするつもりか!」
「俺は貴族じゃないし」
俺が、さっさとその場を立ち去ろうとすると
「逃がすものですか!!」
リルラは後ろから細剣で襲ってきた。
「なあ、アヤ、こいつを、なんとか、してくれ」
俺はリルラの攻撃をひょいひょい避けながらアヤに助けを求めた。
リルラは、余裕綽々の態度で攻撃を避ける俺が気に喰わないらしく
ムキになってメチャクチャに切りつけて来ている。
まあ、当たらないけどね
「兄ちゃんなら簡単に勝てるでしょ?」
「俺は、女の子を、傷つけたり、しないんだ」
攻撃を避けながら会話していると、言葉が途切れ途切れになってしまうな。
「もう、仕方ないな~」
アヤは、なにかしらの魔法を使い始めた。
何の魔法だ?
依然としてリルラは俺を攻撃し続けているのだが、疲れてきたのか、段々と攻撃のスピードが落ちてきた。
そして、ハアハアと肩で息をして額に汗をかき始めた。
ん? ちょっと様子が変だな。
汗のかき方が尋常じゃなくなってきた。
リルラは、ついに攻撃の手を止め、大粒の汗をかいてハアハアしている。
なんかエロいなとか思っていたらー
なんと! いきなり、リルラが脱ぎだしたではないか!!
まあ、脱いでるのが鎧なので、あまりエロくはないけど
しかも、相当焦っていて、大急ぎで脱いでる感じだ。
「あ、暑い! いや、熱い!!」
リルラが鎧を脱ぎ終わると、体のあちこちが赤くなっていた。火傷の後だろうか?
「アヤ、何の魔法を使ったんだ?」
「北風と太陽の魔法!
鎧を【電熱線】魔法で熱したんだよ」
「なるほど~」
「おのれ! この侮辱、絶対に許しません!!」
リルラは鎧の下に着ていた薄着の格好のまま、地面に落ちている自分の細剣を拾おうとしてー
「熱っ!」
どうやら、細剣は熱くなっていて拾えなかった様だ。
「おのれ!おのれ!!」
リルラは、それでも懲りもせず、素手で向かってきた。
俺はもう、避ける気も起きずミット打ちの要領でパンチを受けていた。
「アヤ~ コイツまだ襲ってくるんですけど~」
「もう、しつこいな~」
アヤがそう言うと、俺とリルラの間にピューと風が吹いた。
すると、リルラの服がビリッビリッと破けてバラバラになって落ちてしまいー
リルラは下着姿になってしまった。
「キヤー!!」
リルラが異常事態に気が付いて上下を隠しながらしゃがみこむとー
ボロンっと何かがこぼれ落ちた。
なんだろうと拾ってみると、
「あっ!」
それは、『ブラ』だった。
しかも、その『ブラ』には、ぷよぷよの何かが入っていて、上げ底されている。
リルラの露わになった体型を見てみるとー
ペッタンコと言うわけではないが、かなり平坦な体型だった。
リルラは俺の視線と手に持っている物体から、事態を把握したらしく
その場でうずくまってワンワン声を上げて、泣き始めてしまった。
「アヤ、やり過ぎだよ、どうするんだこれ」
「そんなこと言ったって~」
俺とアヤが途方に暮れていると
「セイジ様、私の服はまだインベントリに入っていますよね?
どれか一着、出してあげてください」
「ああ、分かった」
エレナの服を適当に一着出してリルラにそっと掛けてやったが、リルラはいつまでも泣き続けていた。
俺達を殺そうとしたとはいえ、このまま放置するのはかわいそうなので、リルラを送り届けることにした。
俺は、アヤとエレナに掴まっててもらい、リルラの肩に手をおいて【瞬間移動】でとある場所に移動した。




