228.森の中の兄妹
綿密な科学捜査が行われたが、けっきょく警察の捜査の進展はなかったようだ。
余談だが、社長の長男さんは金曜の朝の時点で、両手だけではなく、両足も完全に治ってしまったそうだ。
俺は、社長と部長に毎日呼び出されて昼食をごちそうになった。
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金曜日の夕方。
舞衣さんに家に来てもらって、召喚された可能性について説明した。
「じゃあ、百合恵くんは異世界にいるかもしれないって事かい?」
「これだけ警察に探してもらっても見つからないとなると、それしか考えられない」
「なるほど……
それで、これから百合恵くんを探しに異世界に行ってくれるのかい?」
「ええ、そのつもりです。
舞衣さんも来ますか?」
「もちろん行くさ!」
話がまとまり、
いつもより早いが、金曜の内に出発することにした。
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「王様、来たぞ」
「セ、セイジ!
いきなり現れるな!
しかも、今回は人が多いな」
「まあ、紹介とかは置いておいて、
例の魔法使いの行方は分かったか?」
「あ、ああ、
だいぶ前に、ニッポの街で目撃されたらしい。
詳しくは、ロンドに聞け」
「ニッポか、じゃあ行ってくる」
「もう行ってしまうのか?
せめてエレナを置いて…」
「じゃあな!」
王様の話を遮って、俺たちはニッポの街へ向かった。
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「よう、ロンド、久しぶり」
「セイジ、エレナ様、
それに…ア、アヤさん!」
ロンド、なぜ照れる……
「アヤさん。
今からディナーの準備をさせるから、食べていって下さい」
「ロンド……
そんな事より、王様のところの魔法使いが、この街で目撃されたらしいけど、その話を聞かせてくれよ」
「ああ、あの事か」
ロンドの指示で、一人の気弱そうな兵士がやって来た。
「例の魔法使いの事について話してやってくれ」
「はい、かしこまりました」
その兵士の話によると……
・2ヶ月とちょっと前に、ニッポの街から出て行くのを見かけた。
・街を出て北へ向かった。
・それっきり街には戻ってきていない。
以上の事が聞けた。
魔法使いの事は、ロンドと一緒に王都に行った時に、王様と一緒にいた所を見て顔を覚えていたらしい。
2ヶ月前といえば、ちょうどニッポの街で闘技大会に出場した頃だ。
もしかして、あの時の闘技大会を見ていたのか?
そしてニッポの街から北に向かって帰ってきていない。
普通に考えると、魔物などに襲われて帰らぬ人となったという可能性が高いが……
百合恵さんの件に絡んでいるとすると、どこかで健在なはずだ。
街の北に何かあるのかな?
「俺はこれから、北を捜索してみる。
みんなは、ここで待っていてくれ」
「ボクも一緒にいく」
「舞衣さん、悪いけど―
魔法で探しまわるから連れてはいけない。
なにか見つけたらすぐ知らせるから、みんなと待っていてくれ」
「そうか……
わかった……」
「そうと決まればアヤさん、ご一緒にディナーを……」
ロンドは急に元気になり、アヤの手をとってエスコートしようとしている。
悪いやつじゃないんだけど……
なんかムカつくな。
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日が沈み、真っ暗な森の中を、
俺は【電光石火】で駆け抜けていた。
最近、一人で森の中を駆けずり回っていることが多い気がする……
もうかれこれ3時間は走り回っているが、
出会うのは、ゴブリンやオークや普通の魔物ばかり。
もう、だいぶ北の方まで来てしまっている。
流石に、こんな森の奥深くまで魔法使いが一人で来るはずはないか―
もうちょっと東西に幅を広げて探してみるか。
さらに3時間ほど経過し、完全に真夜中。
俺は、西方面の探索を終えて、
今度は東方面を探し始めたばかりだった。
やっと悪魔族の反応があった!
どうやら、何かと戦闘中らしい。
俺は、気づかれないように近づいた。
悪魔族の男が一人と、男女の二人組が戦っていた。
女が怪我をしていて、男はかばいながら戦っている。
そのせいで、男は防戦一方となり、かなり旗色が悪い。
そして、その男女は、知っている人物だった。
俺は、悪魔族の背中に【瞬間移動】し、【電撃】で気絶させた。
「なっ!?」
男は、突然の出来事に驚いていた。
「久しぶりだな『ガドル』、『ハルバ』」
「!?
お、お前は……『セイジ』!」
悪魔族と戦っていた男女は、竜人族の兄妹、
『ガドル』と、『ハルバ』だった。
忘れている人がいるかもしれないが、
この二人は、ニッポの街の闘技大会で俺やアヤと戦った竜人族の選手だ。
「セイジ、なぜここに!?」
「俺は、人探しだ。
そっちこそ、なんで悪魔族と戦っていたんだ?」
「狩りの途中に野営をしていたら、ハルバの見張りの番の時に背後から襲われた」
「そう言えば、ハルバの傷は大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ」
ハルバはそう言っているが、あまり大丈夫には見えない。
背中を切られ、おそらく毒に侵されている。
エリクサー作成のついでに多めに作った【傷治癒薬】と【毒治癒薬】があったので、一本ずつ飲ませると、
ハルバの顔色と傷は、ゆっくりと治っていった。
「すまない」「ありがとう」
「まあいいさ、悪魔族退治のついでだ。
それよりニッポの街まで送ろうか?」
「いや、俺たちはニッポの街ではなく竜人族の村に帰る」
「竜人族の村? この近くなのか?」
「すまないが、場所は教えられない」
隠れ里、と言うことか。
「おっと、忘れるところだった。
ガドルには、もう一つ用事があったんだ」
「ん? なんだ?」
「前に槍を預かったままだったよな。
あれを返さないと」
「あの槍か……
しかし、あの槍は呪われていて、処分したのではなかったのか?」
「まだ手元にある。
それと、【呪い治癒薬】が手に入ったから、呪いを解くことが出来るぞ。どうする?」
「【呪い治癒薬】……
高価なのだろう?」
「まあ、それなりにな」
嘘です。
ぶっちゃけ、スキル上げで作ったのが大量にあるから、余ってるんだよね~
「実は、あの槍は村に代々伝わる大事な物なのだ。
すぐに代金を払うことは出来ないが、
できれば、呪いを解いて欲しい」
「そうか、ではさっそく」
俺はその場に、例の槍、【魔人の槍】をボロンと出した。
そして、【魔人の槍】に【呪い治癒薬】をふりかける。
ジュッ!
槍から何やら黒い煙のようなものが立ち上がり、上空に登って消えていった。
槍を【鑑定】してみると―
┌─<鑑定>────
│【竜人の槍】
│装備した者のステータスを上昇させ
│精神を落ち着かせる
│竜人族が装備すると、さらに効果上昇
│レア度:★★★★
└─────────
【魔人の槍】が【竜人の槍】に変化していた。
「呪いは解けたぞ」
「すまない、ありがとう」
「ありがとうございます」
「槍のお礼がしたい、村に来てくれないだろうか?」
「村の場所は教えられないんじゃなかったのか?」
「危ない所を助けられ、
さらに槍の呪いを解いてくれた恩人とあらば、
村の者たちも分かってくれるだろう」
人探しの途中だったが……
竜人族たちにも悪魔族の事を教えておいたほうがいいだろうし、
ちょっと行ってみるか。
「所で、この悪魔族はどうする?」
「殺す」
ガドルは、気を失っている悪魔族の心臓めがけて、槍を躊躇なく突き刺した。
容赦ねえ……
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