50.セイジvsガドル
大会が再開され、黄金鎧の『ロンド』と竜人族の『ガドル』の試合が開始された。
二人の試合は、俺と『ニクス』の試合とは別の方向で凄かった。
『ロンド』の大剣が振るわれると『ガドル』が常人離れしたジャンプで躱し、大剣が空を切る。
大剣が空を切ると、風が巻き起こる。【風の魔法】ではなく、純粋に武器の風圧によって風が巻き起こるのだ。
『ガドル』はジャンプした後に上空から『ロンド』を狙って槍で攻撃するが、『ロンド』はバックステップでそれを躱す。
躱された槍は闘技場の床にぶち当たり、大きな衝撃音とともに、衝撃を魔法で吸収しているであろう石の床に、直径1m、深さ30cm程の穴が出来てしまうのだ。
しばらく攻防が続くと、闘技場は穴だらけになってきてしまった。
そして、ついに『ロンド』は穴に足を取られてバックステップに失敗し、『ガドル』の攻撃を足に受けてしまった。
「おーっと! 黄金鎧の『ロンド』選手、『ガドル』選手のジャンプ攻撃を、ついに受けてしまった!
『ロンド』選手の黄金鎧の足の部分に凹みが出来てしまっている!
『ロンド』選手、ピンチです!」
『ロンド』は、足を引きずるようになり、バックステップもできなくなり、次第に『ガドル』の通常攻撃も食らうようになってしまった。
「『ロンド』選手、めった打ちにされ、自慢の黄金鎧がボコボコになってしまっています!」
黄金鎧はボコボコになり、一部の装甲が剥がれ落ち、穴が開いてしまっている部分もある。
『ロンド』は最後の力を振り絞って大剣を振るったが、『ガドル』のジャンプに躱されてしまった。
そして『ガドル』の上空からの攻撃を躱すためにバックステップをしようとしてバランスを崩し、転んでしまった。
グサッ!
『ガドル』の槍は『ロンド』の太ももを貫通していた。
「グギャー!!」
『ロンド』は悲鳴を上げると、そのまま気を失ってしまった。
「が、『ガドル』選手の勝ち!!」
審判が『ガドル』の勝利を告げたが、会場はあまりの光景にシーンと静まり返っていた。
エレナは『ロンド』を治療しようと駆け寄って行ったが、『ロンド』の太ももには槍が刺さったままになっていて、治療を開始できずに困っていた。
『ガドル』はそんなエレナに近づき
蹴りやがった。
一瞬の出来事で俺も反応が出来なかったが、
『ガドル』のクソッタレは、エレナを、蹴りやがったのだ!!
俺は全速力でエレナに駆け寄って助け起こし
「てめえ!エレナになんてことをしやがる!!」
「槍を取るのに邪魔だからだ」
『ガドル』はそう言うと、『ロンド』の太ももに刺さった槍をグリグリとこねくり回し、グイッと力を入れて槍を抜いた。
「借り物の槍だが、人族の汚い血で汚れてしまったな、後で代わりの槍を用意させなければならんな」
『ガドル』はそう言って去っていった
エレナは大急ぎで『ロンド』に駆け寄り、治療を開始した。
『ガドル』が変なふうに槍を抜いたせいで『ロンド』の太ももからは大量の血が流れ出ていて、闘技場は血の池のようになっていた。
俺は、怒りに震えていた。
(『ガドル』、絶対に許さない!!)
エレナの【回復魔法】により、『ロンド』は一命を取り留めたが、意識は戻らず、救護班室に運び込まれた。
闘技場修復のため、大会はしばらく休憩となったが、俺の怒りは収まる気配がなかった。
しばらくして大会が再開されたが
「続いての試合は女性の部の【決勝】ですが、『ハルバ』選手が治療中のため、男性の部の【決勝】を先に行います」
俺と『ガドル』は闘技場の上で睨み合っていた。
「おい、お前、武器を忘れているぞ」
「お前なんぞに刀はいらぬ、この腕一本で十分だ」
「おっと、『セイジ』選手、【決勝】だというのに、武器無しで戦う様です。大丈夫なのでしょうか!」
「くくく、お前気でも狂ったのか?」
俺は、もう、手加減をするのを止めた。
「『セイジ』選手、本当に武器はいいのですか?」
俺は審判にうなづいてみせた。
「そ、それでは男性の部【決勝】ー
始め!!」
バチンッ!!
