099.リルラの覚悟
貴族連合会議が終了し、各人ぞろぞろと退出する中、俺とエレナは、コソコソと話をしていた。
「セイジ様、これからどうするおつもりですか?」
「しばらくは、スガとイケブの街の警戒をする必要があるから、今日はスガの街に泊まっておこう」
「そうですね、そうしたほうがいいですね」
そんなことを話していると、ロンドが近寄ってきた。
「エレナ様、あとセイジも、ちょっとした食事会をするので、よろしければいかがですか?」
「俺は、おまけかよ」
「申し訳ありません。私は、行かなければならない所がありますので、参加できません」
呆気にとられるロンドを尻目に、エレナは俺の手を取って、スタスタと会議場を後にした。
「エレナ、食事会に出なくても良かったのか?」
「セイジ様、これからスガに行かれるんですよね」
「ああ」
エレナは、心配そうな顔で俺を見上げてくる。
「エレナ、そんなにスガとイケブの街が心配なのか?」
「はい……」
「分かった、じゃあ、今直ぐに行こう」
「はい!」
エレナは、嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「エ、エレナ様! 何をなさっているのですか!?」
やべえ、ロンドに見られた。
でも、まあいいか。
「悪いな、ロンド」
俺はそう言い残して、【瞬間移動】した。
「エ、エレナ様! セイジ! ……き、消えた!?」
ロンドはしばらく、その場に立ち尽くしていた。
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「あれ? セイジ様、ここはイケブの街では?」
「ああ。まずは、リルラに狙われてる事を、忠告しておこうと思ってな」
「そうでした。そのほうがいいですね」
取り敢えず、地図上の魔物の数は、それほど増えていない。しばらくは大丈夫そうだ。
リルラの場所をビーコンで確認して。
泊まっていると思われる、高級宿屋にやって来た。
「あいつ、こんな所に泊まってるのか」
「この宿屋は、貸し切りだ。別を当たれ」
宿屋に入ろうとしたら、入り口を守っていた兵士に、止められてしまった。
「リルラに取次ぎを頼む、エレナとセイジが来たと伝えてくれ」
「あ、あなたは!」
どうやら気づいてくれたみたいだ。
「エレナ様ではありませんか!」
気づいたのはエレナの方かよ!
「今直ぐ、お取次ぎいたします!」
兵士は急いで取次ぎをしてくれて、リルラに会うことが出来た。
「エレナ様、セイジ。昨日は戦勝会の途中で居なくなってしまったが、どこに行っていたのだ?」
リルラはスイートルーム的な部屋で、優雅にお茶をしていた。のんきなもんだ。
しかも、珍しい事に、リルラが鎧を着ていない。鎧を着ていない姿を見たのは、アヤが鎧を破壊して、素っ裸にしてしまった時以来だ。
「ずいぶん、のんきなものだな」
「なんだと!」
「新たに入手した情報によると、ゴブリンプリンス率いる部隊が、ここを狙っているらしい。せいぜい気を付けておけ」
「ゴ、ゴブリンプリンスだと!?」
リルラは、その名前を聞いて、急に顔が青ざめていった。
「ど、どうするのだ。は、早く逃げなければ」
「逃げる? 街の人達はどうするつもりだ?」
「街の者などどうでもいい、私は高貴な家の出なのだぞ!」
「お前な~、昨日は勝利を一緒に祝った奴等なのに、そんなに簡単に見捨てるのか?」
「だ、だが、しかし…… 相手は、ゴブリンプリンスなのだぞ!」
「危ない時は、助けに来てやるから。それまで持ちこたえるだけでいい」
「助けに来る? お前は私をずっと護衛する為に来たのではないのか?」
「俺はエレナの護衛だ。俺とエレナはスガの街の防衛に当たる。お前はその間、このイケブを守れ」
「スガだと!? お前は、私とスガの街と、どっちが大事なんだ!?」
「スガの街だ!」
「そ、そんな……」
リルラは、ブルブル震えだしてしまった。
「直ぐに助けに来るから、そんなに心配しなくても大丈夫だ」
「だが、しかし、スガからここまで、急いでも2日はかかるのだぞ!」
「大丈夫。俺には直ぐに来れる魔法があるから」
「魔法だと! そんなのがあるのか? ほんとなのだな?」
なんかリルラが、すっかり怯えてしまっている。どうしたものかな。
「リルラ、よく聞け。この難局で、お前がこのイケブの街を守りきれば、お前は英雄だ」
「英雄!?」
「しかし、逃げ出せば…… お前は、臆病者、卑怯者と罵られ。お前の家も、お前と同じように蔑まれてしまう事になる」
「わ、分かった……」
