403.嵐
翌日の金曜日。
今日さえ持ちこたえれば、明日は俺も動ける
出勤前に各街を見回ってみたが、
雨、風ともに、かなり強くなってきている。
いよいよ台風がやってくるのだろう。
ニッポと開拓村の『注意エリア』は、
護岸工事の効果で、ほとんどなくなった。
しかし他の街は、若干だがエリアが広くなっている。
状況に合わせて変化するのかな?
新しく印刷し直した注意エリアの地図をリルラに渡し、
俺は会社へ。
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会社にて、
俺は、仕事中に皆の様子を見る。
エレナは、ケガ人が出たとの知らせが入ると、
そこへ飛んでいき、治して回っている。
ヒルダは、壁や建物が崩れたというところへ飛んでいき、
直してまわっている
アヤは……、天気の影響で普段現れない魔物が現れたという情報を聞きつけ、
ルンルン気分で魔物退治に出かけていった。
1人だけ、趣旨が違う奴がいるけど、
役には立ってるみたいだし、まあいいか。
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お昼前になると、天気は本格的に荒れてきて、
シンジュの街の住人が、続々と避難を開始した。
リルラが自分の屋敷を避難所に提供しているのだ。
予め避難者用の食料なども用意してあって、準備万端だ。
まあ、俺がそうするように言っておいたからなんだけどね。
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王都は……、
避難が遅れてケガ人が出ている。
王様は何をやっているんだ?
エレナも、聞きつけて王都で雨の中を駆け回っている。
ケガ人を治し、避難させる。
避難先は、冒険者ギルドだ。
最初は、お城に避難させようとしたのだが……。
ライルゲバルトに、警備上の問題があるからダメだと止められてしまったのだ。
そして、その冒険者ギルドも、人でいっぱいになってきてしまった。
エレナは、困り果ててしまっている。
ここは、俺の出番か?
昼休みになり、同僚のランチの誘いを断って、
エレナのもとへ急ぐ。
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「エレナ、大丈夫か?」
「セイジ様! 来てくださったんですね。
私は平気ですけど、避難場所が足りなくて……」
「だ~いじょうぶ!! まかして!!」
俺は、エレナの手を取って【瞬間移動】した。
「ここは……、アリアさんの教会。
でも、ここは、建物があまり丈夫じゃないので、
ここの皆さんも避難していただこうかと思っていたんです」
「いや、その必要はない。
俺が何とかする」
俺は、【バリア】の魔法を使って、
教会の建物をすっぽりとおおった。
「あれ? セイジさんとエレナさん! いらしてたんですか。
急に雨の音が聞こえなくなったので、様子を見に来たのですが……」
「あ、セイジおじ……兄ちゃん」
アリアさんと、ミーニャちゃんが様子を見に出てきた。
「水と風を防ぐ【バリア】を使ったんです」
「すごーい!」
ミーニャちゃんが大喜びしている。
「セイジさん、いつもありがとうございます」
「アリアさん、一つお願いがあるんですけど、
ここにこの街の住人を何人か避難させてもいいですか?」
「はい、もちろんです」
アリアさんには了解を取ったし、
これで、避難所不足はなんとかなるだろう。
しかしここには、アリアさんと子供たちだけしかいない。
こんなところへ、変な奴をよこすわけにはいかない。
「エレナ。ここへ連れてくる人は、女性と子供たちだけにしよう」
「わかりました!」
「それじゃあ、後は頼んだ。
俺は、他の避難所にも【バリア】を張ってくる」
「はい!」
俺は、エレナと分かれて、
各街の避難所になっている建物に【バリア】をはって回った。
けっきょく今日の昼も、ちゃんとしたランチを食べ損なってしまった……。
俺、この事態が穏便に解決したら、
思いっきり美味しいものを食べるんだ~。
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午後になり、雨と風はさらに強くなってきている。
『日の出の塔から、モンスターが溢れ出しているとの情報が入ってます』
リルラが、音声チャットで情報を流す。
『私が行く!』
アヤが、素早くそれに答える。
普段は仲が悪いけど、緊急事態の時はちゃんと連携するんだな。
『エレナ様、王都の様子はどうですか?』
『はい、住人の避難は完了しました。
ただ、少し食料が不足しています』
『ニッポの街に、少し余裕があるそうなので、
誰か取りに行ってください』
『私が取りに行きます』
今度は、ヒルダが答える。
なんか、みんな協力しあってすごいな。
『うわ!
日の出の塔のまわり、スライムだらけだ!』
アヤが、ビビっている。
そういえば、日の出の塔の地下はスライムだらけだったな。
地下に浸水して、あいつらが溢れてきたのかな?
『アヤ、大丈夫か?』
珍しく、リルラがアヤの心配をしている。
雨降って地固まるというやつかな?
『ちょっと手こずりそうだけど、1人で平気』
『了解した。イケブの領主に頼んで、冒険者を何人か向かわせよう』
『だから! 1人で平気って言ってるでしょ!』
『他で何かあった時に動けないと困るだろ!』
と思ったら、もうケンカを始めやがった。
しかし……、
こんな状況で、俺だけ動けないのは申し訳ない気がしてきたな。
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夕方近くになって、新たな動きがあった。
『トキの街で、海から魔物が上がってきているそうです。
アヤ! 行けますか?』
『呼び捨てにしないで!
後ちょっとでスライムを全滅させられるから……、
あ、ちょうど冒険者の増援が来たから、
後はあの人たちに任せて、私はトキに向かう』
『了解』
『シナガの街で、大規模な崖崩れが発生したみたいです』
『私が行きます!』
ヒルダが、素早く反応する。
『あ、崖崩れで炭鉱の入り口が塞がって、
中に閉じ込められている人がいるそうです』
なんだって!?
『私も行きます!』
エレナも、手を挙げる。
俺は、トイレの個室に入り、音声チャットに割り込む。
「リルラ、どういうことだ?
シナガの炭鉱付近は注意エリアだから、全員避難したんじゃないのか?」
『あ、セイジ……、
あの、避難場所が足りないということで、
奴隷の一部を、そのまま炭鉱に残していた、そうだ』
「くそっ!」
『す、すまん。私は、知らなくて‥‥』
いかんいかん、リルラに八つ当たりしてしまった。
あちらは、そういう世界だったことをすっかり忘れていた。
「エレナ、ヒルダ、大丈夫そうか?」
『セイジ様、だいじょうぶです。私たちに任せてください』
「わかった……」
俺は、心の中で祈りつつ、仕事に戻った。
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