『ガドル』は、俺に殴られて吹き飛んでいた。
「え!? あっ! 『ガドル』選手が吹き飛んでいます! 一体何があったのでしょう!
『セイジ』選手は少し離れた所に居たはずなのですが、一瞬で移動して『ガドル』選手を攻撃しました。
しかし、素手の攻撃であれほどの威力があるものなのでしょうか? 色々理解不能です」
もちろん【瞬間移動】だ、あと【電撃拳】も使った。
こいつだけは、手加減なしでボコるわ。
「き、貴様、よくも俺を殴ったな
どうやったかは知らんが、汚らわしい人族の分際で俺に手を上げたことを後悔させてやる」
「何が『汚らわしい』だ! 竜人族がお前のような奴ばかりなら、竜人族の方がよっぽど『汚らわしい』わ」
「よ、よくも、お前は絶対に許さんぞ!」
「それはこっちのセリフだ!」
俺と『ガドル』は、同時にダッシュして闘技場の中央でぶつかり合った。
「これは凄まじい戦いです! しかし、『ガドル』選手の槍は『セイジ』選手に当たりません。『セイジ』選手、全て避けています。
それに引き換え『セイジ』選手の攻撃は、確実に『ガドル』選手を捉えています。
しかし、なんという威力なのでしょうか! 普通のパンチに見えるのですが、『ガドル』選手は一発ごとにかなりのダメージを受けている模様です」
『ガドル』は俺にボコらるのを避けるために数歩さがって、俺を激しく睨みつけた。
「おのれ! おのれ!」
『ガドル』は俺にボコられ続けてストレスが相当たまっているようだ。
俺が近づこうと一歩前に出ると、奴はビビったようにジャンプして上空に逃げた。
そして、バカの一つ覚えで上空からの攻撃だ。
俺はバックステップでそれを避けると、『ガドル』はニヤリと笑みを浮かべて、しつこくジャンプ攻撃を仕掛けてくる。
「おーっと、これは『ガドル』選手お得意のジャンプ攻撃だ! 流石の『セイジ』選手も、これにはお手上げか!?」
「どうした、俺のジャンプ攻撃に手も足も出ないか?」
バカが吠えてやがる。
俺は、幾度と無く繰り返される『ガドル』のジャンプ攻撃を、じっくり観察した。
そして、何度目からのジャンプ攻撃の瞬間。
(ここだ!!)
『ガドル』のジャンプが丁度頂点に達した瞬間
俺は『ガドル』の真横に居た
「なっ!?」
俺は空中で『ガドル』の顔面を、【電撃拳】で殴り倒した。
俺が、闘技場に着地すると同時に、『ガドル』も顔面から地面に叩きつけられていた。
審判が近づいて確認するが、『ガドル』はぴくりとも動かなかった。
「男性の部、優勝はー、セ、『セイジ』選手!!」
審判が高らかに俺の優勝を宣言した。
「「「うわぁーーーー!!!!」」」
会場が大歓声で埋め尽くされた。
「優勝は何と『セイジ』選手!!
しかし、最後の攻撃はいったいどういうことなのでしょう?
地上に居たはずの『セイジ』選手が、一瞬で上空に……
よく分かりませんでしたが、とにかくすごい試合でした」
エレナが俺に駆け寄り、キズが無いかを確かめ、無いことがわかると安心していた。
そして、『ガドル』の治療をしようと、近づいた所で……
【警戒】魔法が『危険』を察知した。
今日は出かけるので、早めに投稿です
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