リルラは急にキリッとした顔つきになり、しっかりと頷いた。
「もし、何かあったら、これで俺に知らせろ」
俺は、前に作った双子魔石式糸電話を、片方だけリルラに渡した。
「これは何だ?」
「離れていても話が出来る、俺の作った魔道具だ」
「それは凄いな!」
もう片方をエレナに渡し、使い方を教えたら。
二人して楽しそうに遊んでいやがる。
ついさっきまで、泣きそうになったりしていたのに……
「リルラ、それでは後は頼んだ」
「ああ、分かった」
「そうそう、索敵を優先して行うようにしておいてくれ」
「そうか、そうだな」
俺達は別れを告げ、わざとリルラの目の前から【瞬間移動】を使って、スガの街に飛んだ。
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スガの街に移動すると―
遠くの森に、多くの魔物が居ることをマップで確認できた。
けっこう数が多い。
しかも、ゴブリンや、オークだけではなく、ホブゴブリンやハイオークなども、何匹か混じっている。
少し距離が有るので、スガの街を襲うとしたら、明日になるのだろう。
俺が、そんな心配をしていると―
『リルラさん、聞こえますか?』
『エレナ様。はい、聞こえます』
エレナとリルラは、まだ糸電話で遊んでいる。
距離が離れても使えるかを、きちんとチェックしてなかったが、取り敢えず問題無さそうだ。
俺達は、ゴブリン達が襲ってきそうな、街の北側に近い宿屋を探した。
別に、わざとその宿を選んだわけじゃない。
街の北側の宿を探したら、そこしかなかっただけだからな!
俺達の見つけた宿は、建物全体が、何故かピンク色だった……
「セ、セイジ様、ここに泊まるのですか?」
「魔物が攻めてきた時、ここなら真っ先に気がつく事ができるからな」
「そ、そうですよね。街の為ですものね」
俺とエレナは緊張しながら、宿屋に入った。
「いらっしゃい」
受付は、客の顔が見えないように、変な位置に小窓があり。そこからお金や鍵の遣り取りをする形になっていた。
「いっぱt……いっぱく頼む」
「一番いい部屋しか開いてないが、いいかい?」
「ああ、それで頼む」
「それじゃあ、一泊300ゴールドだ」
た、高いな。
しぶしぶ300ゴールドを支払い、鍵を受け取って部屋に向かった。
部屋に着くと、部屋中ピンク色だった。目がチカチカする。
こんな所でエレナといっぱt、一泊するのか!?
「セイジ様、バスルームがあります」
エレナが指差す方を見ると、バスルームがあった。
あれ? 何かおかしい。
そう、部屋の中からなのに、そこがバスルームだと直ぐに分かった。
バスタブが部屋の中から見えているからだ。
なぜ見えているかって? 部屋とバスルームの間が、ガラス張りだからだ。
こっちでガラスは、高級品なんだろうに。こんな無駄遣いをしているとは……
「セ、セイジ様、このバスルーム。みえて……」
「エレナ先に入っていいぞ」
「で、でも……」
「ほら、カーテンがあるだろ。これを閉めれば」
「あ、そんなふうになっていたんですね」
エレナは、いそいそとバスルームに入っていった。
しかし、どうしたことか。
このカーテン、薄くて…… 薄っすら見え……
いやなんでもないです。
俺が一生懸命にカーテンの鑑賞をしていると、エレナが石鹸の匂いをさせながら、バスローブ姿で出てきた。
俺は、とっさに目をそらしてしまった。
「セイジ様も、どうぞ」
「あ、ああ」
バスルームに入ると、光の関係なのか、中から外は見えない事に気がついた。なるほど、こうなっているのか……
俺は、もしものときのために、全身を綺麗に洗った。
バスルームから出ると、エレナは顔を真っ赤にしていた。
「セイジ様、このカーテン、薄いんですね……」
どうやら、エレナもカーテンを鑑賞していたらしい。
そして、エレナはモジモジしている。
ん? エレナはモジモジしながら、手に何かを持っている。
「エレナ、その手に持っているものは何だ?」
「あ、これですか。部屋の中に置いてあったのですが、何かの魔道具のようです。なんの魔道具なのでしょう?」
「ナンダロウナー、肩こりをほぐすための物かな?」
「肩こりをほぐす魔道具だったのですね」
エレナが、魔道具を肩に持って行き、魔力を送ると。魔道具は振動を始めた。
「セイジ様、気持ちいいです」
「き、気持ちいいのか」
「はい、気持ちいいです」
俺は、エレナの言葉を、深く心に刻みつけた。
プロローグと閑話を入れると、前回で100話でした。
そんなおめでたい時に、こんな話で申し訳ないm(__)m
ご感想お待ちしております。




