147.奇行
翌朝、目が覚めると―
風邪はだいぶ良くなっていた。
「まだ少し熱があります。
今日もおとなしく寝てて下さいね」
「はーい」
エレナに、おでこ同士をくっつけて熱を測られたせいで、一時的に熱が上がっちゃったんじゃないだろうか。
その後、朝ごはんをエレナに『ふーふー』してもらって食べさせてもらい、安静にしておくことにした。
しばらくして、アヤとりんごさんが出かけるというので、アヤが挨拶に来た。
「それじゃあ行ってくるね」
「ああ、相手は危険な奴だから、十分に気をつけるんだぞ」
「分かってるよ」
「近寄られても、戦って倒そうとか考えるんじゃないぞ?」
「えーなんで?」
「分かってないじゃないか!
りんごさんを守るのが一番重要なんだよ」
「そ、そうか」
「あ、そういえば忘れてた」
俺は、アヤに追跡用ビーコンを取り付けた。
もう、8つの追跡用ビーコンを使い果たしてしまっていたので、
追跡の必要がなくなったエイゾスに付けていたビーコンを使った。
「ん? 何かの魔法を掛けたの?」
「ああ、【追跡】の魔法だよ」
「あれ? 【追跡】の魔法って、ずっと私にかかってたんじゃなかったの?」
「最近は掛かってなかったぞ」
「てっきり兄ちゃんは、私をずっと覗き見してるのかと思ってた」
「そんなことするわけ無いだろ」
「お風呂とかも覗いてたんじゃなかったの?」
「妹の入浴シーンなんて覗くわけ無いだろ!」
「じゃあ、エレナちゃんの入浴シーンは覗いてたんだ」
「覗いてないよ」
「え!?」
「そんなに驚くことかよ」
「変態の兄ちゃんがなんで覗いてないの!?」
「変態じゃないし!
それに、プライバシーは覗けないように、魔法のほうでブロックがかかるんだよ」
「へー、そんな仕様になってたんだ~」
「そんな事より、さっさと出かけろよ」
「あ、うん。それじゃ行ってくるね」
不毛な議論を終え、
アヤとりんごさんは出かけていった。
さて、俺はストーカーをストーキングする作業に戻るかな。
しかし、ストーカーの状況を確認してみたが、
やつは、まだ動いていなかった。
奴はまだ寝ていて、布団の周りにビールの空き缶が大量に転がっている。
おそらく、昨日はやけ酒でもしていたのだろう。
エレナが、朝食の後片付けを終え、看病のために俺の所へやって来た。
「セイジ様、りんごさんの様子はどうですか?」
「買い物前に、自分の家に一旦よるみたいだ」
俺は、アヤに取り付けたビーコンの映像を、エレナにも見えるように映しだした。
昨日、ストーカー男が様子をうかがっていた家は、やっぱりりんごさんの家だったみたいだ。
りんごさんの家には、絵を書いたりするための道具などがたくさんあり、
家具などもセンスいい物ばかりだった。
しばらくして、用事が終わったらしく、
アヤとりんごさんは、家を後にした。
それと同時にストーカー男の方にも動きがあった。
なんと、注射器を取り出し、薬を打ち始めたのだ。
「うわ!?」
「セイジ様、どうしました?」
俺は、ストーカー男の映像も、エレナに見せてあげた。
「この人は、何をなさってるんですか?」
「頭がおかしくなる薬を自分に使用しているみたいだ」
「頭がおかしくなる薬? 何故そんなものを?」
「この薬は、一度使うと、何度も使いたくなってしまう恐ろしい薬なんだ」
「そんなものがあるのですか……」
しばらく見ていると、男は裸になって奇声を上げながら踊り始めた。
「わ!?」
俺は、とっさに、その映像をエレナには見えないようにした。
「何が起こったんですか?」
「見るに堪えない、おぞましい光景だから、
エレナは見ないほうがいい」
「は、はい」
しかし、その程度はまだ序の口だった。
男はヘブン顔で粗相をしながら、部屋中を暴れまわっていた。
あまりに見るに堪えない光景で、吐き気がする。
俺は、映像を見るのを止めた。
「セイジ様、顔色が悪いですよ」
「いや、まさか、あんなおぞましい物を見せられるとは思ってなかったから……」
SAN値が著しく下がってしまった。
あんな状況で、近所の人は通報とかしないんだろうか?
しばらくして、アヤとりんごさんが、手作りアクセサリのお店に到着した。
その店は、ビルの1階から五階まで手作りアクセサリ関連の物ばかり置いてある、凄いお店だった。
アヤは、品物のあまりの数の多さに驚き、
りんごさんと二人で仲良く買い物を楽しんでいた。
しばらくすると、今度はストーカー男の方に動きがあった。
地図を見ると、どうやら出かけて移動しているみたいだ。
恐る恐る映像を確認してみると―
ヤバそうな目をしたストーカー男が、電車に乗って移動している。
おそらく方向から見て、りんごさんの家だろう。
「エレナ、奴が動き出したみたいだ」
「セイジ様、戦うおつもりですか?」
「ああ、おそらくそうなるだろう」
「で、でも、ご病気が」
「それでも、アヤを戦わせるわけには、いかない」
「……」
「なあに、単なる風邪だ、死にはしないよ」
「ま、待ってください。
私が病気を治してみます」
「治すって、そんな事出来るのか?」
確か、エレナの覚えている魔法には
【病気軽減】は、あっても【病気治療】は無かったはず。
「やってみます!」
エレナは、俺をベッドに寝かせ、
俺のお腹の辺りに、自分のおでこを付けて、何やら魔力をコントロールし始めた。
しばらくすると、エレナは俺のお腹の上で息をハアハアと乱し始めた。
「エレナ、大丈夫か?」
「すいません、セイジ様、
病気を見つけることが出来たのですが、小さくて数が多くて、退治しきれなくって」
「エレナ、俺の体の中に、病気と戦っている物は無いか?」
「セイジ様の体の中に?
探してみます」
エレナは、更に魔力をコントロールしている。
「あ! ありました!!
何かが、病気と戦っています」
「そうだ、そいつらだ。 それが、抗体だ」
「抗体!?」
「いいか、エレナ、
病気を直接退治するのではなく、そいつらに力を分けてあげて、一緒に病気と戦うんだ」
「分かりました。やってみます!」
エレナは、更に魔力を高めていく。
すると、俺の体がだんだん熱を持ち始めた。
俺は、その熱さに抗わず、身を委ねた。
その熱は、俺の体全体に広がっていき……
そして、
光となって弾けた。
魔力を相当使ってしまったらしく、
エレナは「はぁはぁ」と息を乱している。
「セ、セイジ様、どうですか?」
自分自身を鑑定してみると、病気は完全に治っていた。
「完全に治ったみたいだ。ありがとうエレナ」
「よ、よかった……」
「エレナ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、です。
でも、ちょっと、疲れてしまって」
「ごめんな、エレナ、ムリをさせてしまって」
「い、いえ」
俺は、疲れ果てたエレナをお姫様抱っこして、
アヤの部屋のエレナのベッドに運んで寝かせた。
「後は、俺に任せてゆっくり休め」
「はい、セイジ様、頑張って下さい」
「おう、任せろ」
エレナは、スースーと寝息を立て始めた。
薬使用時の様子は、よく知らないので適当です。
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