103.鉄壁のリルラ
リルラに用意してもらった寝室で、寝ようとしていた。
ところが、部屋の外で物音が聞こえる。
一体なんだろう?
「エ、エレナ様」
「リルラさん、どうしたのですか?」
どうやらエレナとリルラみたいだ。こんな時間に二人共なにしてるんだろう?
トントン
「はい、どうぞ」
「お邪魔します」「邪魔するぞ」
二人共、俺に用事があったのか。
「二人揃ってどうしたんだ?」
「ここしばらく、一人で寝ることがなかったので、寝付けなくって」
エレナは俺に拐われて以降、ずっとそうだったかも。
「で、リルラは?」
「あ、あの…… ゴ、ゴブリンが、急に攻めてきたりしたら…… あぶ、危ないから、まとまっていた方が、いいかと…… おもって……」
リルラはデレてるというより、怯えているという感じだな。まあ仕方ないか。
「別にいけど、ベッドはどうするんだ?」
「私はセイジ様と一緒でもいいですよ」
「え!? じゃ、じゃあ私も……」
なんだかな~
エレナが慕ってくれるのは嬉しいけど。
リルラは多分、吊り橋効果とかそんな感じなんだろう。
そんなこんなで俺は、金髪美女サンドイッチの具にされていた。
リルラは、やっと安心できたのか、すぐに眠ってしまった。
エレナも、いつも通り寝付きが良かった。
しかし、この状況をアヤが見たら、何を言われるか。
きっと、フライングボディプレスをしてくるに違いない。
俺もそろそろ寝るか。そう思った矢先―
左手にリルラが抱きついてきやがった。
怖い夢を見ているらしく、顔を強張らせて、小刻みに震えている。
右手でリルラの頭を撫でてやると、やっと落ち着いたのか、幸せそうな顔をして大人しくなった。
やっと眠れる。そう思って右手を戻すと―
こんどはエレナが右手に抱きついてきた。
また、身動きが取れなくなってしまった。
まあ、エレナだから許すけど。
身動きは取れないけど、今度こそ、もう寝るぞ。
こんどはリルラがまた、ブルブルっと震えた。
もう、いい加減にしてくれよ。
リルラの方を見ると―
リルラと目があった。
「どうした、寝てたんじゃなかったのか?」
「あの‥‥ あのだな。」
「なんだ?」
「お手洗いに、行きたくてだな……」
「ん? 俺に断る必要は無いだろ?」
「あの、あの…… もし、お前もお手洗いに行きたいのなら、一緒に、付き合って、やっても、いいのだぞ」
「俺は別に大丈夫だ」
「いや、だからな、ゴブリンはトイレの穴から襲ってくるという話があってだな……」
「近くにゴブリンは居ないから、大丈夫だ」
「もしかして、万が一、ということも、あるかもしれんではないか」
「勘弁してくれよ、俺はもう眠いんだ」
「お、お願いだ。な、何でも、言うことを聞くから…… も、漏れてしまう……」
しかたないな~
俺はエレナの抱きついている右手を、何とか外して。寝ているエレナの頭をナデナデしてから、リルラと共にベッドから這い出た。
「光よ!」
リルラは【光の魔法】を使って、真っ暗な廊下を明るくした。
そういえば、リルラは【光の魔法】を使えるんだったな。
リルラは、もじもじしながら廊下を進む。トイレは遠いのかな?
リルラの【光の魔法】は、集中力が足りないらしく、ゆらゆらと揺れてしまって、映しだされた廊下を変な雰囲気にしてしまっている。
リルラの足取りは更に、もじもじとするようになり、集中力を維持できなくなったらしく、ついに【光の魔法】が消えてしまった。
「きゃぁ!」
自分の【光の魔法】が消えてしまったことに驚き、リルラは、俺の腕を力いっぱい掴みながら、その場に座り込んでしまった。痛い痛い!
しかたがないので、俺が【白熱電球】魔法で、廊下を照らしだした。
「す、すまない……」
リルラの【光の魔法】と違って、昼間のように明るくなった事で、リルラも冷静さを取り戻し。
もじもじした足取りで、やっとトイレの前にまでたどり着いた。
しかし、リルラは、俺を女子トイレの中に引きずりこもうとする。
「ちょ、待て、俺はここで待ってるから」
「こ、個室の、ドアの前。ドアの前でいいから、そこで待っててくれ。お願いだ」
お前は『妖怪・女子トイレ引きずり込み女』かよ! そんな妖怪居ないけど!
「お願いだ、もう、も、漏れてしまう……」
リルラは涙目になりながら、俺を引きずり込もうとしてくる。
そんな所を、誰かに見られたらどうするんだ。
しかし、俺は妖怪に引きずり込まれてしまった。
「そこに居てくれ、おねがいだ」
仕方がなく、俺がそこで立っていると。
中から音が聞こえてきた。
「き、聞くな! 耳を塞いでくれ!」
おれは無視して、呆れ顔で待つことにした。
「セ、セイジ様! こんな所で、何をなさっているんですか!?」
あちゃー、エレナに見つかってしまった。ど、どうしよう。
「あー、あれだ、リルラが、トイレからゴブリンが、襲ってくるかもしれないっていうから、見張っているんだ」
「エレナ様、申し訳ありません。私がお願いして……」
リルラ、ナイスフォロー。
「そ、そうですか、私はてっきり……」
『てっきり』なんだよ!
「セイジ様、私も使いたいのですが、よろしいですか?」
「じゃあ、俺は外に出てるよ」
俺は、女子トイレの前で、二人の用が済むのを待つ羽目になった。
~~~~~~~~~~
翌朝、リルラの部屋で朝食を食べていると―
兵士が一人、慌てた様子で入ってきた。
「報告いたします、偵察部隊が、ゴブリンの集団を発見しました! 現在の進行速度から推測しますと、昼ごろには、この街に到達する見込みです」
「わ、分かった。兵士と冒険者達に状況を知らせて、防衛の準備を始めなさい」
「はい、了解しました」
兵士が慌ただしく出ていき、リルラは、途中だった朝食を食べようとしたのだが。手が震えて、ナイフを落としてしまった。
リルラは落としたナイフを拾おうとして、また落としてしまっている。
そんなに怖いのか。
そんな様子を見かねたエレナが、リルラに近づき、怯えるリルラの顔を、自分の胸のあたりでぎゅっと抱きしめて。
「大丈夫ですよ、私とセイジ様がついてますから」
そういって、リルラを抱きしめながら、頭をナデナデしてあげている。
ずるいぞリルラ、許すまじ!
やっと落ち着きを取り戻したリルラと共に、戦いの準備を終えて、宿屋を後にした。
宿屋から出ると、そこには、街の人々が心配そうに宿屋を取り囲んでいた。
「ほら、リルラ、街の人を安心させるために、何か一言、言ってやれ」
俺が、小声で耳打ちすると。
リルラは覚悟を決めて、みんなの前に立って、高らかに宣言した。
「私の名前は『鉄壁のリルラ』、ライルゲバルト貴族連合騎士団長の娘だ! この街は、私の『鉄壁』の名に掛けて守ってみせる! 街の者達は、安心して避難所で待っておれ!!」
「「おー!!」」
「鉄壁のリルラ様が、俺達の街を守ってくださるぞ!」
「オークも全滅させたリルラ様なら、ゴブリンごとき楽勝だ!」
町の人々は、口々にリルラを褒め称え、声援を送っていた。
きょとんとするリルラと共に、俺達は、声援の中を堂々と進んでいった。
なんかリルラが変な方向に……
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