137.時差
「金貸して!」
ナンシーは、抜け抜けと言いやがった。
まあ、これくらいじゃないと、世界一周旅行なんてやってられないのかな。
「まずは、事情を聞かせてくれ」
「そうよね、分かった話すわ」
ナンシーの話によると―
ケチャップ強盗に上着と荷物を盗まれ、犯人を何時間も追い掛け回していたが、結局逃げられ、体力を使い果たし、脱水症状を引き起こして倒れていたと言うことらしい。
ナンシーがケチャップ強盗にあった時、【警戒】魔法が知らせたはずなのだが、
その時間、俺はぐっすり寝ていた時間なので、気が付かなかったみたいだ。
「事情は分かった、しかし、俺達も今は手持ちが無いんだ、直ぐにはムリだ」
「そうよね、もう21時を過ぎてるし、銀行も開いてないものね」
21時? ああ、そうか、日本は朝だったけど、時差があるから、こっちは夜なのか。
「ナンシー、今日泊まる所はあるのか?」
「無い、今日だけ、あなたの泊まってるホテルに泊めてくれない?」
どうしよう、ナンシーを助けるために何も準備せずに来ちゃったからな~
現地通貨も無いし、ホテルもとって無いし……
ピコン!
俺の頭の上に、電球が点灯した。
「実は俺達、今日はテントで寝る予定だったんだ」
俺は、ナンシーからは見えない位置でインベントリからテントを取り出した。
このテントは、ゴールデンウィーク中の活動に備えて買っておいたものの、結局使っていなかったやつだ。(※86話参照)
本当は異世界で使うはずだったのに、こっちの世界で使うことになるとは……
「oh! テント! 素晴らしい!」
驚き方が、アメリカンだな。
「ナンシー、ここら辺で、テントを張れるところはない?」
「確か、あっちに空き地があったはず」
案内されて行ってみた空き地には―
10人ほどの子供たちが路上生活をしていた。
「ここ? なんか子供たちがいっぱい居るけど?」
「昼間見た時は、空き地だったんだけど……」
テントを担いだ外国人がやって来たことで、子供たちは警戒していた。
そして、子供たちのリーダーっぽい奴が現れ、話しかけてきた。
「お前たち何しに来た?
ここは俺達のねぐらだ、勝手に入ってくるな」
ナンシーは言葉が分からず、肩をすくめていた。
「今日、泊まる場所が無くて困っているんだ。
今日だけ、この場所を使わせてもらえないか?」
『oh! セイジ、アラビア語も分かるのか!?
あなた、すごいのね』
まあ、人族と魔族の通訳をやるくらいだしね!
子供たちは、何やら話し合っていたが―
「使わせてやってもいいが、何か食べ物をくれ」
と、言ってきた。
食べ物か~
オークの肉ならたくさんあるけど……
あれって、豚肉に近いよね。
エジプトってイスラム教じゃなかったっけ?
じゃあ、オークの肉はダメか。
お米ならあるけど、食べるかな?
「米ならあるけど、米、知ってる?」
「ああ、米な、
米くらいなら食べたことあるぞ」
どうやら、エジプトにも米があるらしい。
「じゃあ、俺が料理するから、それでいいか?」
「分かった、今日一日だけこの場所を使わせてやる、米は多めに頼むぞ」
交渉が成立し、
俺は、ご飯を炊く係、
アヤとエレナとナンシーは、テントを張ってもらった。
レジャーシートをひいて、その上にちゃぶ台を出し、
五合炊きの炊飯ジャーの釜に米を入れて、
ペットボトルの水で米を研いでいると―
子供たちが、見学しに集まってきてしまった。
俺が米を研いで、研ぎ汁を捨てると―
「あ!?」
子供たちが一斉に驚く。
「どうした?」
「あんなに沢山、水を捨てるのか?」
そうか、ココらへんは水が貴重なのか。
しかし、ここで困ったことが発生した。
お米に水を吸わせるために、一旦インベントリに仕舞いたいのだが、
子供たちが、じっと見ているせいでインベントリが使えないのだ。
しかたない、外国だし、子供たちだし、
少しくらい見せちゃってもいいか。
「これから、手品をやってみせるから、よーく見ておけよ~」
「おじさん、手品できるの?」
「お兄さんな」
俺は、手品っぽい手つきをして、研いだ米をインベントリにしまった。
「「おー! 消えた!!」」
パチパチパチ
夜中に外国の子供たちから拍手を受けているこの状況、なんか変な感じ。
俺は、インベントリ内の研いだ米を30分程時間を進めて、水を吸わせ。
また、手品っぽい手つきで、インベントリから取り出す。
「「おー!! 出てきた!!!」」
パチパチパチパチ
なんとかごまかせた。
そして、前にビリビリ魔石で作った【魔石コンセント】で、炊飯ジャーのスイッチをON!
「「おー!! 電気が点いた!!!」」
パチパチパチパチ
どうやら、これも手品だと思われたらしい。
調子に乗った俺は、
インベントリから紙コップを取り出して、子供たちに配り、
【水の魔法】を使って、水芸のように水を注いであげた。
子供たちは大喜びして騒いでいると、アヤとエレナがやって来た。
「兄ちゃん、何やってるの」
「手品」
「手品ね~」
「それより、ナンシーさんは?」
「もう寝ちゃった」
どうやら、けっこう疲れてたみたいだ。
しばらくしてご飯が炊きあがり、俺とエレナで手分けしておにぎりを作った。
具はシーチキンマヨネーズだ。
アヤは、子供たちと遊んでいた。
おにぎりはクッキングシートに乗せて、子供たちに配った。
「なんだこれ!?」
「米なのに甘い!」
「中になにか入ってる!」
みんな美味しそうに食べていたが、5合を10人で分けたので、茶碗一杯くらいしか無くて、もっと食べたがっていた。
うーむ、もっと大きな炊飯ジャーがほしいな。
おにぎりパーティーが終了し、夜も更けて、子供たちも寝てしまった。
俺は、ナンシーが寝ているテントにバリアを張って、
アヤとエレナを連れて、日本に帰ってきた。
「兄ちゃん、なんでナンシーさんを置いて、日本に帰ってきたの?」
「なんでって、アヤ、
今日は平日なんだから、短大に行く日だろ」
「え!?」
エジプト時間で夜の0時、日本時間で朝の7時だ。
「こ、これが時差ボケというものか……」
アヤは、混乱していた。
なるべく現実に即した話にしているつもりだけど、
微妙に合ってないこととかもありそう。
ご感想お待ちしております。




