339.体重別
日曜日、『大学空手道選手権大会』当日。
俺とエレナとヒルダは、アヤと舞衣さんの応援に、大会が開催される『日本武道館』にやってきた。
応援席に着くと、百合恵さんがいた。
「百合恵さん、こんにちは」
「あ、お兄さん、
それと、エレナちゃんと、ヒルダちゃん!」
百合恵さんの二人を見る目が、若干あやしい。
「気の使い方を舞衣さんから教わっているんですよね?
うまくいってます?」
「ええ、だいぶいい感じです」
「もし、ダメそうなら、
また魔りょ…じゃなくて気を取り除きますから、遠慮せずにいってくださいね」
「は、はい……」
やはり、男に体を触られるのはいやなのかな?
「あれは……、
何度もしてもらうと、癖になっちゃいそうなので……」
なんか、顔を赤らめてもじもじしている。
何だそりゃ。
「あ、部長とアヤちゃんが出てきました」
百合恵さんの言う方を見てみると、
二人が競技会場に出てきていた。
舞衣さんがこっちに気がついて、手を振る。
アヤも気がついて、ぴょんぴょん飛び跳ねながら両手で手を降っている。
あんなに飛び跳ねなくても分かるよ。
試合はまだなのに、何しているんだろう?
二人は、大会スタッフに話しかけている。
俺は、【追跡用ビーコン】の映像を確認してみた。
『ああ、去年の大会で優勝した河合舞衣選手ですね』
スタッフさんは舞衣さんの事を知っているのか。
ここでは舞衣さんは有名人なんだな。
『そうです。ボクのエントリーが、何故か【軽量級】じゃなくて【重量級】になっているみたいなんです』
『え!?』
なにかトラブルがあったらしい。
そういえば舞衣さんが【軽量級】、アヤが【中量級】に出るって言ってたな。
舞衣さんはどう見ても小学生…くらいの体型なので、【重量級】なんてことはありえない。
『ほ、本当だ……、【重量級】にエントリーされてます……』
スタッフさんが書類を確認して、驚いている。
『さすがに、ボクが【重量級】に出るわけにも行かないので、なんとかしてもらえませんか?』
『ちょっと、確認してきます』
スタッフさんは、急いで走って行ってしまった。
そして、それと入れ違いに気取った女性が近づいてくる。
空手の大会だというのに、なぜ髪型が『縦巻きロール』なんだ?
『おほほ、残念でしたね河合舞衣!』
気取った女性が声をかけてくる。
舞衣さんを呼び捨てにしているってことは、知り合いなのかな?
『だれだい、キミは?』
あれ? 知らない人なのか?
『わ、私を忘れたんですの!?
去年、あなたと決勝で戦ったでしょ?』
『ごめん、覚えてないや』
『きー!!』
その人は、怒って立ち去ってしまった。
誰だったんだろう?
百合恵さんだったら知っているかな?
「百合恵さん、あの人誰だかわかります?」
「ああ、あの人は、去年の大会で部長と戦った西村玲子さんです。
美人空手少女として何度かテレビに出たりして、
去年も、優勝間違いなしと言われていたのですが、
決勝戦で部長に負けて、とても悔しがっていました」
「なるほど……」
それでライバル心むき出しなのか。
【追跡用ビーコン】をもう一つ出して、あの人を追いかけてみよう。
べ、別に、美人だから気になるわけじゃないからね!
『きー!
私のことを覚えていないなんて!
なんて失礼なガキなんでしょう!!』
西村玲子さんは、誰も居ないところで独り言をしていた。
そうとう舞衣さんを恨んでいるらしい。
『まあでも、今年は私が優勝ですわね』
おお、すごい自信だ。
舞衣さんに勝てるように相当稽古を重ねてきたに違いない。
『あの憎っくき河合舞衣は、うまく階級を変更できたみたいね。
だいぶお金を使ってしまいましたが、いたしかたありません』
な、なんだと……。
舞衣さんの階級を、変更しただと!?
『まあ、そもそも今年の私は【中量級】ですし、関係ありませんけどね!
おーほほほほ』
【中量級】なのに、何故舞衣さんの階級を変更する必要があったんだ?
てか、【中量級】ならアヤと戦うのか。
その後、西村玲子は更衣室に入ってしまったので、【追跡用ビーコン】の映像は途切れてしまった。
チッ。
『河合選手、申し訳ありません』
スタッフさんが戻ってきたみたいだ。
『どうやら、手違いがあったようでして……』
『そうですか、それじゃあ【軽量級】に変更してもらえるんですね?』
『そ、それが……
申し訳ありません』
スタッフさん、土下座しちゃったよ。
『もう、このエントリーでトーナメントを組んでしまったので、今から変更は出来ないそうです。
誠に申し訳ありません』
『困ったな、それじゃボクはどうしたらいいんですか?』
『棄権…していただくしか……』
スタッフさん、土下座したまま動かない。
舞衣さんも困り果てている。
くそう、あの西村玲子のせいで、舞衣さんが棄権させられてしまうのか、
なんとか出来ないものか。
『ねえ、スタッフさん』
アヤが、土下座したままのスタッフさんに話しかける。
『【重量級】って、体重制限が無いんですよね?』
『ええ、そうです』
『それじゃあ、部長はそのまま【重量級】に出ちゃえばいいんじゃない?
私だって、本当は【軽量級】の体重なのに、
部長と被らないようにわざわざ【中量級】にエントリーしたんだし、
別にいいんですよね?』
『アヤ君、それはいいアイデアだ』
『へ!?』
スタッフさん驚いちゃってるよ。
『いやいや、流石に、体重差が……』
『しかし、そうじゃないと棄権しなきゃいけないんですよね?』
『そうですが……』
『ルール上は問題ないんですよね?』
『それも、そうですが』
『じゃあ、問題なしですね』
『は、はあ……』
小学生…くらいの体型の舞衣さんが、【重量級】で戦うのか。
こりゃ見ものだな。
『部長、いいな~
私も【重量級】に出てみたかったな~』
『じゃあ、来年はアヤ君が【重量級】に出てみたらいい』
『そうか! そうしよう!』
二人は楽しそうに更衣室に戻っていった。
そして、残されたスタッフさんは、
跪いた姿勢のまま、唖然としていた。
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