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…アルキアン side…
僕は下に転がり首の根本から斬られた神官の姿を見る。
もはやコレではあの時のような『聖句』を述べることもできないだろう。
「いや、それは流石に臆病になり過ぎかな?」
あの『聖句』とやらの言葉を神に伝え自らを変える能力は階位が高くなければ使えないとのことだし…今殺したこの神官には使えないか。
言葉を紡げなければこうしてただ無為に転がって死に伏せるだけだ。
「アルキアンよ…まだ来るぞッ」
首が取れた亡骸を見ていると当主様が僕の不注意に叱責する。
まだ戦いは終わってないことを知らせるその言葉に前を向く。
扉からはその服の端に血をつけた神官がゾロゾロとこの会場へと入ってくる…そしてその背後から白色の獣が連れられるようにして入場してくる。
最早会場内は大騒ぎだ。
文系の貴族と側付き人は傲慢な一声に当てられただ敵に無謀に突撃する暴徒と化した。
理性と気品を至上として纏う貴族など此処にはおらずただ騒乱に紛れる。
獣人族は元々戦闘民族の為戦闘の心得がありそこそこに戦えているが時間に経つに連れてその有利性も無くなり地に伏せてしまうだろう。
此処から逃げようとしても此処は崖を切り出して作られた洞窟そのもの。
窓なんて無く外へ出るにはあの神官どもを殺すしか道はない。
「ここで…聖獣か…神官どもよりよっぽど面倒な相手が出てきたな」
「あれが噂に聞く聖国が従える獣ですか…遥か昔より現れし神が連れてきた人を殺し喰らう魔獣の一種」
純白の羽根に慈悲のあるような澄み渡るような空の色を映した青色の瞳の獣。
併せて言えば神話にある神獣のような姿ではあるがその実聖国の神が従えていると言われている他国を攻め入る魔獣だ。
何千、何万の兵士や騎士がそんな『聖獣』に喰い殺されたのだ…今更聖なるという意味など持てないだろう。
周りを見ればそんな獣へと突撃する貴族が見えて散って行く。
ある人は獣に辿り着く前に神官に急所を突かれて血を吐いて転がりまたある人は獣へと辿り着きその爪や牙で切り裂かれその白を赤に染める。
「皆の者…俺を援護しろッ!大技の準備の為大義を尽くせッ!」
王の咆哮、無慈悲にも聞こえるその言葉に会場内の貴族は行動を表してしまう。
傲慢の支配者が声を轟かせ横暴に命令を下して大義を口にする。
その言葉の通りに大衆は動く。
怯えながら戦っていた者や死を恐れ強張っていた者はもうおらず皆がその神官と獣に身を投じる。
打たれて倒れようともしがみついて動きを封じる。
数としては僕達の方が上回っているだからこそ動きを封じられているのだろう。
コレでは僕が斬りかかってしまうと間違って他の人を斬ってしまいそうだ。
当主様もそれは僕と同意見のようでどうしようかその場に立ち止まっている。
こんな非道ともいえよう命令を下した傲慢な王は笑い爪を獣に合わせる。
「準備完了…皆の者離れよッ!…ぶっ飛べッ!勇気ある獅子の一撃『ブレイブインパクト』ッ!」
爪は魔素を帯びて輝く…傲慢の放つ言葉で大衆は大部分が転げ落ちたが声の届かなかった数人は未だ神官と聖獣を縛りつける。
そして光が瞬き収束し拳に魔力が宿り爆発する。
その行動に僕は止めようと…まだその射線上に残る大衆である貴族を逃そうと足を動かそうとしたがもう遅く光と轟音に包まれた。
傲慢に呑まれた大衆もその当人も光は飲み込み正面にある全てを衝撃は破壊してゆく。
「その犠牲…大義であった…この王への忠誠は決して忘れず俺は覚えておこうッ!」
残ったのは赤く染まり崩れた通路に白が茶に染まった毛皮に先程までその胃袋にあったであろう内容物。
腐臭が漂い風下にあるこの会場へと流れてくる…また救うことが出来なかったと悔いる。
決して全てを救いたい博愛主義という愚者の思考は持ち合わせていないがもっと強ければとつい思ってしまう。
「いや…これは傲慢かな」
そう呟いて此処から離れるために歩き始める。
傲慢の王様は自分の生み出した犠牲を一瞥すると多くの者を救う為に自由に一人ここから駆け出して街へと向かった。
それに続いて大衆に成り下がった貴族はそれに続き歩幅は違うが駆け出して行く。
「そろそろアルキアン…行くぞッ!一人の貴族としてここに居ては後から何と噂されるか怖い所からな」
「分かりました当主様…行きましょう」
僕の身にその場に満ちた王様に実質殺された怨讐が渦巻いている。
その怒りを身に走り去った大衆へと走った。
「オォォォォッ!俺の、俺の国が…あんのクソ国にこうも荒らされるとはッ」
そしてあの美しきテラスに駆け上がるとそこから街は一望できた。
通路も、見えた亡骸もこの国の至るところ全てが眼前に広がる。
死臭と燃えた硝煙に肉と内容物が焼けた惨事の景色。
宇宙からは獣が此方へと堕ちようと待っており神官はこの国の住民と取っ組み合いをしている。
一言で言えば襲撃…それも聖国からのだ。
「皆の者殺せッ!全力でだ…我に続き全てを殺し尽くせッ!」
王様は爪を長くし指揮をとるようにしてこの国全てに届く命令を下す。
民に神官と聖獣を殺せと言い放ち大衆はソレ目指して走り出す。
そしてこの場には五人が残った。
一人は命令を下してこんな襲撃中に指揮官を気取る傲慢な王様。
二人はその器量と卓越した武力を誇る当主様とこの大罪者である僕。
「ククク…やはり傲慢ですなぁ」
「…なんて無沙汰なのかしらね」
そして最後に自らの王に従うふりをした嘲笑する二人…この国の誇る騎士団の長がそこには居た。
「命令を下す…『百獣軍』よッ!今こそ叛逆の時なりッ!」
…アルキアン side end…




