013.電気ポット
「きゃっ!」
【瞬間移動】に成功し、俺とエレナは自宅の玄関に移動してきたのだが、エレナがお尻を、玄関のドアにぶつけてしまった。
「こ、ここがセイジ様のお住まいですか?」
急な環境変化にやっと慣れてきたエレナは、物珍しそうに玄関を見回している。
「ああ、狭くて恥ずかしいけど」
俺が何気なく、玄関と廊下の電気をつけるとー
「わっ! 光が!!」
「あ、ごめんごめん、今つけた光は、この世界のランプみたいなものだよ」
「凄く眩しいです、すごいんですね。でも、あんなに高い所にあったら、油を継ぎ足す時に大変なのではありませんか?」
「油は継ぎ足さなくても、大丈夫なんだよ」
「では魔道具なのですか?」
「魔法ではないんだけど…… 似たようなものかな?
それより、こんな所で喋ってないで上がってよ」
「あ、はい。お邪魔します」
ベタな話なのだが、エレナは靴のままで上がろうとした。
「ちょっと待って、ここは靴を脱いで上がるんだ」
「靴を脱ぐんですか!?」
俺は先に靴を脱いで、エレナの前にスリッパを置いた。
「靴を脱いだら、このスリッパに履き替えてね」
「なるほど、部屋の中用の靴に替えるんですね」
エレナは靴を脱ごうとして、ハッと俺の方を向いて、何故かモジモジしている。
「どうしたんだい?」
「なんだか人前で靴を脱ぐなんて、は、恥ずかしくて」
「は、はずかしい!?」
「ご、ごめんなさい、変ですよね」
「いやいや、文化の違いに戸惑うのは、当たり前のことだし。エレナが恥ずかしいなら、俺は後ろを向いてるね」
「申し訳ありません」
俺の後ろで、エレナが……
靴を脱いでスリッパを履いてるだけなのに。
何だか変な気分に……
「履き替えられました」
「お、おう」
俺は、変な気分になりつつ、エレナをリビングに案内した。
「ここがリビングだよ。そのソファーに座って待ってて、今紅茶を淹れてくるから」
「ふぁっ、はいっ!」
エレナは部屋中を見渡して、変なテンションになっているようだった。この世界のものが珍しいのだろう。
ティーカップを2個取り出し、紅茶のティーバッグを入れて、電気ポットからお湯を注いで、エレナの前に置いた。
「【砂糖】と【ミルク】は、いる?」
「【ミルク】は今朝いただいたものですよね? 紅茶に入れるんですか?」
「あれ? 紅茶に【ミルク】を入れないの?」
「はい、入れたこと無いです。あと、【さとう】も聞いたことが無いです」
「え!? 【砂糖】を知らないの?」
「は、はい」
まさか【砂糖】が無いとは思わなかった。
「試しに入れてみるかい?」
「はい、是非!」
俺は、エレナの紅茶に【砂糖】と粉の【ミルク】を、スプーン1杯ずつ入れてあげた。
「どうぞ、召し上がれ」
「ありがとうございます」
エレナは恐る恐る、紅茶に口をつけた。
「お、美味しいです! 塩と似ていたので、しょっぱいのかと思ってましたけど。 とっても甘いので、びっくりしちゃいました!」
「ああ、気に入ってくれてよかったよ」
「これも食べてみな、紅茶によくあって美味しいよ」
お茶請けに、クッキーも出してあげた。
「ありがとうございます。っ!! こ、これも美味しいです!!」
しばらく二人でお茶をしていたら、よほど美味しかったのか、エレナはティーカップを空にしてしまっていた。
「紅茶のおかわりは、いかが?」
「ありがとうございます、いただきます」
俺が、エレナのティーカップに新しいティーバッグを入れて、ポットでお湯を注いで戻ってくると、エレナは不思議そうな顔をしていた。
「あの、あそこからお湯が出てきましたけど、あれはどうなっているんですか?」
「ああ、あれは電気ポットと言って、あれに水を入れておくと、自動でお湯を沸かしておいてくれるんだ」
「お湯を沸かしてくれる道具なのですか?」
「じゃあ、ちょっとやってみようか」
俺は、インベントリから【ヤカン】を取り出し、台所でヤカンに水を入れて戻ってきた。
「まずは、ポットのフタを開けます」
パカっとポットのフタを開けると湯気が立ち上った。そして、おもむろにポットに水を足していく。内側の線の所まで水を足して、フタを閉じた。
「これで、しばらく待てばお湯が沸くんだ」
「え!? あれだけですか? 火をつけたりとかはしないんですか?」
「ああ、何もしなくていい。まあ、ちょっと待ってて」
しばらくするとポットの排気口から、湯気が湧き出てきた。
「すごいです、なんにもしてないのに」
さらにしばらく待っていると、オルゴールの様な電子音が鳴り響いた。
「えぇぇー! い、今の音は!?」
「今の音は、お湯が沸いたのを知らせる音だよ」
「これは、すごい道具ですね!」
エレナは色々なものに興味を持ち、質問攻めにされてしまった。
しばらく、質問攻めにされていると、急にエレナが無口になりだした。どうしたんだろう?
「あ、あの~」
「ん? どうした?」
「あのですね、お化粧室をお借りできないでしょうか?」
「えっ、あっ、お、お化粧室ね」
なんかキョドってしまった。
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