288.事務員?通訳?
今日、2話目です。
週明けの月曜日。
俺が出社すると、部長からお呼びがかかった。
「部長、何の御用ですか?」
「朝一ですまんね、
実は君に、ジュエリーナンシー東京店用のシステム開発の『要件定義』をお願いしたいんだが、いいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
『要件定義』とは、どんなシステムを作りたいかの要望を聞いてまとめるということだ。
「では、会議をセッティングして…」
「それが、そうもいかないらしいのだ」
「どういう事ですか?」
「ナンシーさんが色々多忙らしく、悠長に会議とかしてられないんだそうだ。
スマンが、こちらから出向いて、向こうで話しを聞いてきてくれ」
「分かりました」
多忙?
この間まで日本観光とかしてたのに。
とりあえず俺は、ナンシーがいるジュエリーナンシー・東京店へ向かった。
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ジュエリーナンシー・東京店は、銀座の一等地にあった。
「はへ~、すごい場所に店をだすんだな~」
俺は、裏口で入館手続きをして中に入った。
事務室に入ると、ナンシーが一人で事務作業をしていた。
あれ? ママさんはどうした?
「こんにちはナンシー」
「あ、セイジ、わざわざ来てもらってすまないね」
「一人で事務作業をしているのかい?
ママさんは?」
「ママは……。
マッチョ・コーバーを見学して回っている」
「マッチョ・コーバー?? なんだそりゃ?」
「『シタマチ』で営業をしている、中小企業の金属加工の会社だって」
「ああ、『町工場』か!
なんでまた、ママさんは町工場を見学してるんだ?」
「セイジの金属加工の秘密が町工場にあると見て、研究するんだってさ」
「なるほど」
どうやら本気で、俺の手を借りずに例のアクセサリを作ろうとしているらしい。
「ところで、システム開発の件を話しに来たんだけど、
いいかな?」
「ああ、その件ね。
アメリカで使ってるシステムを、これから雇う日本人従業員向けに日本語で表示できるように翻訳してくれればいい。
君なら簡単だろ?」
なるほど、そういう認識か。
そして、ここからがSEの仕事だ。
「データの日本語対応は?」
「なにそれ?」
「英語のアルファベットは26文字、大文字小文字を別にしたって52文字しかないだろ?
それに対して日本語はひらがな・カタカナ、そして漢字まであって、常用漢字だけでも2千以上あるんだ。
システムをそれに対応できるように作り直す必要がある」
「そうなのか、そんなに簡単じゃないんだな」
その後、システム開発の件を話し合い、なんとか要件定義をまとめることができた。
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「後はコレをママさんに見せて許可を貰う必要があるんだけど……
いつ帰ってくるんだ?」
「それが、町工場を回ってばかりで、ちっとも帰って来なくって……。
それで、事務仕事がたまってしまって困っているんだ」
「事務処理をしてくれる人を、雇わないの?」
「なにせ、急なことだったからね~
まだそこまで手が回ってないんだ。
セイジ、手伝ってくれない?」
「会社に確認とるから、ちょっとまってて」
俺は部長に電話を入れ、事情を説明したところ、
部長は、快く了承してくれた。
まあ、大事な取引相手だしね。
世間では、取引先企業で手伝いを頼まれて困る話をよく聞くけど……。
まあ部長の許可もとったし、別にいいよね。
「部長が手伝ってもいいってさ」
「ありがとう、助かるよ」
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はじめはIT系の事務処理だけを手伝っていたのだが、 俺は、英語と日本語が両方共できるし、【情報魔法】で書類の間違いを簡単に見つけることもできる。
そんなこんなで、IT系以外の書類も、かなりの量を手伝うことができた。
「セイジ、あなた凄く優秀だったのね」
「それなりにね」
「SEをやめてうちの事務員にならない?」
「SEをクビになったら考えるよ」
そんな事を話しつつ、作業を進めていると、
日本語でも英語でもない文字で書かれた書類を見つけた。
「ナンシー、この書類はなんだい?」
「わからない」
「わからないって、ナンシーはここの店長なんでしょ?」
「ママが、なにかやってるらしいんだけど、
その書類、読めないし」
【言語習得】を使ってみるか……。
どうやら『ゾンカ語』という言語だそうだ、
とりあえず、習得してみる。
「えーと、ヌルポ石の輸入に関する書類らしい」
「え? セイジ、読めるの?」
「まあね」
「SEをやめて通訳になったら?」
「SEをクビになったら考えるよ」
どうやら、『ヌルポ石』は『ブータン』で産出されたものらしい、
ブータンって、あの幸福の国か、
あの国で『ヌルポ石』が掘られているのかな?
ブータンか……。
一度行ってみたいな。
それにしてもこの書類、『社外秘』とかじゃないよね?
情報セキュリティとか大丈夫なのかな?
IT系の会社と他の業種の会社で、そこら辺の温度差があるのかもしれないな。
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「セイジのおかげで、溜まっていた事務処理が、だいぶ片付いたよ。
ありがとね」
「お役に立ててよかったよ」
俺とナンシーが握手をしていると……。
バタン!
部屋の扉が勢い良く開き、
ママさんが入ってきた。
「まあ! ナンシーがセイジと逢い引きしている~」
「ママお帰り。
ママがいないせいで滞ってた事務処理を、セイジが手伝ってくれてたんだよ」
「ああ、そうだったの」
まあ、初めから分かってて、からかってるのは見え見えだぞ。
「そんな事より、聞いてよナンシー!」
「なに?」
「日本の『マッチョ・コーバー』は、すっごいのよ!!」
「ママ、それを言うなら『町工場』でしょ?」
さっきはナンシーも間違えてたくせに。
「見てなさいセイジ!
私は、『マッチョ・コーバー』と手を組んで、あなたに負けないくらいのジュエリーを作ってみせるから!」
なんか、ライバルの対決っぽい感じになってるけど、
俺の本業はSEなんだよ?
ご感想お待ちしております。




