244
…アルキアン side…
レギスタ獣国のライオット王がその身を獣に転じて黒獅子としての力を奮う。
人族の貴族が壁に背中をつけて逃げようとしている中で血の気の多い獣人族はテーブルの下に隠していた武器や防具を身につけると今にも襲うと虎視眈々と狙っている。
だが誰も動かない…ライオット王が戦っているからだ。
下がっていろと放った言葉によって皆下がってそれを傍観しているのだ。
声を荒げ王はその大きく鋭い爪を振い空間と風を捉えては掻き乱す。
扉から入ってきた神官は笑顔でその爪を避けてはメイスを振り下げる。
そのメイスは先端が尖りどちらかというと槍のようだが王に当たった瞬間鈍く会場内に響き渡るような重低音を鳴らす。
未だ青年の神官は笑顔で傷一つ付かない…そんな中扉の先から返り血を浴びた神官服を着た戦っている青年より歳が低いであろう少年が顔を出した。
それに続き一人また一人と神官は増えて行く。
その全員が血を浴びており無傷で笑顔である。
外にいた騎士や兵士は全滅でもしたのだろうかそんな心配をしていると王の命令を無視する二人が皆より前に歩き出した。
一人はその手に金属の爪を嵌めたターナ家の御息女、そしてもう一人はその手に…指と指の隙間に剣を差し込むといった異様な武器を持つこの国の最高戦力である騎士団長が前に前にと歩く。
「王よ…そろそろ我々も宜しいかな?」
「……皆ども俺に、この勇者王に続けッ!」
そんな問いを王へと話すと王は顔を苦虫を噛み潰したように少し歪ませたかと思うと大声で指示を出す。
その声に呼応するようにして武器を手に取った皆が遠吠えを上げて走り出す。
獣人族はテーブルの下に隠してあった武器での攻撃を神官にして行くが我々人族の貴族はここに来る前に武器は没収されている為武器が無い。
それは例え一緒に来ている側付き人であろうと同じ…人族はそれぞれができることをして行く。
ある者は魔法での応戦をしまたある者はカトラリーの小ぶりのナイフを手に走り出した。
陽動をした王はそのままその青年と一進一退の攻防戦をしているように見えるが青年の方が技量が上のようで若干押し負けている。
そんな王に進言し皆を戦いに巻き込んだ騎士団長はその異様な武器で少年と踊りのような剣舞を繰り広げていた。
…トゥランベル嬢は何故かその場で騎士団長の戦いを見ているだけだ。
「さて…そろそろ盟友として助けに行くとしようかアルキアンよ」
その有り様を観察していたがすぐ側にいた父上がそう呟き何処から持ち出したのか分からない剣を手に持つ。
その背後はこの場の威圧に負けて伸びている小心者で幼い側付き人見習いの獣人が倒れている…まぁ戦い慣れしていない奴にはしょうがないことなのだろう。
それに倣い僕もその小心者の側に落ちていた短剣を手に取った。
ふと前を見るとある神官が丁度こちらへと獣人族達の頭を蹴り空を舞い遊びながら近づく姿が見えた。
隣にいる父上は両手でその剣を持ち構えをとり剣先をその空を舞う神官に向ける。
「アルキアン…準備は良いな?」
「はい…父上、いえ当主様」
気を引き締めて家族の呼びを変える。
今からは戦いの時間だ…だったら僕は騎士のように振る舞う。
怒りを力に変えるように手に持っている短剣をギュッと握り締めて黒い炎を煮えたがらせる。
隙の一瞬ともいえる神官が空を舞いこちらへの視線を切り背面を向けたところを合図に走り出す。
当主様は僕より速い神速といえる速度で駆けてその神官の前まで来ると剣を振い叩き落としたかと思うと重力を操るように空を蹴ってその神官を追いかける。
我々レイアン父上を当主様としてレインバード領を治める伯爵をイードラ王国から請負う。
我々の一族は王国の端にあるからこそ近き国との外交、国外から侵略せんとする魔物の悪夢ともいえよう行軍の掃討、貴族としての領土繁栄を得意とする。
つまりはこの場にいる文系の貴族共を一人で薙ぎ倒す程度には鍛えられた精鋭の武闘派一族だ。
「僕もやらなくては…憤怒の炎よ形を成せ『瞋恚武装』」
胸に秘めていた怒りが燃え盛るように身を包み身体の節々からその黒い感情が乗った炎が吹き出して形をとる。
片手にある拝借した短剣に隠された持ち主の怒りに呼応しそれは実直で曲がりもしない黒い炎に包まれた直剣へ形を変える。
恨みにも似た怒りの声が耳に聞こえ「何故こうなったのだろうか」「奴を撃ち倒せ」という怒りが支配すらように理性を包む。
怒りに身を任せ理性を保ちただひたすらに炎を操る。
憤怒の炎を操り自分の精神が焼き尽きる前に全てを終わらせる為ただ身を動かす。
これの感情が矛盾していようともそこから生み出された憤怒の炎は本物であり原動力で僕を突き動かす全てだ。
「怒りを以って切り裂けッ!」
憤怒を身に保って他人の怒りが籠った直剣に自分の怒りを混ぜ合わせ怨念を込めた一撃を放つ。
目の前に落ちてきた神官に横凪を喰らわせようとすると神官がその笑顔を恐怖に変え近づく炎を防ぐように盾を前に出すが…。
「僕だけに注目していて良いのかい?」
「……ッ!」
その真意を知ると同時に前に出した盾を急遽天に掲げようとするが…その一挙動がもう遅く。
落ちた神官を追いかけるように空を蹴った当主様が盾に塞がれる事なく心臓目掛け貫いた。
「…だからと言って僕のことを忘れてはいけないよ」
そして僕は無防備になったその首を声帯もの共直剣で叩き切り落とした。
…アルキアン side end…




