369.今後の課題
危険人物娘が去った後、
控え室で、オーディションの開始を待っていると、
別の人物が、俺たちを訪ねてきた。
それは警備員だった。
そして、どうやら俺に用があるみたいだ。
「あなたは、八千代プロダクションのマネージャーさんですね?」
「え? 違いますけど?」
八千代プロダクション? 何だそれ?
誰かと勘違いしているのか?
めぐみちゃんの名字が『八千代』だけど、それと関係あるのかな?
「いいから、ちょっと来い!」
「え?」
こいつ、地図上で『黄色』の点として表示されている!
つまり、危険人物ってことだ。
おそらく、本物の警備員ではないのだろう。
「おとなしくしろ!」
おとなしくも何も、わけがわからないだけなんだけど。
しかし、ヤバイな。
俺とニセ警備員とのイザコザが、注目を集めている。
「ちょ、丸山……ど、どうかしたの?」
めぐみちゃんも、心配そうにしている。
仕方ない、ここはこいつに従っておくか。
「ヒルダ、しばらくめぐみちゃんを頼む」
「は、はい!」
「めぐみちゃんも、心配しなくていいよ。
なーに、すぐに戻ってくるさ」
「う、うん……」
心配そうに見つめるめぐみちゃんの護衛をヒルダに任せ、
俺は、警備員室へ連れていかれた。
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「お前には、カメラを盗んだ疑いが掛けられている。
疑いが晴れるまでは、ここから出すことはできん」
うわ、無茶苦茶な言い分だ。
おそらく、俺をめぐみちゃんから引き離すのが目的なのだろう。
嘘をつくなら、もっとうまい嘘をつけよ!
ぶん殴ってやりたいところだけど、
ここは、文明人らしく、口で反撃しておこう。
「あなたは何者ですか?」
「は?」
「警備員の格好をしていますが、
本当に警備員なのですか?」
「あ、当たり前だ!」
「では、『警備業法・第十五条』を言ってみてください」
「は? そんなの知るわけないだろ!」
バカめ!
「おかしいですね。
警備員は、最初に30時間以上の研修を受けることが義務付けられています。
その研修の中で、警備業法を真っ先に教わります。
そして第十五条は、その中でも一番重要な項目なので、
教わらないはずがないのですが……」
「うぐ……。
ああ、教わったさ……、当然だ。
ただ、ちょっと……ど忘れしただけだ」
ニセ警備員は、かなり動揺している。
まあ俺も、IT系の仕事をする前に、少しだけ警備員をやっていたから知ってるだけなんだけどね。
「では、代わりに俺が言ってあげましょう。
『警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たっては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない』」
この条文だけは、暗記させられたんだよね~。
「ああ、そうそう、
そそそ、そんな感じだった……かな……」
ニセ警備員は、焦りまくっている。
しかし、条文の内容を理解しているのかな?
「では、あなたは、
何の権限で俺の自由を侵害し、正当な活動に干渉しているのですか?」
「え?
だ、だから、カメラを盗んだ疑いで……」
「いま俺が言った条文にもあるように、
警備員に特別な権限を与えられてはいないのですよ?
『逮捕権』もないのに、俺を拘束するつもりですか?」
「……」
ニセ警備員は、黙り込んでしまった。
まあ実際には、一般人にも現行犯の場合に限り逮捕する権利はある。
面倒くさいので、それについては言わないでおこう。
ニセ警備員は、何も反論できずにいた。
勝った!
警備業法を知っていた俺の勝利だ!
俺だって魔法を使わなくても、これくらいはできるのだ。
しかしニセ警備員は、考えるのを止めてしまった。
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!
俺は、去年までムショにいたんだ。
言うことを聞かないと痛い目を見るぞ!」
ニセ警備員が、切れてむちゃくちゃ言い始めた。
そして、こいつバカだ。
「あれれ? おかしいですね?
5年以内に犯罪を犯した人は警備員になれないはずですよ?
研修で教わらなかったんですか?」
「し、知るか!
お前は、しばらくここにいろ!」
バタン。
ニセ警備員は、部屋に俺を残して、外から鍵をかけてしまった。
さて、これからどうしようかな。
「さーてと」
俺が、行動を開始しようと椅子から立ち上がると。
ウィーン。
どこからか何かの機械音が聞こえた。
何だ?
部屋の中を見まわしてみると……。
それは『監視カメラ』だった。
天井付近に設置されたカメラが、
俺の行動に合わせて、あからさまに追尾している。
うーむ、困った。
ここを出るだけだったら【瞬間移動】で簡単なのだが……。
しかしそうすると、俺が魔法を使っているところを『監視カメラ』で見られてしまう。
監視カメラを壊すこともできるが、
そうすると、完全に現行犯だ。
さらに悪いことに、
俺が閉じ込められた部屋は、なぜか携帯の電波が届いていない。
もしかしたら、『通信抑止装置』でも使っているのかもしれない。
おそらく、このスキにめぐみちゃんに何かするつもりなのだろう。
ある程度のことならヒルダだけでもなんとかなるだろうけど……。
とりあえず、
めぐみちゃんとヒルダの様子を、【追跡用ビーコン】で見てみることにしよう。
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あれ!?
めぐみちゃんとヒルダが、一緒にいない!
どういうことだ?
警報は鳴らなかったぞ?
【追跡用ビーコン】の映像を巻き戻して確認してみると、
めぐみちゃんは係員に呼び出され、違う部屋に移動していた。
おそらく、この係員は何も知らずに誰かの指示に従っているだけなのだろう。
どうしよう、
もうニセ警備員をぶん殴ってでも、めぐみちゃんのところへ行くか?
いや、それは相手の思うつぼだ。
あいつが警備業法を言えなかったからといって、
警備員ではないという証拠にはならない。
自社警備という可能性もあるし……。
ましてや、地図上で黄色い点だったということは、
まったく証拠能力がない。
逆に、傷害罪の現行犯で俺が捕まってしまうことになりかねない。
そうしたら、それを理由に、めぐみちゃんを……。
なんとか、ヒルダとだけでも連絡が取れないものか……。
なんか、地球で魔法を使う場合、いろいろ制限が多すぎるな……。
これは、今後の課題だな。
しかし、
その事は、ひとまず置いといて……。
俺は、監視カメラに見えないように、
とある魔法を使い始めた。
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