47.アヤvsリルラ
竜人族の『ガドル』の攻撃はかなりやばい事がわかった。
Dブロックの決勝戦で『ガドル』が放った攻撃により、闘技場の床が破壊されてしまったのだ。巨人族のハンマーでも壊れなかった闘技場の床を壊す攻撃とは、侮り難し。
現在は床の修復の為に、一時的に大会の進行が中断している。まあ、昼時なので調度良かったのかもしれないけど。
俺は、この時間を利用して、ちょっと離れた位置に居たアヤの次の対戦相手の『リルラ』を【鑑定】し直しに来た。
┌─<ステータス>─
│名前:リルラ・ライルゲバルト (♀)
│職業:貴族令嬢
│年齢:17
│
│レベル:12
│HP:270
│MP:180
│
│力:19 耐久:22
│技:18 魔力:19
│
│スキル
│【光の魔法】
│ (レベル:1、レア度:★★★)
│ ・ライト
│
│【剣術】
│ (レベル:2、レア度:★)
│ ・斬り下ろし
│ ・足払い
│
│【盾術】
│ (レベル:2、レア度:★★)
│ ・受け止め
│ ・盾回避
└─────────
【光の魔法】を持っている人を初めて見た。
ステータス的にはアヤと大して代わり映えしないが、装備品がいいのが厄介だ。
「お前、私のことを見ていたな、平民が貴族をジロジロ見るのはマナー違反だぞ!」
いきなり『リルラ』に話しかけられてしまった。
しかし、そんなマナーがあるのかよ!
「失礼、妹の対戦相手なのでどんな奴かと思ってな」
「なるほど、私の対戦相手の親族か」
「所で、なぜ貴族令嬢が平民の大会に出場しているんだ?」
「口の利き方がなっていないが、平民だから仕方ないか。質問に答えてやると、この大会は別に貴族の出場が禁止されているわけじゃない。」
「しかし、こんな大会にでなくても貴族は元々マナ結晶に拝観出来るんだろ?」
「私の目的はマナ結晶の拝観ではなく、この大会で優勝する事だからだ。」
「なるほど、嫌がらせのために出てるのか。」
「なんだと?それはどういうことだ。」
「だってそうだろ?アンタが優勝すれば、その分平民が一人、マナ結晶に拝観出来なくなるんだから。」
「平民の事情より貴族の事情の方が優先される。そんなことも分からんのか、これだから平民は……」
「そうですか。」
こいつはダメだな。
俺はその場を離れ、アヤの所へ戻ってきた。
「兄ちゃん、あの人と何話してたの?」
「話してたというより、絡まれてたっていうほうが近いかも。平民のくせに生意気だってさ。」
「へー、あの人そういう人なんだ。」
「次、女性の部、第二回戦の試合を行います。
選手番号1番と2番の方、闘技場へ上がってください。」
「あ、私だ、行ってくるね」
「ああ、がんばれよ!」
アヤは俺に向かってVサインをしてから闘技場へ向かった
「それでは、女性の部、第三試合、選手番号1番『リルラ』対、選手番号2番『アヤ』の試合を取り行います。」
「それでは、始め!」
アヤとリルラは構えを取って睨み合った。
「さあ、注目の対戦、鉄壁『リルラ』と疾風『アヤ』の対戦が始まりました。」
なんか二つ名が付けれられてる!?
リルラはいつまでたっても自ら動こうとはしなかったので、アヤはジリジリと間合いを詰めていった。
シュッ!
『リルラ』の細剣の突きがアヤを襲った。
アヤは、急な攻撃で不意を突かれ、避けきれずに肩に攻撃が掠ってしまった。
アヤは、さっと距離を取ったが、皮の防具の肩口が裂け、少し血が見えている。
なんだと!
あの武器、刃が潰されていない!?
アヤも、自分がケガをしたことに驚いている様子だ。
「おっと、リルラ選手の攻撃が当たり、アヤ選手負傷!これはアヤ選手ピンチだ!」
そんな悠長に解説している場合かよ!刃の潰されていない武器を使うのは反則だろ!
