386.新たな旅立ち
「エレナの……、
い、妹……だと……。
ワシは、そんなこと許した覚えはないぞ!」
なんか、王様が怒り出しちゃった。
「お父様。ヒルダは、とってもいい子ですよ!」
「そんなこと関係ない!」
「では何だというのですか!」
エレナが、なんか怒ってるぞ。
凄く珍しい光景だ……。
「エレナ。お前は王族なのだぞ!
にも関わらず、そのような平民を『妹』と呼ぶなど……。
王族の権威が汚れるではないか!」
権威の欠片もない人にそんなことを言われてもな~。
そして、それを聞いているヒルダが、もの凄く落ち込んでいる。
こいつがエレナの父親じゃなかったら、即座にぶっ殺しているところだ。
「お父様。
いくらお父様でも、ヒルダの悪口は許せません!
そんなに王族の権威が大事なら……。
私は王族をやめます!」
「ぅな!
バカなこと言うな!
そんなこと許すわけないだろ!」
ダメだ、二人の話は完全に平行線だ。
これは、大人な俺がなんとかしてやらないと。
「二人とも、そこまでだ。
もっと建設的な議論をしようぜ」
「だって、セイジ様」
「だってじゃない!
ヒルダが落ち込んでるぞ」
「ヒ、ヒルダ……。
ごめんなさい……」
エレナは、ヒルダを抱きしめた。
「さて、次は王様だ」
「な、なんだ。ワシは悪くないぞ!」
まるで子供だな。
「王様。
もっと建設的な会話をしようぜ。
あんたは、どうしたらヒルダを認めてやれるんだ?」
「王族の権威が一番重要だ。
だから、そんな娘……」
「だから!
ヒルダを認めてやれる条件を言えよ!」
「ひぃ!」
ちょっと殺気が出ちゃった。てへぺろ。
「条件……教えてくれるかな?」
「わ、分かった。
は、話す」
王様は、改まって真面目に話し始めた。
「国に対して多大な貢献をした者は、貴族として抜擢することがある。
そうなれば、エレナが妹と呼んでも権威が傷つくこともないだろう」
「多大な貢献とは、どんな事だ?」
「戦争で戦果を上げる事だ」
「戦争ね~。
ヒルダは、ゴブリンキングの時も、悪魔族との戦争の時も活躍していたぞ?」
「ダメだ、過去の功績などしらん!」
無茶苦茶な言い分だな。
「じゃあ、今後また戦争がありそうなのか?」
「……なさそう……だ」
だめじゃん!
「じゃあ、戦争がない平和な時代で国に貢献するには、どうすれば良いんだ?」
「例えば……冒険者で活躍するとか……」
「ほうほう。
それは簡単そうだな」
「あ、待て!
貴族に抜擢するからには……、
Sランクだ!
Sランクになったら認めてやる!」
「エレナ、聞いたか?
冒険者でSランクになれば、認めてくれるんだってさ」
「はい、たしかに聞きました!」
「違う! その娘がSランクだ」
「わかってるよ。
ヒルダ、どうする?
エレナの妹として認められるために、
冒険者になってSランクを目指してみるか?」
「はい!
頑張ります!」
「よーし!
じゃあみんなで、冒険者ギルドへ行こう!」
「「はーい」」
「あの……本当にSランク……だぞ?」
王様が何かつぶやいていたが、
無視して、俺たちは謁見の間を後にした。
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「なあ、セイジ」
謁見の間を出ると、
今までずっと黙っていたリルラが、声をかけてきた。
「リルラ、どうかしたか?」
「本当にSランクを目指すつもりか?」
「ん? 何か問題があるのか?」
「Sランクの冒険者など、今まで一人もなったものはいない」
「え? そうなの?
じゃあ、Sなんてランクが、なぜ存在してるんだ?」
「冒険者に夢を見させるための手段として用意されたと聞いたことがある」
「なるほどね」
当たりの入っていない『くじ引き』みたいなもんか。
まあ、でも、なんとかなるでしょ。
「セイジなら、なれそうな気がするが……。
その娘が、ほんとうにSランクになんてなれるのか?」
「ああ、なれるさ!」
俺は、即答してやった。
「そ、そうか……」
リルラは、なんか羨ましそうな表情をしている。
もしかして、冒険者になりたいのかな?
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俺たちは、王都の冒険者ギルドの前にやってきた。
冒険者として活動するのも久しぶりな気がする。
たしか、日の出の塔に入るためにランクをCまで上げて、
Bランクになるためには試験を受ける必要があるから、
それ以降、冒険者としての活動を全然してなかったんだよね。
そしてヒルダは、奴隷だったこともあって冒険者登録さえしていない。
「セイジお兄ちゃん。
ちょっと待ってください」
冒険者ギルドへ入ろうとした時、ヒルダが俺たちを呼び止めた。
「どうかしたか?」
「私……。
冒険者になるからには、一人で活動します!」
「一人で!?
ダメよヒルダ、あぶないでしょ!」
エレナが心配する。
「だって、
みんなに手伝ってもらってSランクになったって、
それじゃあ、私がエレナお姉ちゃんの妹にふさわしいって事にならないです」
王様に言われたことを、気にしてるのかな?
気持ちは分からんでもないけど……。
「ヒルダ。
冒険者は、パーティを組んで行動するものだぞ?」
「それは、ランクの高い冒険者だけです。
ランクの低い冒険者は、みんな一人で活動しています」
うーむ、反論できない……。
「分かった、一人で行って来い。
ただし、ランクDまでだ。
ランクCまで上がったら、みんなでパーティを組んで活動する。
いいね」
「はい!」
「セ、セイジ様……」
「なぁに、ヒルダだったら心配ないさ」
「ヒルダちゃん、
一人で活動するなら、私のナイフを貸してあげる」
アヤがヒルダにナイフを差し出す。
そのナイフは、
数々の敵の急所をぶっ刺した、例のアレだ。
「私は、これを」
エレナは、なんと!
【アスクレピオスの杖】を差し出した。
ちょっまっ!
ヒルダは、さすがにそれを断った。
「じゃあじゃあ、これを」
今度は【魔力のロッド】だ。
これは、前によく使っていた、魔力を攻撃力に変換するロッドだ。
これならまあいいだろう。
「俺からは、これだ」
俺は、帰宅用の【瞬間移動の魔石】をヒルダに手渡す。
「危ない時は、これで帰ってくるんだ」
「セイジお兄ちゃん、ありがとうございます」
ヒルダは、俺たちから渡されたアイテムを【格納の腕輪】にしまった。
そして、俺たちに向かって深々とお辞儀をし、
一人で、冒険者ギルドの中に入っていった。
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