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…アルキアン side…
「…話は変わりますが我らが国の太陽の戦神であられる騎士団の長の娘との婚約はどうなされたのでしょうか?」
「本人との先日我々同士の会談によりアレはほんの冗談だったようで…後より騎士団長様よりお聞きになされてはいかがでしょう?」
「あ、アルキアン殿ッ!今お話よろしいでしょうか?」
一人話しては去っていき一息吐こうとする間もなく反対側から自分へ問いかける声が聞こえて振り返る。
僕の周りには人集りが出来その一挙一動を舐め回すように観察してくる。
粗探しに見定め、ありもしなくなった婚約の話ばかりが耳にこびりつくようにその口から聞こえてくる為少し泣きたくすらなる状況だ。
そんな近くにいるんだから今僕が言った言葉は届いているはずなのに耳に残らないのか聞き返してくる者がいるのだ。
もはやこちらを面白がっているのでは無いかとすら思う。
いや実際こちらを面白がっているのだろうけど…全く僕らしく無いがあのお嬢様には怒りが込み上げてくる。
…昨日一日中二人で話をしたが返ってくる言葉は「話題になりそうだったから…でも貴方の事は本当に強いから好きよ?どう?ワタシの側室にでもならない?執事でも良いわよ?」という此方を馬鹿にする言葉ばかりだった。
何とも傲慢なのだろうかと言いそうにはなったがここに表立っている限り僕は僕ではなく貴族…それも父の息子としての僕だから言葉は選ぶ。
怒りを制してそういった貴族に対した言動を話す。
僕の周りには輪ができており少し目を写すとその先には例のお嬢様がいる。
つまりは僕とお嬢様二人を囲むように輪が出来ているのだ。
所謂話題の二人が話しやすい環境を作っている…全く勘弁してくれと言いたくなる。
この囲みのせいでレナもどっかに行ってしまったし。
「どうも良き宴ですわね?アルキアン様?」
そうして時が来た…話題が大きくなってしまうその時があちらからやってきたのだ。
憎たらしい笑顔を貼り付けその表情の奥で見下す感情を持つ瞳で此方へと近づいてくる。
今の僕の額を見たらきっと血管が浮かぶのが見えるだろうなと思うぐらいに顔が沸騰したように熱くなる。
もうこんなことまで発展させたコイツに腹が立ってついぶん殴りそうになるが自分の手を抑えて周りの人と同じく表情を隠して仮初の仮面を貼り付けた。
「えぇどういたしましたか?トゥランベルお嬢様?」
「ん?…ん…何でもありませんわ」
そう言うと少し黙り此方へと口を開け口パクでゆっくりと「また後で」と開けて離れていく。
その瞬間やられたと思ってしまった…そのまた後でという口パクは読唇術を使えて基礎知識でもある貴族にとっては悪手。
見せつけるように放たれた口パクは話題を広げる。
先程まで話をして離れていった貴人さえ今のはどういうことなのか真意を確かめるために今か今かと僕に話しかけようと機会を狙う獣に転じた。
意味深な言葉に言葉足りず、それに相まって貴族としても常人にしても経験が足りない生娘としての言葉。
人は話題を探し僕へと言葉をかけてくる…貴族にとって武器とは戦いで培うスキルや経験ではなく人としての経験と口を開けいかに豪華に飾るかのポエムと嘘と真実を混ぜ彩り語る詐欺師としての才能だ。
そうして試すように貴族は口を紡いでくる…コレは僕を陥れる為の戦争なのだ。
…少年舌戦中…
そうしてその言葉を探り一方的に話しかけられていた戦争は急に終わりを告げた。
バタンという大きな音を立てて入り口に立っていた誰かの側近風の魔法使いが倒れたのだ。
1人目の時はただ酒によって倒れたのだろうと誰もが思い笑い飛ばしそのままにした。
だが2人目、3人目となると違ってくる。
入り口近くに集まっていた同じく魔法使いが倒れるとありもしない想定が口から放たれ僕達の話題など消し飛んだ。
その混乱に乗じて僕は誰にも目を合わせないようにしながら僕と同じく先程まで遠くで舌戦を繰り広げていた父上の元へと近づいた。
「お父上…」
「あぁ…アルキアンか…疲れたな」
近くまできて見た父上の顔は疲れ切っており目頭を抑えながら天井を見上げていた。
直接こうには言えないがお父上ももう結構なお年だし兄上に代が継がれるのも近いということなのだろうか?
昔には見られなかった節々に見える白髪がやけに目に焼き付いた。
「全く、ターナ家の血筋に狸や狐の血など混ざって無かったと記憶しているんだがな」
そう言うとため息を吐いてテーブルに置かれていたワインを手にとると口の中へと傾けた。
そうしてワインをそのまま飲みきると同時に会場内全体に悲鳴が響き渡った。
入り口に固まっていた最後の魔法使いが倒れたのだ。
各貴族はそれを呪いだの闇の魔法によるものだの狐一族の祟りというありもしない噂が広まる。
そして入り口の扉は開かれる…開かれたその奥からは血みどろの獣人族が顔を出し会場内に緊張が走った。
「王様…敵が…あのクソ国が攻めてきましたッ!」
血で濡れた獣人族の騎士そう言うと腹から一つのレイピアの剣先が飛び出して轟音を響かせた。
報告をした騎士は光を発した後内臓と鎧の破片を飛び散らせて地に伏して人族の貴族は言葉を失いただ逃げたい一心で壁へ背中を押しつけた。
血の飛沫が空を舞い騎士が崩れると背後には神官の姿をした青年が笑顔でその場に立っていた。
「こ、この…ッ!皆ども下がれ…この俺が一片の肉片残らずクソ野郎どもを殺してやるッ!」
そんな傲慢な一声が飛ぶと共に黒い影が神官目掛けて飛んでいった。
…アルキアン side end…




