393.Dランクの初仕事
ヒルダがDランクに昇格した翌日。
今日も今日とて、冒険者ギルドへやってきていた。
『あ、ヒルダさん。チッスチッス。
昨日は大活躍でしたね』
誰かと思ったら『茶番3人組』のアロンソじゃないか。
こいつ、こんなキャラだっけ?
『ヒルダさんも、お人が悪い。
あんなにお強いことを、黙っているだなんて』
お前が勝手に勘違いしてただけだろ。
ヒルダが、面倒くさい奴に捕まって話をしていると……。
『急ぎの依頼を頼みたい!』
焦った様子の男が、冒険者ギルドの受付で大声を張り上げていた。
『さすがに、そのような依頼は無理です』
受付の女性が、困った表情で対応している。
『何かあったのかな?』
ヒルダも気にしている。
『ヒルダさん、俺がきいてきます!』
アロンソは、ヒルダに良い所を見せようと、
素早く行動を開始した。
『何かトラブルですか?』
『あ、アロンソさん。実は、この方が……』
『君、冒険者だろ?
私をニッポまで連れて行ってくれ!
今日中に!』
男は、受付の女性との話を諦めて、
アロンソに直接仕事を依頼するつもりらしい。
『ん? 護衛の仕事かい?
今日中に出発するのは、ちょっと大変だけど、
まあ、できないこともないよ』
『違う!
今日中にニッポに到着したいんだ』
あ~、それは無理だな。
たしか王都からニッポまでは、馬車で2日の距離だったはずだ。
『さすがに、それは無理だ』
『そこをなんとか!
金ならいくらでも出す!』
よほど切羽詰まっているのだろう。
金を『いくらでも出す』というその男の大声に、
ギルドにいた冒険者たちが集まり始めた。
『何だ何だ? 金儲けの話か?』
『今日中にニッポまで行きたいんだとよ』
『そりゃあ、いくらなんでも無理だ』
集まってきた冒険者たちも、
話を聞いて口々に無理だと言いだした。
『誰でもいい!
お願いだ!
私をニッポに……。
そうしないと……私の妻が……』
男は泣きながら、冒険者たちに懇願する。
そうとうな事情がありそうだ。
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ピロンッ!
あ、ヒルダからメッセージだ。
俺は、仕事を続けたままの体勢で、
【電気情報魔法】を使って、ポケットの中のスマホに送られてきたメッセージを読み取る。
┌──────────────
│セイジお兄ちゃんへ
│
│困っている人を助けるために、
│【瞬間移動の魔石】を使ってもいいですか?
└──────────────
たしかにヒルダは、ニッポに行くための【瞬間移動の魔石】を持っている。
あまり、人に見せるのはよろしくないけど……、
緊急事態みたいだし、仕方ないか。
俺は、魔法でスマホを操作し、
許可のメッセージを送った。
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『私が、お送りしましょうか?』
がっくりうなだれていた男に、ヒルダが話しかける。
『本当か!?
嘘じゃないだろうね?』
『はい。
方法は内緒ですけど、今日中にニッポに行けますよ』
『では頼む! 今すぐ!』
男は、ヒルダにすがるように抱きついた。
何をやっている! ヒルダに抱きついて良いのは俺だけだ!
抱きついたことなんてないけど……。
『ちょっと待ってください。
冒険者への直接交渉はルール違反です』
受付の女性が割って入る。
けっきょく、男はギルドに2000ゴールドを支払い、
ヒルダの報酬は1000ゴールドに決まった。
50%もマージンを取るのか! けっこうブラックだな。
『それでは、依頼の内容を確認させていただきます。
明日の夜明けまでにニッポに到着すること、
移動方法などはヒルダさんに任せること、
不慮の事態等で時間に間に合わなかった場合は、半額とする。
以上です。いいですか?』
『ああ、それでいい』
ギルド側が交渉して、
到着時間は若干遅くなり、失敗した時のこともきちんと約束を取り付けた。
ギルドもそれなりに仕事をしているんだな。
まあ、瞬間移動を使うから、そんな交渉は無意味なんだけどね。
『それでは、正式な依頼として受理します。
ヒルダさん、あとはよろしくお願いします』
『はい』
ヒルダは、ギルドの人たちに見送られ、
依頼主といっしょにギルドをあとにした。
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『こんな人けのないところへ連れてきて、どうするつもりだ?』
ヒルダは依頼主を、人けのない路地裏に連れてきた。
普通、こんな場所に連れてこられたら、
身ぐるみ剥がされたりすることを警戒するところだけど、
相手はヒルダだ。
依頼主も、安心してついてきた。
『これから使う道具のことは、絶対に内緒にしてくださいね』
『道具? ああ、分かった。誰にも言わない』
ヒルダは、【瞬間移動の魔石】を取り出し、
そして、依頼主の手を握った。
くそう、ヒルダの手を握っても良いのは俺だけなんだぞ!
ヒルダは、魔力を込めて、【魔石】を発動させた。
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『はい、着きました』
『へ?』
男は、いきなりのことでキョトンとしている。
『あ、ここは!
僕の家の近くじゃないか!』
やっと状況を理解したらしく、
大急ぎで、男の自宅らしき家に入っていく。
ヒルダも、男の後を追って家の中へ。
『もうだめ……。
ああ、あなた。
先立つ不幸をお許しください。
せめて、この子だけは、産んであげたかった……』
家の中から、なんかヤバそうな声が聞こえてきた。
『メアリー!』
『ああ、もうだめ。夫の幻が見える……』
『メアリーしっかりするんだ。
僕だよ、知らせを聞いて大急ぎで戻ってきたんだ』
『ほんとうにパーシーなの?』
『ああ』
なんかメロドラマみたいだな。
『よかった。最後にあなたにもう一度会えて。
もう思い残すことは何もないわ……』
『しっかりするんだメアリー!
僕たちの赤ちゃんはどうなるんだ!』
『ごめんなさい……。
でも、もう体力も魔力も底をついてしまって……』
出産に魔力とか関係するのかな?
よくわからん。
『私、回復魔法が使えます』
ヒルダが手を上げる。
『あ、君、本当かい!?』
『はい!』
ヒルダは、妊婦さんの側に移動し、
左手で【回復魔法】をかけつつ、
右手で『ヒルダ飴』を取り出した。
『これは魔力を回復する食べ物です』
妊婦さんの口に飴を持っていく。
『あ、甘い!』
ヒルダの【回復魔法】と飴のおかげで、
妊婦さんの顔色は、どんどん良くなっていった。
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