246
身体のいたるところから悲鳴のように木材が軋むような音を立てる音が耳に入り目が覚める。
見えた天井は何処かの獣の体内を表す赤ではなく人の知性と技術を示す布の姿が目に映った。
「…知らない天井だ」
ふと横に目を映せば全身に包帯のような布が巻かれた人型のナニカが置いてありそこからは久々に嗅いだ薬草の青臭い臭いを漂わせていた。
上半身を起こして周りを見るとそんな全身包帯を巻かれている奴らが一杯ここにはひしめいていた。
そうして寝ぼけていた脳が覚醒したことで周りの音が聞こえる…悲鳴や唸り声、それに何かに対しての慟哭が聞こえる。
目を移し自分の身体を見た。
どうやら私も彼らと同じく包帯に巻かれている…まぁ手足が短くなっているのはかなり気になる所だが。
厳密に言えば左半身の全てが短くなったといった方がいいのだろう。
手先と足先の指が丸まり動かない…あぁコレはおそらくだがあの獣の胃液で溶けたのだろうな。
あの時『聖獣』に喰われ咀嚼されて胃の中に落ちた時欠損したのだろう。
…そこからすぐに私を喰らった奴が倒されたのはまさに幸運だったと言える。
右手でその左腕の包帯を外すと皮膚が溶けて所々に骨と筋肉が露出した姿を表した。
「まぁコレぐらいなら治るか…『回生』」
底つきそうだった魔力はこうして眠ったことで全快とはいわないが回復したためそのリソースを使って身体を治していく。
するとどうだろうか先程まで丸まっていた指先は骨が戻り筋肉が生えて皮膚が戻っていく…見ている分にはかなりグロテスクだが見る人が見れば生命の神秘と崇められることだろう。
「コレで包帯を外しても問題なさそうだな」
そう小さく言いながらもう一度周りを見る…今気が抜けていたせいもあったがこの光景を見ていた奴がいたのなら口止めしとかなくちゃいけないからな。
だが私を見ている奴はいない。
まぁ今のところを見ていた奴はいないということでおーけーなのだろう。
そうして周りを見渡した時に見えた黒い外套に手を伸ばす。
どうやら私が着ていた物は枕元に置かれていたみたいだ…なんか私のものではないやつも混じっているが。
とりあえず胃液でも溶けなかった《星の魔術師》の外套と左半身がボロボロで所々溶けてなくなったパーカーとカーゴパンツだけを手に取った。
「お気に入りだったんだが…まぁしょうがないか」
口の中に落ちた時に外套が右半身に寄ってしまったせいで左半身が守れなくなって服まで溶けたがコレがなければ全身溶けたり大火傷間違い無かっただろう。
どうにかして直すことができないだろうかと虚空庫から針を取り出し糸を通して縫おうとしたが素人の自分がやったら店でも直すことができなくなるんではなかろうかという思考がよぎり虚空庫に戻した。
代わりに普通の革装備を取り出し身につける。
コレは確かいつしか買った露店の掘り出し物だったかなんか凄い硬い革を持つ魔物で作り出した貴族に作らされた子供用の防具だそうだ。
まぁ訳あってそれは着られることがなかったようでその素材にしてはかなり安売りされていたところを買ったわけだ。
「そろそろここを離れるか…」
革装備の上に外套を被さり顔にはお面を付けるとこのテントから出ることとした。
周りの奴らは痛みに悶えるように唸り声を鳴らしている…本当なら村で私が使った鎮痛の結界魔術を使えばいいのだろうけどここで無駄に魔力を使えば後々私が不利になるのは明確の為見えず聞こえずを貫き通す。
外に出ると空は真っ赤に染まり火災が空を照らしていた。
遠くに見える轟々とした灯りはここまで熱風を運んで獣の肉が焼ける匂いが鼻から脳に貫いてゆく。
ここまで見ればわかることだが本格的に何処かとの戦争に巻き込まれているってのが理解できた。
地面には白と茶色、それに赤が混じり汚くなった『聖獣』が転がり息絶えておりその口には絶命した獣人族の姿がある。
特に噛まれず飲み込まれた私の小柄という身体は幸運だったのだろう。
そうして見渡せばちょっと離れたところで人集りが出来ており私はそこにつられるようにしてそこに移動していく。
「皆の者我々の国は今聖なる国と騙る邪国により襲撃を受けているッ!…我らが信じていた騎士は叛旗を翻し王を討とうとし邪国に魂を売りつけた蛮族に成り下がった…これは我ら獣人族の冒涜を意味する行為だ、誇りを傷つける行為だッ!蛮族、それに邪国を許してはならない…今こそ我ら獣は団結しその牙で愚かな者を噛み殺す時也ッ!」
「「「今なお王座で闘う王を助け、蛮族は噛み殺せッ!」」」
「我らは邪国から虐げられたあの日を忘れることはない…今こそ咆哮を上げ彼の祖先達と同じく英雄となり我らが国を家族を護る爪となれッ!」
「「「オオォォォォォォォォッッ!」」」
「我らが冒険者と有志の市民、そして他国より来訪せし武の貴人よ…信ずる家族や族を背に思い…行くぞォォォォッ!」
轟音響かせ足音を鳴らし走り行く。
その先頭には先程扇動している胸に銀の剣がクロスした勲章を持つ男、ギルドマスターが手に武器を持ち今もなお燃え盛る国へと突撃していった。
貴人ということはこの国に来ていた貴族もあの団体にいるということ。
ならば走って行ったのは側付き人の騎士やらなんやらなのだろう。
「ということはあの中にアルもいるのか?」
そう思い目を凝らし見渡していると高貴で派手な服を着た集団が見えその中にこの国で友となったあの二人の姿が見えた。




