341.空手大会・決勝戦
試合も進み、アヤと舞衣さんは順調に勝ち進んでいた。
アヤは、徐々に手加減することに慣れてきて、動きが良くなっている。
舞衣さんは、体格の大きな選手をバッタバッタと倒し続け、そのたびに会場を大いに盛り上げていた。
「部長は、いつ見ても素敵です……」
百合恵さんが、舞衣さんの試合を見ながらうっとりしている。
百合恵さんだけでなく、周囲の観客も舞衣さんのことを、しきりに噂している。
「あのちっちゃい子、すごく強いな。どうなっているんだ?」
「可愛くて強くて、お持ち帰りしたいです~」
なんか危ない人もいるみたいだ……。
その会話を聞きつけた百合恵さんは、『部長は私のだ』と言わんばかりに、邪悪なオーラを身にまといながら周囲を睨みつけている。
百合恵さん……みなさんが怖がるから、ほどほどにしましょうね~。
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アヤと舞衣さんは、決勝戦に駒を進めた。
残す試合は【重量級】、【中量級】、【軽量級】の決勝戦、3試合のみ。
最初は【重量級】の決勝戦。
「流石に、あの体重差は無理だろ~」
「これは、やめさせたほうがいいんじゃないか?」
舞衣さんと対戦相手の登場で、会場はざわつき始めていた。
というのも、舞衣さんの対戦相手は、
大田原象子さん。
今回の出場者の中で、男女合わせて『最重量』の選手なのだ。
舞衣さんは、とうぜん出場者の中で男女合わせて『最軽量』なので、
くしくも『最重量』と『最軽量』の対戦となってしまった。
まるで、象と小学生……。
たぶん、体重差は3倍くらいあるんじゃないかな。
「始め!」
試合が開始していきなり、
象…じゃなくて相手選手が、猛突進してきた。
そして、巨大な体に似合わぬ速度で飛び上がり、
斜め下の舞衣さんに向かって、全身の体重をかけた正拳突きを繰り出す。
まるで、思いっきり勢いをつけた『瓦割り』のようだ。
しかし、
舞衣さんは、その攻撃を避けようとしない。
ドスンッ!
ものすごい音がして、正拳突きが舞衣さんに命中した。
「キャー!」
観客席の女性が、最悪の事態を思い悲鳴を上げた。
……。
「ぐっ……」
象子選手が、確かな手応えに、息を漏らす。
「あ、アレを見ろ!」
観客の一人が指をさす。
そこには……。
バズーカの様な強力な正拳突きを、
左手一本で受け止めている舞衣さんの姿があった。
しかも、アレだけの攻撃を受けながら、
舞衣さんは、開始位置から一歩も動いてはいなかった。
てか舞衣さん、それ、物理的におかしいですよ?
象子選手は、一瞬だけ恐ろしいものを見るような表情をしたが、
直ぐに気持ちを切り替え、次の行動に移る。
バックステップで距離を取り、
そのまま離れるのかと思いきや、すぐさま取って返して、
右足を高々とふり上げる。
あの巨体なのに、なんという身軽さ。
そして、その右足を、そのまま舞衣さんに向かって振り下ろす。
『かかと落とし』なんだろうけど……。
まるでシコを踏んでいるみたいだ。
ドォォン!!
『日本武道館』全体が、揺れた。
「ひぃ!」
あまりの光景に、観客の一人が声を漏らす。
『う、嘘でしょ……』
象子選手は、信じられないという表情で、足の下の舞衣さんを見つめた。
象のような足のシコ…じゃなくて『かかと落とし』を、
舞衣さんは右手一本で、受け止めていた。
象子選手は、渾身の攻撃を軽く受け止められてしまい、
困惑して2歩ほど後ずさる。
次の瞬間、
舞衣さんの体が、残像を残して消え……、
会場全体に、『衝撃波』が突き抜けた。
俺たち以外の観客は全員、一瞬目をつぶってしまう。
そして、次に目を開けたとき目にしたのは……、
象のような巨体が、宙に浮いている姿だった。
象子選手は、ゆっくりと放物線を描いて、場外へ。
そして……
コテっと、尻もちをつく。
意識はあるが、
あまりの出来事に、呆然としたまま動くことが出来ない。
シンと静まり返った会場、
舞衣さんは、元の位置に戻り、ペコっとお辞儀をした。
「「わーーーーー!!!!!」」
一斉に巻き起こる大歓声のなか、
審判が舞衣さんの勝利を告げた。
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会場のざわめきが静まらないなか、
【中量級】の決勝戦に出場するアヤが登場した。
対戦相手は、舞衣さんに裏工作を仕掛けた、あの西村玲子だ。
『まさか…あんな化物だったなんて……
手を打っておいて正解だったわ』
西村玲子は、舞衣さんの試合を見ていたのだろう。
全身に冷や汗をびっしょりかいて、ボソリとつぶやいた。
『ねえ、手を打ったって何のこと?』
それを横で聞いていたアヤが、話しかける。
『あ!
口が滑っちゃったけど、まあいいわ。
河合舞衣のエントリーに細工をして、無理やり階級を変更させたのは私よ。
あんな化物と戦わずに済んで助かったわ。
おほほほ』
喋っちゃうのかよ!
『へー、あんた、そういう事する人なんだ~』
アヤは額の辺りをヒクヒクさせている。
だいぶ怒ってるようだ。
『戦いには、【戦術】だけではなく【戦略】というものがあるのよ。
戦術にしか頭がまわらない【おバカさん】には分からないでしょうけど~
おほほほ』
この女、ムカつく。
『あ、そう』
アヤは短く答えたが、
瞳に怒りの炎が燃え盛っていた……。
これ……マズいんじゃないか?
ご感想お待ちしております。




