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観察を続けて異種族集団の戦士は地を駆ける。
手には獣は手に鉄爪と重厚な鎧を纏い人は剣と盾を持ちただ前にと走り行く。
それを妨げるのはここからでも見える白の獣…宇宙に大群で待ち構えては急降下してその集団を穿つ。
「ウォォォォォォッ」
獣の遠吠えが聞こえるとともに獣と人はその『聖獣』に群がっては切り裂き白を赤へと染め上げた。
しかしながらそんな白の獣もただでは死なず口から赤や青の奔流を辺りへぶち撒き鉄と肉を燃やした。
その奔流は伝播し人から人へ地の草から草へと燃え広がるがそれでも脚は止めずに走り続けた。
「火を恐れるな…我らが背後へと愚物は通すなッ!我らが後には部族がおり己が前には王が戦っている…故に共にあるが為戦えッ!」
先頭に立つ者が吠え戦場にその声が響きその場にいた全てを鼓舞する。
獣と人は希望に魅せられ城壁の上に立つ神官はそんな愚かな姿に嗜虐心を掻き立てられた。
相手がただの獣であれば言葉は理解せずにただ戦うのみだが相手が人であれば話は違い全ては筒抜けとなる。
神官はこちらを嘲笑うかのように走ってくる同じ人へ魔法を放つ。
それは炎であり草を燃やしそれは風でありその炎を広がる。
だがそれでも止まらぬ為獣人族を前に出して首に短剣を食い込ませる…あれに少し力が加わるだけで首からは空気と血が抜け物言わぬ亡骸へと変貌するだろう。
人は同族の為躊躇し立ち止まるそして白い獣と炎によって集団は姿を変える…それが本来の道筋だったがその時になって声が轟いた。
「勇者王のお通りだッ!お前ら我に続けッ!」
遠くのロンフェールからそんなレギスタ王の声が聞こえてその躊躇や恐怖は上書きされてただ突き進む。
…その声と共に目に映る赤く赤熱したような空に黒い炎が見えた。
「…やはりあの場所に傲慢の王と共にいるのか」
「あのッ!…その白い髪…もしかしてレナちゃん?」
私が今なお燃え盛るロンフェールへと足を進めようとしたところでそんな声が耳に入った。
その声に引き寄せられるように視線を向けると煤ぼけた服に包まれてはいるもののその上品さが無くなってはない少女がいた。
「…カルメア、嬢」
「見つけた時はあんなに身体が傷ついていたのに…なんで、いや…それは後でもいいわね」
カルメア嬢もあの会場から必死に逃げてきたのだろう。
その顔には疲れが見え大事な顔には一筋の切り傷すらあった。
「貴女は、戦場にいる貴女の主人の元へ行くのでしょう?」
そのこちらを優しく包む声と共に抱きつかれた…そういえばこうして誰かに抱かれるってのはいつぶりだったか?
抱きつかれるという不意打ちに内心ドギマギしながら声を出さず静かに視線をカルメア嬢や空や周りに映しているとダルク坊や子爵様、侯爵様が周りの負傷者の手伝いをしている姿が見えた…皆軽傷だがその顔は苦悶に満ちた表情だ。
そして私はカルメア嬢の質問に答えるように顔を下に下げた。
「そう、そうよね…貴女にはアルキアンがいるものね…なら胸を張って行ってきなさいッ!」
言い終わると同時に身体を持ち上げられて無理矢理正面を向かせられた。
背後からは鼻を啜るような音が聞こえる…私が身につけた革装備は雨でも降ったような雫が染み込んでいる。
「わかった…行ってくる」
そして私は前に見える先立ちにならい走りだした。
あの涙は私の為に泣いてくれたのだろう。
そう思うと何故だが胸が熱くなり身体は軽くなった…こういうのをもう何も怖くないとでもいうのだろう。
精神的にあの壮年の神官と戦い絶望的な戦力差で覚えた恐怖心すら忘れられる。
虚空庫から琥珀色のナイフを取り出して強く握り締め首にある外套用の紐を硬く結ぶ。
コレで準備は出来た…ついでに虚空庫から魔石を取り出して仮面をずらして口に含む。
私の大罪とも言える『暴食』の副次効果ともいえようなんでも消化できる能力で魔石も消化できる。
魔石内に蓄積された魔力を体内でゆっくりと吸収することができる緊急用のライフハックだ。
まぁ…あくまでも緊急用ですぐさま魔力を吸収できるわけではないのが難点だが。
脚に力を入れて全身に魔力を回す…足の底に空気の層を作り出してそれを一気に爆破させるそんなイメージで。
足を前に出し前へ前へと前進するその時に空気を圧縮し魔力で爆発を生み出す。
チャージは最小限で最初の爆発的な加速さえあれば良い。
「これで行け…我流戦闘術…膩ノ術『神風脚』ッ!」
実験は成功した…あの時は考えもできなかった応用が出来る。
走っている途中での急加速に緊急回避すら実用化出来る歩法が実現した。
勢いづいたその加速は最後尾で燻り震えている小心者の背中を越して避けきれない時はその加速に身を流して宙へ身体が投げ出されるように上昇する。
そんな宙に舞った私は周りから見れば身動きが取れず態々自らの領域に踏み入れた餌と認識されたのか白い獣は宇宙から鳥が啄むように私の元へ落ちてくる。
身体に魔力は既に回しており後はコレを腕に…そうして手に回してナイフに伝える。
「…続けて参ノ術『盲震』」
ナイフがその口に導かれるように当たり振動が伝わり軌道が変わる。
コレは所謂『パリィ』という一回の物理攻撃のみをあらぬ方向へと曲げる攻撃。
相手は何も分からず当たったのに当たっていない感覚でその大ぶりは地に導かれる。
「それじゃあ私の足場となって大人しく落ちてくれ…先を急いでいるんだ」
すぐ横に落ちる白い獣の毛に脚を入れ込み蹴っていく。
腕に流した魔力を脚に回して後はタイミング良く蹴りを入れて足場とする。
「目が覚めた今日は運が良いらしいね…続けて膩ノ術『神風脚』ッ」
そうして私は一緒に地に向かって落ちゆく獣の背中を足踏みしまた宙へと飛んだ。




