48.セイジvsニクス
アヤが決勝に進出した次の試合では、おそらくアヤに勝って優勝するであろう竜人族の女性『ハルバ』の試合が行われていた。
『ハルバ』の圧倒的な試合が進み、ほぼ決まったという時、それは起こった。
相手が闇雲に放った攻撃を『ハルバ』が避けようとしたのだが、何故か『ハルバ』はバランスを崩し、そのせいで1発だけだが攻撃を受け、当たりどころが悪かったらしく傷を負ってしまったのだ。
よく見ると、ちょっと前に同じ竜人族の男性『ガドル』が床に開けてしまった穴が、何故かちゃんと修復できていなくて、その穴に足を取られてしまったみたいだ。
同じ竜人族の行いのせいで足を取られてケガをしてしまうとは、何とも変な運命のめぐり合わせだな。
「おーっと、圧倒的な強さを見せる『ハルバ』が、傷を負ってしまった。『ハルバ』選手、油断したのか……
あれ?『ハルバ』選手の血の色が……」
解説者が『ハルバ』の血の色に驚いている様だった。
『ハルバ』の血の色は【赤】ではなく【青】だったのだ。
俺としては『竜人族の血は青いのか~』と思った程度なのだが……
周りの観客はざわめいている所を見ると、青い血はここでも珍しいのかな?
その後は、ちょっとしたキズ程度など物ともせず、『ハルバ』は勝利し、決勝にコマを進めた。
試合が終了し、エレナが『ハルバ』のキズを治そうと近づいたのだが、『ハルバ』は何故かキズの治療を拒否して、控室の奥へと引っ込んでしまった。
せっかくのエレナの癒やしを断るとは、言語道断だな。
『ハルバ』の事は少し気になるが、この後直ぐに俺の出番なので、改めて対戦相手の『ニクス』を【鑑定】し直した。
┌─<ステータス>─
│名前:ニクス(♂)
│職業:盗賊
│年齢:29
│
│レベル:18
│HP:280
│MP:120
│
│力:28 耐久:20
│技:42 魔力:15
│
│スキル
│【短剣術】
│ (レベル:3、レア度:★)
│ ・連続攻撃
│ ・フェイント
│
│【盗賊術】
│ (レベル:3、レア度:★★★)
│ ・カギ開け
│ ・罠見破り
│ ・スリ
└─────────
職業が『盗賊』って、まるっきり犯罪者じゃないか!
【盗賊術】なんてスキルも持ってるし!
犯罪者が堂々とこんな大会に出ても平気なのかな?
ステータス的には前回の『マカラ』より更に技が高い。技の高さは厄介なので、気をつけておく必要があるだろうな。
「次、男性の部、準決勝第一試合を行います。
Aブロック『セイジ』選手、Bブロック『ニクス』選手、闘技場へ上がってください」
俺は、気を引き締めなおして闘技場へ上がった。
「これより、男性の部、『準決勝』第一試合、『セイジ』対『ニクス』の試合を取り行います」
観客は息を呑んで静まり返っている。
「それでは、始め!」
『ニクス』は、いきなり猛スピードで突っ込んできた。
『ニクス』のナイフが右から襲ってきた。俺はそれを受け止めようと刀を……
っ!!
いきなり【警戒】魔法が後ろからの『危険』を感じ取った!
俺はとっさに振り返るように体を回転させながら横っ飛びした。
最初のナイフ攻撃が幻のようにスッと消え、左後方からナイフが飛び出して、横っ飛びしたはずの俺を追撃してきた。
俺は瞬間的に刀を振るい、ナイフを受け止めた。
カキンッ!!
『ニクス』は、攻撃を受け止められたことに驚いているようだった。
驚いてるのはこっちだよ、【瞬間移動】でも使ったのか?
いや、そんなはずはない。これは多分【フェイント】だ。
しかも、俺が『マカラ』戦で苦し紛れに使った【フェイント】とはわけが違う、本物の洗練された【フェイント】なんだろう。
【警戒】魔法が無ければやられていただろう。
これはヤバイかもしれない。
「ふぁっ!? いったい何が起きたのでしょう! 『ニクス』選手が仕掛けたと思ったら、消えて、いつの間にか後ろに・・そして『セイジ』選手はそれを見抜いて刀で受け止めた!?ハイレベル過ぎて目が追いつきませんでした!!」
「「うぉーーー!」」
観客達が感嘆の声をあげていた。
『ニクス』は、俺を手強いと感じたらしく、更に【フェイント】を何重にも織り交ぜて連続攻撃を仕掛けてきた。
俺は、勉強をさせてもらうつもりで、その攻撃をじっくり観察した。
なんども引っかかりそうになったが、【警戒】魔法のお陰でなんとかギリギリ防ぐことが出来ている。
呼吸も出来ないくらいの激しい連続フェイント攻撃をしばらく受け続けていると、段々フェイントの法則性が見えてくるようになってきた。
「き、気持ち悪い。『ニクス』選手と『セイジ』選手を見ていたら、何だか酔ってきてしまいました。皆さんは大丈夫でしょうか?
しかし、常人には理解し難い動きです。二人の攻防が消えたり現れたりしているようにさえ見えてしまいます。
果たしてどちらが勝利を掴むのか、分からなくなってきました!」
段々、『ニクス』の攻撃に慣れて来たので、スキを見てこちらからも攻撃を仕掛けるようにした。
初めは単純な攻撃くらいしか出せなかったが、段々相手の行動を妨害する様な攻撃が出せるようになって行き、それを足がかりに相手のスキを広げ、フェイントを織り交ぜた攻撃も出せるようになっていった。
「頑張って解説をしております。はっきりとは分かりませんが、だんだん『セイジ』選手が押してきているようにも見えます」
だいぶコツを掴んできた俺は、『ニクス』の攻撃にカウンターをかぶせたり、そこから更にフェイントを混ぜたりも出来るようになってきた。
しばらく経つと攻守は逆転し、『ニクス』は防戦一方となり、呼吸も段々乱れてきた。
しかし、まだ攻撃を一撃も当てることが出来ていない。
「二人の攻防が続いていますが、この激しい攻防はいつまで続くのでしょうか?」
相手は息が苦しそうだが、俺もまた息が続かなくなってきてしまった。
そろそろ、決めないとマズイな。
しかたない、アレを一回だけ使うか。
俺は、少し間を取ってタイミングを測り、満を持して突撃を試みた。
『ニクス』は、俺の攻撃を見極めようと、万全の体制で迎え撃とうとしている。
そして、俺の攻撃が左から『ニクス』を襲い、俺の刀と『ニクス』のナイフが衝突する瞬間!
『ニクス』は、後ろから斬られていた。
『ニクス』は、何が起こったのかを理解するまもなく、前のめりに倒れて動かなくなった。
【瞬間移動】使っちゃった(・ω<)
「ああぁ!!
い、今のは、一体何が起きたのでしょう!!?
前から攻撃をしていたのに、後ろから!?
今の攻撃は、全く見えませんでした!!
セイジ選手のよく分からない攻撃が当たり、ニクス選手倒れました!!」
「せ、『セイジ』選手の勝ち―――!!」
「「うわぁーーー!!!」」
やっと『ニクス』との長い戦いが終わり、割れんばかりの歓声の中、俺はハアハアと息を整えるのに精一杯だった。
『レベルが17に上がりました。
【刀術】がレベル4になりました』
やった、レベルが2つ、【刀術】も1つ上がった。
魔法以外のスキルでレベル4は初めてかも。
俺は闘技場の中央でガッツポーズをとっていた。
1話の長さはもっと長いほうがいいでしょうか?
ご感想お待ちしております。




