352.きみよちゃんの治療
3人で、きみよちゃんの運び込まれた医務室に【瞬間移動】した。
「救急車が来ないってどういうこと?」
アヤがドクターに英語で詰め寄っている。
「救急隊はストライキ中で、動いていないんですよ。
でも、ちゃんと応急処置はしましたから、心配ないですよ」
ドクターは逃げるように医務室を出ていってしまった。
救急隊がストライキか~。
政情不安で給料が出ていないという話だし、その影響かな?
きみよちゃんは、負傷した左手に包帯が巻かれていて、
痛み止めの影響だろうか、ベッドで眠っている。
早く治してあげたいのだが、百合恵さんがいるので姿を現すことが出来ない。
どうしようかと思っていると、舞衣さんが助け舟を出してくれた。
「アヤ君はそろそろ次の試合だろ? 準備を始めたほうがいいんじゃないかい?
きみよ君はボクが見ておくから、百合恵くんもアヤ君の付き添いを頼む」
「はい」
百合恵さんは心配そうな顔をしていたが、アヤと一緒に医務室から出ていった。
「さて、お兄さんたち来てるんだろ?
きみよ君の治療をたのむよ」
やはり舞衣さん、俺たちのこと気づいていたのか。
俺たち3人は【透明化】をといて、姿を現した。
「エレナ、治療を頼む」
「はい、おまかせください!」
エレナは【アスクレピオスの杖】を取り出して、
はりきって治療を開始した。
ちょっと大げさじゃないか?
治療が完了し、寝ているきみよちゃんの寝顔も楽そうになっていた。
「これで安心だな」
一安心していると、舞衣さんが俺の袖をくいくいと引っ張ってきた。
「お兄さん、きみよ君を僕たちの控え室に運んでくれないかい?」
「控え室に?」
「日本人選手3人に充てがわれた控え室だから、
そっちのほうが安心だろ?」
なるほどな。
すやすや眠るきみよちゃんをお姫様抱っこして、日本人選手の控え室へ運んだ。
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「あ、兄ちゃん。
きみよちゃんを連れてきちゃったの?」
アヤは、百合恵さんとともに次の試合の準備をしている最中だった。
準備といっても着替えではないよ?
妹の裸をのぞいたって、ちっとも楽しくないしね。
「こっちのほうが安心できると思ってね」
きみよちゃんを控え室のベッドに寝かせてあげた。
「大丈夫そうだね、よかった~」
アヤも、エレナが治療したことを分かって安心していた。
「アヤさん、そろそろ出番ですよ」
「あ、そうだった!
それじゃ、兄ちゃん、あとよろしくね~」
アヤは百合恵さんと一緒に、控え室を出ていった。
「さて、お兄さん、
着替えをする時は出ていってもらう必要があるけど、
それまではここにいてもいいよ」
まあ、舞衣さんがいいって言うならいいか。
しばらくして、きみよちゃんが目を覚ました。
「あれ? ここは控え室?
私、どうしたんでしたっけ?」
「試合中に負傷したんですよ。
覚えてませんか?」
「あっ……」
きみよちゃんは、思い出したようだ。
そして……。
「私、まけ……ちゃった……、
ぐすん……」
しくしく泣き出してしまった。
俺は、一所懸命きみよちゃんをなぐさめたのだが、
なかなか泣き止んでくれない。
そんなに泣いたら、干し芋みたいに干からびちゃうよ?
「きみよさん、何か飲みますか?
少しは落ち着くと思いますよ」
「はい……、ありがとうございます」
さて、飲み物は……お茶でいいか。
俺は、控え室の隣の給湯室に入り、
インベントリから急須とお茶っ葉を取り出す。
お湯は魔法で作り出した。
そして、淹れたお茶をお盆に乗せ、きみよちゃんのところへ持っていく。
「あ、日本茶!」
きみよちゃんは、驚いていた。
お茶の香りで少し元気を取り戻したきみよちゃんは、
ベッドから起き上がり、テーブルに移動する。
そして、いそいそと自分の荷物から何かを取り出した。
「お茶請け、こんなのしかありませんけど……」
きみよちゃんが出したのは、『干し芋』だった。
ほんとに好きなんだな。
さすがに昨日から干し芋ばかりで飽きちゃわないのかな?
「あ、そうだ!
ちょっと待ってて」
俺は、いったん給湯室に行き、
商店街で貰った和菓子とお煎餅をインベントリから取り出し、
お皿に並べて戻った。
「こんなのどう?」
「うわぁー、美味しそう!」
きみよちゃんが目を輝かせて喜んでくれている。
4人でテーブルを囲み、
甘いのとしょっぱいのを交互に食べて、日本茶をすする。
地球の反対側にいるとは思えない、この日本っぽさ!
なんか、和む~。
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みんなでわいわいと和んでいると、
しばらくしてアヤと百合恵さんが戻ってきた。
どうやら勝ったみたいだな。
まあ、当然だけど。
「あー!
私を除け者にして美味しそうなのを食べてる~!」
アヤは和菓子を一つつかむと、
ポーンと上に放り投げて、
口でキャッチしムシャムシャと食べた。
はしたない!
そしてアヤは、ソファーの俺のすぐ隣にドシンと腰を下ろし、
尻をゲシゲシと体当りさせて、俺の座ってた場所に割り込みやがった。
「兄ちゃん、私は紅茶ね。
あと、ケーキが食べたいな」
「アヤちゃんたら!」
きみよちゃんは、くすくす笑い始めてしまった。
アヤのわがままは目に余るものがあるけど、
まあ、今回はきみよちゃんの笑顔に免じて許してやるか~。
俺は給湯室に行き、
アヤの分の紅茶と、インベントリから取り出した人数分のケーキを持って戻った。
「紅茶に、ケーキまで!
セイジさんって、まるで魔法使いですね!」
しまった、きみよちゃんに驚かれてしまった。
「お、おう!」
俺は、そう答えるしかなかった。
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