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幾多の助けを求める人の手を払い除けて走り去り時にタンスの中、収納箱の中へ身を隠して前へと進む。
ようやくと言ったところだろうか下からは粗雑な叫びを上げる冒険者達の声が響く。
コレからは私一人で相手していた騎士達も分断されて進みやすくなる事だろう。
「あんの餓鬼ッ…休憩中に現れやがって…どこへ行きやがった!」
「部隊長そろそろ我々も冒険者の相手に準備しなければ示しが付きません」
「ちッ…此処が最後の砦だと言うのに鼠一つ通さぬと決めておったのに…しゃあない皆準備を開始するぞッ!通路を壊すよう伝令しろッ」
その声が通路や今いる部屋に届くとあちらこちらで何かが崩れる音がした。
金属が擦れ威勢の良い声が部屋の横を通り過ぎていき今まであったすぐ近くの周りから音が消えた。
「最後の最後で…いい事を聞いた」
少し時間はかかったが漸くアルキアンのところへ行けそうと思い口の端を上へと上げた。
最後に隠れたのはベッドの下…部屋を開けられたら最悪見つけられる位置なのでドキドキしてたがその心配も無用だったようだ。
位置を変えようにしても部屋の横に獣人族の騎士がいたんじゃ迂闊に動くこともできない。
彼等の嗅覚や聴覚は人族より高い…だからこそ動くことが難しかったのだ。
此処に隠れた時終わったかなとかいっその事正面突破しようかなとすら思ったぐらいだ。
「さて…再びここの警備が厚くなる前に行こうかな」
そしてそろそろと扉を開いて廊下へと出た…右左と首を振って進行方向に誰もいない事を確認してそそくさと移動する。
背を向けた先にはまだ騎士の後ろ姿が遠くに見えるけどここさえ抜ければそんなの関係ない。
騎士がさっきまで屯していた先程の隊長格が言っていた最後の砦である階段を上がりそして屋上へと駆け上がった。
上へと階段には赤い血がこびりついておりここへ逃げようとしていた無辜の民が涙を流しながら地に伏している。
上がった先に無理矢理嵌め込んだような重厚な鉄の盾…扉を外して外へと出た。
開けた瞬間に黒い火花が飛び出て熱風が頬を撫でる…その先、そこは正に異常という名前が似合う狂乱の戦場だった。
「衛生兵ッ!神官は何をしてやがるッ」
「魔法使いを守れーッ!…ま、待てッ!俺は餌じゃあ、ああぁァァァァ」
宇宙から降りてくる獣は無差別に兵や鉄の鎧を纏う騎士を自らの欲を満たすため喰らう。
その奥では黒い獣が光の鎖に縛られながらも身体を大きく震わせ抵抗している。
地は正に焼け野原と言った具合で怨念のような唸り声と共に黒い炎が走り神官を呑み込んでいく。
だが何処からともなく宇宙から騎士と神官が聖獣に乗って飛び降りてその戦場で暴れる三人の退路と進行方向を塞ぐ。
今のままだと増援と排除が追いついておらず拮抗している…それだけ相手の長の戦略が優れているのだろう。
前線の兵には大きな盾持ちがおりその後ろ側には小さい体躯の獣人族の騎士が槍を待ち構えると言った何処かで聞いたローマ軍のやり方に似ている。
それが幾つもの集団となって虫のように少しずつ動きながら近づいている。
それにアルキアンも苦戦を強いられているようだ。
「そんな完璧な布陣に一石投じるとでもしようかな?」
幸い私がこうやって鉄の扉を剥がしてここにきたことはバレていないようなので誰も彼も私に気づいていない。
ならばその布陣を一気に崩すような悪戯を一つ行うとしよう。
腰から琥珀色のナイフを取り出して前へと掲げる。
「魔法陣展開…悲惨な惨状にはそれ相応の覚悟を持ちな『悲惨な苦痛』」
一番後ろで仲間を回復させて前線から運び込まれていた集団に魔術をかける。
範囲は広く効果はそのままにし自殺の暗示をかけていく。
そして敵にとっての悲劇が起こる。
「おい!どうした衛生兵ッ!早く…早く回復魔法をッ!」
「…ァァァァッ」
血を吹き出し地に伏せ今まで私が通った道で出会った被害者と同じ末路を辿る。
この混乱を更に混沌に染め上げるために魔術を練り上げる。
身体に魔力を回し指揮棒のようにナイフを振るう…次なる標的は後ろで騒ぐ弓兵と魔法使い共へ。
「魔法陣展開…『底無し沼』ッ!」
狙いを定めていた弓兵は体勢を崩し仲間を射抜き魔法使いは練り上げた魔力を霧散させて対応するが中には魔法をあらぬ方向に飛ばして仲間にぶち当ててる。
傾いた頭へと私は身体強化を施した脚が突き刺さり私の足場と化する。
その足場が持つ弓矢の筒を奪いローブを着込み頭に防具すらつけていない魔法使いと神官の頭に向かって筒から取った数十本の矢を投げた。
流石に身体強化を施した私の腕力ではそこまで飛ばせないがそれでも矢は上から降ってくる雹の如く一瞬視界を塞ぐ。
「ここには炎があるんだし折角なら廃棄処理でもしとくかッ!」
そう言い放ち今も底無し沼に足をとられる頭を踏み台にし宙へ浮くと虚空庫から小振りの錆びれた鉄の廃材やいい感じの石を落とした。
こうやって高所にいるから被害を起こしたところは見れないが魔法使いの悲鳴が戦場に巡る。
死んでこそいないがまぁ詠唱を止めただけでも花丸といった感じなのだろう。




