261.接待
翌朝、会社に出社すると、
会社の受付の所で誰かがもめていた。
「I can not speak english」
『英語、話せてるじゃん!』
外人さんに話しかけられていた人は、
「I'm sorry」
と言いながら逃げるように行ってしまった。
置いてけぼりにされてしまった外人さんは、肩を竦めている。
仕方ない、俺が話を聞いてやるか。
『どうかしましたか』
『ん、あなたは英語が話せるんだね。
助かったよ』
そう言って、振り向いたその女性は……
『セ、セイジじゃないか!』
ナンシーだった。
『ナンシー、何故ここにいるんだ?』
『私は、ビジネスでここに来たのよ。
あなたこそ、なんでここにいるの?』
『ここは、俺の働いている会社だ』
『マジで!?』
俺とナンシーが英語でそんな会話をしていると―
「やあ、丸山君。
さっそくナンシーさんの相手をしてくれていたのか」
部長が現れた。
「え? 部長はナンシーの事を知ってるんですか?」
「知ってるも何も、先週話した英語が必要になる仕事っていうのは、ナンシーさんのことだよ」
「なんだってー!!」
『セイジ、どうかしたのか?』
『いや、ナンシーのビジネス相手が、俺の部署だって聞いて驚いていたんだ』
『そうなのか!
セイジがビジネスパートナーだったら安心だな』
ナンシーは、俺に握手をしながら、大喜びしている。
「ん? 丸山君、ナンシーさんとずいぶん仲がいいみたいじゃないか。
君もずいぶんプレーボーイなんだな」
失敬な!
「違いますよ、ナンシーとは前から知り合いだったんですよ!」
「な、なんだってーーー!!」
考えてみれば、ナンシーと最初に出会ったのは、この会社の前だ。
あの時も、ビジネスでこの会社に来ていた帰りだったのだろう。
さっそく打ち合わせを行うということで、俺たちは会議室へ移動した。
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※以降、セイジが通訳をしています。
なんか、通訳ばっかり……
「ところで、ナンシーさんは今回も通訳が同席していないのかな?」
今回も?
『前回と違う人に通訳を頼んだんですが、
急な腹痛で、私を置いて帰ってしまって』
『前回も通訳が帰ってしまったのか?』
『前回は頭痛で』
ナンシーは、運が悪いな~
「今回は、この丸山君に付きっきりで通訳させますのでご安心を」
俺が、付きっきりで!?
『oh! それはありがたいです!!』
「部長、俺も仕事があるんですけど……」
「いやいや、ナンシーさんの仕事が最優先事項だから、
他の仕事は全部他の人にまわしておいた!」
マジか!
「いやあ、遅れて申し訳ない」
そこへ、社長が入ってきた。
「社長もこの会議に出席されるんですか?」
「ああ、もちろんだとも。
なんせ、あの有名な『ジュエリー・ナンシー』との仕事だからね!
この仕事が成功したら、我社の知名度も『うなぎの滝登り』!!」
突っ込まないぞ!
『ナンシーの会社は、有名な会社だったんだな』
『そうだぞ、惚れなおした?』
『ソウデスネー』
『なんだよ、つれないな~
まあ、私の会社じゃなくてママの会社だけどね』
やはり、社長の娘さんなのか!
そう言えば、エジプトで高級ホテルに泊まったりしていたな。
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その後、ちゃんと仕事の話もした。
どうやら、『ジュエリー・ナンシー』の日本店で使うシステムを、日本人従業員向けに日本語化する仕事らしい。
今後、日本中に支店を出していく『ジュエリー・ナンシー』。
その支店同士をネットワークで結ぶシステムの開発を、わが社が請け負うという約束が結ばれているとの事だった。
そりゃあ、社長も部長も鼻息が荒くなるわけだ。
「ところでナンシーさんは、日本の観光などはしましたか?」
部長が、手をスリスリさせながらナンシーに質問する。
なんかキモい。
『前回も、今回も、通訳の人が帰ってしまったせいで、どこにも行けてないんです』
「それはいけない!
せっかくこれから日本でビジネスをするんですから、
日本観光をして、日本のことをもっと知ってもらわないと!」
「そうだ、丸山君が付きっきりで通訳しながら、日本を案内して上げなさい」
「社長! それはいいアイデアです!
丸山君、頼んだよ!」
なんか、社長と部長が変なことを言い出した。
「あのー、俺にも仕事があるんですけど……」
「ナンシーさんとの仕事が優先だ。
費用は接待費として会社から出すから」
マジか!
公務員相手とかじゃないから、法律上は問題ないはずだけど……
いいんだろうか。
『セイジ、どうした?』
『ナンシーの日本観光に、俺が通訳として付いて行けって、社長命令が……』
『ほんと!? それは嬉しい!』
ナンシーは、嬉しそうに社長と握手を交わしていた。
どうやら俺に拒否権は無いらしい……
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日本観光第一弾として、
社長と部長に連れられて、
『寿司屋』にナンシーを連れて来ていた。
『ナンシーは、寿司を食べたことはあるのかい?』
『あるとも!
私はカリフォルニアロールが一番好きだよ!』
うーむ、ダメそう……
俺たちは、個室に通された。
『ナンシー、生魚は大丈夫かい?』
『うーむ、ちょっと苦手かな』
『じゃあ、わさびは大丈夫?』
『わさびって何だい?』
これもダメか……
社長と部長は、注文を聞きに来たお姉さんに「特上4人前」とか言ってるけど、
ちゃんとナンシーにも好みとか聞けよ!
「あ、すいません、こちらの女性の分は、ちょっと別でお願いしたいんですけどいいですか?」
「なんだい、丸山君、特上よりいいやつは無いよ?」
部長は黙ってて下さい。
「生魚やわさびは苦手らしいので、
火を通したものや、魚以外で、さび抜きでお願いします」
「分かりました、板前に聞いてみます」
「あ、あと……」
「はい」
「カリフォルニアロールって出来ます?」
「えっと……聞いてみます」
流石に無理だよね。
「あ、あとですね……
フォークとナイフなんてありますか?」
「流石にそれは……」
ダメか……
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しばらく待つと、
特上寿司3人前と、
ナンシーには、カリフォルニアロールの入った特別寿司が運ばれてきた。
寿司を運んできた女性は、顔をひきつらせていた。
フォークとナイフは、お店の人に断りを入れ、
インベントリから出して、ナンシーに渡した。
『本場のカリフォルニアロールは、美味しいです!!
アメージング!
ファンタスティック!!』
ナンシーは、ナイフとフォークでカリフォルニアロールを食べ、大喜びしてくれていた。
でも、ナンシー。
カリフォルニアロールの本場は日本じゃないよ?
それ以外の、あぶりトロ、サーモン、穴子、タマゴなんかも気に入ってもらえたみたいだった。
まあ、喜んでくれたならいいか!
『ところでセイジ、
セイジが食べている白いのはなんだい?』
『これは、イカ寿司だよ』
『うげー
そっちの白と赤のは?』
『こっちはタコ寿司だよ』
『うげげー!
デビルフィッシュか!』
『ナンシーも食べてみるかい?』
『ノーサンキュー』
ですよね~
文化の違いは色々だな~
ご感想お待ちしております。




