190.壁ドン
結婚式もだいぶ落ち着いてきたところを見計らって―
「ブンミーさん、これが何だかわかりますか?」
俺はブンミーさんに、舞衣さんのお婆さんが持っていたアイテムの写真を見せてみた。
「ずいぶん精巧な絵だな。
ん? これは、どこかで見たことがあるな……
あ、そうか!
マントは、魔王様のマントに似ている」
「やっぱり!」
「この絵がどうかしたのか?」
「いやいや、詳しいことが分かったら後で教えますよ」
クックック……
これは面白くなってきたな。
「そう言えば、結婚式に魔王様は呼んでないんですか?」
「もちろんお呼びしている。
もうしばらくしたら来るだろう」
「そうですか、楽しみだな~」
そんな話をしていると―
狙い澄ましたかのように、魔王様が登場なされた。
「魔王様!
ようこそいらっしゃいました!」
ブンミーさんとカサンドラさんが、丁重にお迎えする。
「お前は、セイジ!
お前も来てたのか」
魔王がいきなり話しかけてきた。
「カサンドラさんは、俺の知り合いですし。
ブンミーさんとも一緒に戦いましたしね」
「そうか……」
魔王様、なんか話しづらそうにしている……
ここは一つ、俺から話題を提供してやろう。
「ところで魔王様。
この写真を見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく……
繊細で緻密な絵だな」
「まあ、写真ですからね」
「『シャシン』とは、ずいぶんと上手い画家なのだな」
面倒くさいので、説明は止めておこう。
「そうじゃなくて、映っているマントとペンダントに、見覚えはありませんか?」
「そういえば……
このマントは、俺のマントに似ているな。
ペンダントは……
紋章が魔王の紋章ではないか!
誰が勝手にこんな物を!」
あれ?
魔王のもののはずなのに、魔王が知らない?
魔王の言動に、俺が考え込んでいると―
横から誰かが話しかけてきた。
「これは、先代魔王の物じゃな」
武器屋のお爺さんだった。
「これは、刀鍛冶・マサムネ殿」
「おう、坊やも元気にしていたか?」
マサムネ!!?
武器屋のお爺さん、そんな凄い名前だったのか!!?
しかも、魔王の事を、『坊や』とか言ってるし!!
「坊やは止めてくれ、もう俺は魔王なのだぞ」
このお爺さん、相当偉い人だったらしい。
「60歳じゃまだまだ坊やだろ」
へー、魔王は60歳なのか……
あれ? 魔族って寿命が人族の4倍なんだよな?
と言うことは、魔族の60歳は人族で言えば15歳?
15歳!?
「魔王、あんた60歳だったのか!?」
「おいセイジ、俺を呼び捨てにするな」
「何じゃ、お主達、知り合いじゃったのか?
そう言えば、お主は魔王の紹介で来たんじゃったな」
おっと、魔王の年齢のことで脱線するところだった。
「おじいさ…マサムネさん、
このペンダントのことを知っているんですか?」
「ああ、このペンダントは―
ワシが作って、先代魔王に収めたものじゃからな」
「と言うことは、マントも、その先代魔王様の物ってことですよね」
「そうじゃな、確か昔はそんなマントを使っていた」
なるほど、舞衣さんのお爺さんは……
そんな話をしていると―
急に結婚式会場が、ざわつき始めた。
「先代魔王様が、おいでになりました!」
兵士が会場内の人たちにそう告げると―
会場内は、水を打ったように静まり返った。
そして、禍々しい雰囲気の大柄な魔族が、仰々しく登場した。
魔族たちは全員整列し、
魔王も頭を下げて、そいつを迎えている。
「ブンミー、来たぞ」
「これはこれは、先代魔王様!
わざわざお越しいただき…」
ブンミーさんが地べたにひれ伏してる。
「よいよい、堅苦しい挨拶は抜きだ」
魔王の時は、それほどでもなかったのに。
先代魔王だと、こんなに態度が違うのか!
うむ。
先代魔王こそ、本物の魔王なんだろうな……
それに比べて、今の魔王は―
中ボスもいいところ。
「よう、先代魔王。先にやっとるぞ」
「マサムネ、お前も来ていたのか」
やはり、マサムネさんは先代魔王様と仲がいいらしい。
「何じゃこの酒は! 先代魔王、飲んでみろ」
「おお、これは旨い!
おいブンミー、この酒はどこで手に入れたのだ!?」
「はい、セイジという人族が持ってまいりました」
先代魔王とマサムネさんが、獲物を見つけたような目で俺を見ている……
もう帰ろうかな~
「おい、セイジとやら。こっちに来い」
先代魔王様は、禍々しい満面の笑みで俺を手招きしている。
「はい、なんでしょう?」
「お前は何者だ?」
「えーっと……
花嫁のカサンドラさんの知り合いです」
「……」
先代魔王は、何も言わずに、俺を舐め回すように見ている。
俺、ヤられちゃう?
「この酒はどこで手にれたのだ?」
「俺の故郷の酒です」
「そうか!
人族の国に行けば、この酒があるのだな?」
「いいえ、違います。
私の故郷は『日本』です」
「ニホン? 聞かぬ名だな」
「あれ? 先代魔王様は、『日本』にいらしたことが、あるのではないのですか?」
「いや、そんなところに行ったことはないぞ?」
あれ? おかしいな?
「では、この女性に見覚えはありませんか?」
俺が、舞衣さんのお婆さんの若いころの写真を見せると―
「こ、この者は!?
この者は、何処に居るのだ!!?」
先代魔王様は、急に俺に襲いかかって来て―
俺は、先代魔王様によって―
『壁ドン』、されてしまった……
今回は、女性のセリフが一切ありませんでした……




