226.大金と針金
翌朝、百合恵さんからの連絡はまだ無いそうで、かなり心配ではあるものの、
後のことはアヤに任せて、俺は会社に出勤した。
「丸山君、おはよう」
会社の入口で、社長と部長が俺のことを出迎えてくれた。
これはいったい何事だよ!
俺は、他の人に変な目で見られながら、
社長と部長に取り押さえられて、密室へと連れ込まれてしまった。
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「一体何ごとですか?」
「いやー、待ってたよ、丸山君」
何やら、社長と部長の目が怖い。
社長は、何やら重そうなものを俺の前に置いた。
「これは何ですか?」
「ジュラルミンケースだ」
「それは、見れば分かります」
「まあ、何も言わずに受け取ってくれ」
「は、はあ」
激しく嫌な予感がする……
ジュラルミンケース、そして社長が持った時のあの重そうな感じ。
まあ、かと言って断る選択肢は無いんだけどね。
横から部長も一言付け加えてくる。
「私からの分も入っているからね。
ちなみに社長の分と私の分の比率は秘密だ」
そうですか、まあいいけど。
その日一日、俺はジュラルミンケースを持ったまま仕事をするは目になった。
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ジュラルミンケースが気がかりで、気が休まることがなかったが、
何とかその日の仕事を終え、家に帰り着いた時は、すっかりヘトヘトになっていた。
「ただいま」
「「お帰りなさい!」」
エレナとヒルダが出迎えてくれたので、疲れは一瞬の内に吹き飛んだ。
さて、中身を確認してみるかな~
怖くて会社では確認してなかったんだよね。
「お札がたくさん入ってますね」
「そうだね……」
ジュラルミンケースの中には、100万円の札束が、100束入っていた……
俺の額に嫌な汗が吹き出していた。
これ、どうしよう……
よく見ると、100束の中で1束だけ違う銀行の帯封がしてあった。
なるほど99対1か……
俺は、それを、そっとインベントリにしまった。
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心を落ち着かせるため、エレナに入れてもらったコーヒーを飲んでいると―
アヤから電話がかかってきた。
『もしもし、兄ちゃん?』
『アヤどうした、百合恵さんは見つかったのか?』
『ううん、見つからない。
短大にも来てないし、知り合いに聞きまくっても誰もしらないし……
だから、これから部長と一緒に百合恵さんの家に行ってくる』
『そうか、何かあったらすぐに電話しろよ。
俺の手伝いが必要だったらすぐに行くから』
『うん、わかった、じゃあまた後で電話する』
「百合恵さん見つからないんですか?」
「ああ、一体どうしちゃったんだろうな~」
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しばらくして、またアヤから電話がかかってきた。
『アヤどうした?』
『いま百合恵さんのマンションンに着いたんだけど‥‥
やっぱり様子がおかしい。
兄ちゃんこっち来て』
『分かった、すぐ行く』
「エレナ、ヒルダ、ちょっと百合恵さんの家に行ってくるから、留守番よろしくな」
「はい、わかりました」
エレナもヒルダも、心配そうな顔をしていた。
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「おまたせ」
「兄ちゃん、遅いよ」
電話を切ってから1分も経ってないんだが?
それはほっておいて。
「ここが百合恵さんのマンションか?」
「ああ、間違いない」
確かに様子がおかしい。
まず、水の流れる音がずっと聞こえている。
おそらく水道の水が出しっぱなしなのだろう。
次に、ドアの上に備え付けられている電気メーターが、ぐるぐる回っている。
おそらく、電気が付けっぱなしなのだろう。
にも関わらず、呼び鈴を押しても、ドアを叩いても、いっこうに反応が無いのだ。
「ね、様子がおかしいでしょ?」
「ああ、そうだな」
「お兄さんは、ワープで部屋の中に入れないのかい?」
「行ったことのある場所にしか行けないんだ」
「でも、ここにはワープして来たよね?」
「それは、アヤにビーコンが付けてあるから、それを目印に飛んできたんだ」
「なるほど……」
ピコン!
「いいことを思いついた」
「なに?」
俺は、インベントリから針金を取り出した。
「あ、分かった、それで鍵を開けるんだね」
「違うよアヤ、まあ見てな」
俺は、針金の先に【追跡用ビーコン】を取り付け、
ドアの郵便受けから、針金を差し込んだ。
そして、【追跡用ビーコン】の映像を、アヤと舞衣さんにも見えるように表示してやる。
「あ、中が見える」
「これ凄いね、まるで内視鏡だ」
そのまま、【土の魔法】を使って針金を操り、奥へと進んでいく。
郵便受けの小窓から奥へ行くと、廊下が見えてきた。
「廊下の電気がつきっぱなしだ」
やはり、普通じゃないな。
さらに進むと、右にトイレとバスルームがある。
針金をコントロールしてトイレのドアを開けてみたが、中に百合恵さんは居なかった。
おい、アヤ、なんでそんな目で俺を見る!
中で倒れたりしてたら大変だろ?
次に、バスルームを見てみると、
お湯が出しっぱなしになっていて、湯船からお湯が溢れ続けていた。
「兄ちゃん、蛇口止めないの?」
「そんなの後だ」
バスルームから出て廊下を進むと、台所があった。
台所では、大きなケーキが作りかけで置いてあった。
どうやら、このケーキを作っている最中に何かがあったらしい。
台所を出て奥へ進むと、リビングだった。
リビングには、舞衣さんを出迎える為の料理が、テーブルいっぱいに並んでいた。
しかし、その料理は…全部冷めてしまっていた。
「まるで、メアリー・セレスト号だな……」
リビングには、もう一つ扉があり、そちらは寝室だった。
ベッドには、枕が2つ並べて置いてあった……
激しく突っ込みたいのだが、
肝心の百合恵さんの姿は何処にもない。
「ダメだ、百合恵さんは居ないみたいだ
やはり警察に連絡したほうが良さそうだ」
「そうだね」
とりあえず、針金を回収しておこう。
「あ、兄ちゃんちょっと待って!」
針金回収中にアヤが急に大声を上げた。
「どうした?」
「見て、これ」
アヤは、追跡用ビーコンの映像の1箇所を指差した。
針金はもうすぐ回収が終わる。
そして、映像には、玄関のドアが表示されているだけ。
アヤが指差したのは……
ドアチェーンだった。
「ドアチェーンがどうしたんだ?」
「だって、ドアチェーンがかかってるのに、中に人が居ないなんて、おかしいでしょ?」
確かにそうだ、ドアチェーンがかかってるとドアからは出られない。
外からドアチェーンはかけられない。
常識的に考えれば、百合恵さんはまだ中に居ないとおかしい。
一体どうなってるんだ?
針金の回収を終え、
舞衣さんが、警察へ通報の電話を入れた。
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