340.空手大会・第一回戦
空手大会の試合が始まった。
【中量級】の第一回戦、
アヤは、苦戦していた。
何故かと言うと……、
手加減が難しく、ちゃんとした攻撃ができないでいたからだ。
あと、防御面でも苦戦していた。
相手の攻撃を避けようとすると、動きが早すぎて、一般人の目には瞬間移動したかのように見えてしまうのだ。
かと言って、攻撃を払いのけようとすると……、
その行動だけで相手を傷つけてしまう可能性がある。
結果としてアヤは、素人っぽいギクシャクした動きになっていた。
「アヤさん、がんばれ~」
エレナが観客席から声援を送る。
「アヤお姉ちゃん、がんばえ~」
あ、ヒルダもアヤを応援しようとして、ちょっと噛んだ。
かわええ。
俺の横に座っている百合恵さんも、ヒルダの可愛い姿を見て鼻息を荒くしている。
後で魔力を吸ってやらねば。
エレナとヒルダの応援の甲斐もあって、
アヤは辛くも第一戦を勝利した。
疲れた表情のアヤが、競技場から退場しようとすると、
例の西村玲子が話しかけてきた。
俺は早速【追跡用ビーコン】の映像を確認した。
『あなた、あの可愛舞衣の後輩なんですってね』
『あ、さっきの人』
西村玲子は、アヤにも名前を覚えてもらえず、ムッとした表情をした。
『それにしては随分、お粗末な試合でしたね』
『そうね、私もそう思う。
もうちょっとうまく出来ると思ったんだけどな~』
西村玲子が嫌味を言っているのに、アヤは気にせず素で答えている。
そんなアヤの態度が気に入らないのか、西村玲子はさらに突っかかる。
『無理だとは思うけど、決勝まで来て私と対戦できることになったら、
その努力に免じて手加減してあげますわ』
女同士のこういう会話って苦手だな~。
『私も、決勝に進む頃には、もうちょっと上手く手加減が出来るようになっていると思うから、安心してていいよ~』
アヤも負けじと切り返す。
まあ、アヤの言っていることは本当のことなんだけどね。
『まあ、口だけはお上手だこと。
おほほほ』
西村玲子は、お嬢様笑いを上げているが、
ぜんぜん目が笑っていない。
なんか、見てるだけで胃が痛くなってくるな。
アヤが控え室に戻ると、
会場が、徐々にざわめき始めた。
競技場に、舞衣さんが登場したのだ。
西村玲子は、親の敵を見るように、そんな舞衣さんを見つめている。
そして、舞衣さんの初戦の対戦相手は……。
身長は180㎝くらい、手足もぶっとい、巨大な女子大生だった。
「百合恵さん、
あの対戦相手、どんな人だか分かります?」
「あの人は、去年の大会の【重量級】で優勝した人ですよ。
【人類最強】とか言われているそうです」
なるほど、いい面構えをしている。
しかし、シュールな絵面だ。
この対戦に題名をつけるとしたら……、
『小学生』対『ゴリラ』。
そんな感じだ。
俺たちのすぐ後ろに座っているカップルの会話が聞こえてきた。
「あの体重差で戦うのか?」
「あの子、本当に大学生?」
「去年の優勝者らしいよ」
「あの大きい人?」
「両方だって」
「両方!??」
「小さい子が、【軽量級】の優勝者で、
大きい人が、【重量級】の優勝者だって」
「なんで、【軽量級】の人が【重量級】の試合に出てるの!?」
会場のどよめきは、一向に収まる気配がない。
そんな様子を見てほくそ笑む人影があった。
西村玲子だ。
『無理して【重量級】に出場するなんて、
なんてバカな子なんでしょう。
あのゴリラに殺されちゃえばいいのよ』
なんて酷いことを言うんだ。
花も恥じらう女子大生に向かって『ゴリラ』だなんて! あれ?
今度は、舞衣さんの対戦相手が、舞衣さんに話しかけている。
『おい、河合舞衣』
『なんだい?』
『あんた、空手を舐めてるんじゃないのか?』
『そんなことはないと思うよ?』
『まあ、試合では手加減はしないから覚悟しておくんだね』
『当然だよ』
そして、『小学生』対『ゴリラ』の試合が開始された。
ズバンッ!
いきなり、ものすごい音がして、対戦相手は倒れた。
会場全体も、審判も、何が起こったか分からず、黙りこんでしまった。
無理もない、
舞衣さんの攻撃が早すぎて、一般の人には見えなかったはずだ。
舞衣さんは、攻撃を寸止めしたのだが、
その衝撃波が対戦相手の体を貫き、
それだけで相手の意識を刈り取ってしまったのだ。
おそらく相手には体の外側も内側も全くケガをさせていないはずだ。
舞衣さんが下がって一礼をすると、
主審が、ハッと放心状態から立ち直り、
舞衣さんの勝利を告げた。
「「わーー!!!!」」
大歓声に包まれる会場。
対戦相手のところに担架が運ばれてきたが、
直ぐに意識が戻り、何が起こったか分からずキョロキョロしたあと、
担架を使わず、自分の足でトボトボと控え室に帰っていった。
あの対戦相手には可哀想だけど、相手が悪すぎたな。
そんな様子を物陰で見ていた西村玲子は、
口をあんぐりと開けた『間抜け面』のまま、
目を点にして呆けていた。
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