俺は大会の係員を探してリルラの反則を訴えた。
「おい、ちょっといいか、あのリルラ選手の武器は刃が潰されていないんじゃないのか?」
「はい、そうですが、それがどうしました?」
「はぁ!? 『はい、そうですが』じゃないだろ!
刃が潰されていない武器の使用は反則だろ!!」
「いいえ、貴族が平民と戦う場合に限って通常の武器を使用することが出来るルールになっていますので、反則には当たりません。」
「な、なんだって?なんでそんなルールがあるんだよ!」
「元々、刃の潰された武器を使用するのは、平民が誤って貴族に傷を負わしてしまうことを避けるための処置ですので、貴族がそれに従う必要は無いんです。」
「ああ、そうかい、よくわかったよ」
よーくわかったよ、クソが!!
アヤは周りの様子から事態を理解したらしく、より一層気を引き締めてリルラを睨みつけた。
アヤはリルラの間合いに入らないように注意しつつ、リルラの後ろに回りこむ。
リルラはあまり動こうとせず、首だけを動かしてアヤを追いかけている。もしかして、あまり動けないのか?
アヤが接近しようとした時だけ、リルラは素早く体をアヤに向けて応戦の構えを見せる。
アヤは更に回り込む速度を上げて行く。
ついにリルラが反応速度に追いつけなくなった所で、アヤはリルラの死角から飛び込みナイフで斬りつけた、
キンッ!
アヤのナイフは当たりはしたものの、リルラの鎧に阻まれ全くダメージを与えられない。
そこへリルラの細剣が襲いかかる。
アヤはギリギリで細剣の下を掻い潜り、転げるようにして間合いを広げた。
くそう、危なっかしくて見てられない。
しかし、アヤは性懲りも無くリルラに向かっていく。
そして、同じように細剣の攻撃をギリギリで避けては、また向かっていくを繰り返す。
何やってるんだ!危ない!もうちょっと考えて戦えよ!
しかし、しばらく同じような攻撃を繰り返す内にアヤの避け方が段々上手くなっていった。どうやら風の魔法を使ってタイミングよく軌道修正しているようだ。
そして、何度目かの突撃時にそれは起こった。
リルラの細剣がアヤの顔面を狙って攻撃を繰り出したのだが、アヤは避けようとせずに、そのまま突っ込んでいった。
危ない!
リルラの細剣がアヤの顔面を貫くかと思われたその時、アヤはナイフを下から上に斬り上げ、細剣を弾いて攻撃を逸らした。
リルラは攻撃を払われて腕が伸びきってしまっていた。
「ぎゃー!!」
それはリルラの悲鳴だった。
よく見るとリルラの鎧の脇の下にナイフが突き刺さっていた。
どうやら脇の下の部分に鎧の隙間があったらしい。
リルラは闘技場の上でみっともなくのた打ち回っていた。
「痛い!!救護班何をしてる!早く私を助けろ!!」
リルラのみっともない悲痛な叫びが会場に響いた。
「せ、選手番号2番、『アヤ』の勝ち―――!!」
審判の声を聞いた救護班は、大急ぎでリルラをタンカのようなものに乗せて、救護班室へと運び去って行った。
「まさかの大波乱!『鉄壁のリルラ』選手がまさかの準決勝敗退、決勝に勝ち進んだのはー、『疾風のアヤ』だー!!」
「「わーーーー!!!」」
会場が大歓声に包まれた!
ヒヤヒヤさせやがって!
俺の【警戒】魔法が『注意』程度にしか反応してなかったから無理やり割って入るのを我慢したが、全くもって生きた心地がしなかったぜ。
アヤは闘技場の上でエレナに肩口のキズを治してもらいながら、観客の大歓声に笑顔で答えていた。
当初はそんなつもりはなかったんだけど、書いてみたらまさかの大苦戦。
どうしてこうなった!
ご感想お待ちしております。




