146.リンゴのマーク
なんとか、りんごさんを引き止めることに成功し―
俺は、警察に電話してみた。
しかし、家の前を怪しい男がウロウロしているだけでは動きようが無いという様なことを、やんわり言われてしまった。
やはり、俺達だけで何とかするしか無いか……
ストーカー男の様子を見てみると、
少し離れた位置で、物陰からこちらを監視しながら、アンパンを食べ、牛乳を飲んでいた。
張り込み気分かよ!
俺が奴の所へ行ってくるか?
いや、エレナが絶対安静って言ってて、トイレにいくのにも許可が必要なくらいだから、
外に行ったら怒られるどころの騒ぎじゃない。
アヤに行かせるか?
確かに、アヤなら余裕で勝てるだろうけど、それもなんだか心配だな。
勢い余って、アヤがストーカー男を……。
いや、考えるのはよそう。
舞衣さんだったら安心して任せられるけど、
傍から見ると、危険人物に幼女を向かわせる30歳DT…… なんでや! DT関係ないだろ!!
まあ、何より、無関係な舞衣さんを巻き込む訳にはいかないよね。
コスプレ大会の時は、巻き込んじゃったけど。
そんなことを考えながら、ストーカーの監視を続けていると……
「セイジ様、夕飯をお持ちしました」
エレナが、夕飯を持ってきてくれた。
ああ、なんという幸せ、
こんな風にエレナにお世話してもらえるなら、ずっと病気でもいいかも。
は!?
いかんいかん、重大なことを忘れるところだった。
「エレナ、この料理は誰が作ったんだ?」
「3人で一緒に作ったんです。
いけなかったですか?」
「イケますイケます、
エレナ、ありがとう」
俺は、ストーカーの事をすっかり忘れて、
愛情のこもった美味しい夕飯を、
「あーん」をして、エレナに食べさせてもらっていた。
しかし、気が付くと何故かアヤが、部屋のドアの隙間から恨めしそうに覗いている。
そんなにエレナに「あーん」してもらいたかったのか?
どうだ羨ましかろう。
俺が、ドヤ顔でアヤをちら見しながら、エレナに食べさせてもらっていると、
アヤはへそを曲げて、行ってしまった。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
「あ、エレナ、ちょっとまって」
「はい、なんですか?」
「これを持って行ってくれ」
俺は、この前10ゴールド銀貨から作ったアクセサリをとりだして、エレナに持たせた。
「りんごさんに、お見せするんですね」
「ああ、感想とかを聞いてきてくれ」
「はい、わかりました」
エレナが部屋を後にし、
俺はさっきまでの幸せを噛み締めていたが、
気持ちを切り替えて、ストーカーの監視を再開した。
しかし、ストーカー男は電車に乗っていた。
あれ? もう諦めちゃったのかな?
まあ、なんにせよ、よかったよかった。
しばらくすると、リビングから楽しそうな声が聞こえてきたので、エレナのビーコンを覗いてみた。
「ほんとこれ、凄くいい出来ですね」
「そうでしょう!」
なぜアヤがドヤ顔なんだ?
「特に色がキレイ、これは何の金属なんでしょう?」
「これは、銀だそうですよ」
「銀!? 銀なのにこの色だと……
もしかして純銀だったりしませんか?」
「どうだろう、兄ちゃんに聞いてみないと」
「そ、そうですよね。
純銀は、とっても加工が難しいらしいですから、
純銀なんてことは無いですよね」
まあ、純銀なんですけどね。
「あ、でも、金具部分は、まだなんですね」
「セイジ様の話では、良くわからないから、りんごさんに聞きたいって、おっしゃってました」
「そうか~、金具部分は作りが複雑で難しいですもんね」
りんごさんは、少し考えていたが、
「明日、私が、金具専門店に行って金具だけ買ってくるから、それを取り付けてもらいましょう」
「明日!?」
ストーカーの事情を知っているエレナとアヤは、顔をこわばらせた。
「あれ? 二人ともどうして変な顔をしてるの?」
「あ、えーと、ちょっと兄ちゃんに聞いてみる」
「う、うん」
アヤが、俺に電話を掛けてきた。
『兄ちゃん、あのね……』
『いや、話は聞かせてもらってた』
『やっぱりか。
それで、どうしたら良いと思う?』
『うーむ、危険だけど……
アヤ、お前が、りんごさんの護衛に付いて行ってくれ』
『うん、分かった。私もそうしようと思ってたんだ』
「ということで、私もりんごちゃんと一緒に行く」
「どういうわけ?
でも、金具買うだけだから、つまらないよ?」
「えーっと……
そう! 私、金具大好きなの!!
あー金具が好きすぎて、金具のお風呂に浸かりたいくらい!」
「そ、そう。分かったわ」
「エレナちゃんは、兄ちゃんの看病をよろしくね」
「はい、お任せ下さい」
異常に鼻息の荒い二人の様子に、りんごさんは少し引いていた。
しばらくして、もう一度ストーカー男の様子を確認してみると―
また、ドアにへばり付いて、中の様子をうかがっている。
キモい!!!
あれ? でも……
このドアは、俺の家のドアじゃないぞ!?
ドアには、可愛らしい手作りのリンゴのマークの表札に部屋番号が描かれていた。
表札に名前が書かれていないので、誰の家か分からないけど……
リンゴのマークの表札……
おそらく、りんごさんの家なのだろう。
ストーカー男は、しばらくドアの周りで様子をうかがっていたが、誰も居ないと分かって諦めたらしく、
すごすごと自分の家に帰っていった。
リビングからは、何も知らないりんごさんの楽しそうな声が聞こえてくる。
ここは、なんとしても、りんごさんを助けてあげなければ!
決意を胸に、
俺も、もしもの時のために、早く風邪を治しておかないといけないので、
自分自身に【睡眠】の魔法を掛けて、そうそうに眠りについた。
実際のストーカーでお困りの方は、ちゃんと警察に相談しましょう。
ご感想お待ちしております。




